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#50理学療法士の中国リハビリ記録【康复の道——僕が中国で出会った人々】
《康复(カンフー)とは、中国語でリハビリの意味》
僕は今日も山東省で理学療法士としてリハビリの現場に立つ。慣れない医療環境、母国語でない言葉、文化の違い——まだまだ戸惑いの連続だ。しかし、それ以上に僕の心を動かしたのは、ここで出会った患者たちの人生だった。
彼らの中には、かつて家も車も持ち、家族に囲まれて安定した生活を送っていた人がいた。しかし、病気や事故によってそれらを失い、リハビリを余儀なくされることになった。未来への不安、家族への申し訳なさ、自分の価値を見失う苦しみ。
元エンジニアの嘆き
ある日、50代の男性患者・王さんがリハビリにやってきた。彼はかつて大手企業のエンジニアとして働き、高収入を得ていた。しかし、突然の脳卒中によって半身麻痺となり、仕事を失った。
「私はもう役に立たない人間になった」と王さんはつぶやいた。
リハビリをするたびに、彼の苛立ちが伝わってきた。思うように動かない手足、元の生活に戻れない現実。彼の目には、自分を待つ家族の落胆した表情が映っているようだった。
「家族に申し訳ない。みじめな姿を見せたくない」
その言葉に、僕は自分の親の顔を思い浮かべた。僕もまた、親の期待とは違う道を歩み、そのことで彼らをがっかりさせているのではないかと悩むことがある。でも——。
「王さん、リハビリはただ身体を治すだけじゃないですよ」僕はゆっくりと話した。「今ここで、もう一度自分を取り戻そうという取り組みだと思います」
王さんは黙っていた。
どう思ったかは、わからない。
彼は黙々とリハビリに励み続けている。
家族のために歩く人
次に出会ったのは、70代の女性・李さんだった。彼女は息子と二人暮らしで、数年前に転倒し、大腿骨を骨折し、麻痺も患って歩けなくなっていた。
「息子に迷惑をかけたくないんです」
そう言いながらも、彼女の目には諦めの色があった。長い間、ベッドの上で過ごし、リハビリをしても成果が出ず、希望を失いかけていたのだ。
「でも、お母さんが元気になったら、息子さんはきっと喜びますよ。僕もそうですが、子供って」
彼女は目を幾分か開いて、はっとした顔をした。
それからの彼女は、痛みに耐えながらも懸命に足を動かし始めた。「もう一度、息子と一緒に市場に行きたいんです」そう言った彼女の顔には、以前にはなかった力強さがあった。
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支え合うことの意味
僕が中国で出会った彼らは、皆、それぞれの苦しみを抱えていた。でも、リハビリをしていく中で、少しずつ心身が変わりゆく姿を見て、僕自身もまた学ぶことがあった。
僕はいまだに親を心配させている。40代、異国で暮らす僕、妻子もない。でも、僕が誰かの人生を少しでも良くすることに触れられるのなら、それは生きる意味になる。
親の期待に応えられないことを悩んでいた僕だったが、ここで患者と向き合う中で気づいた。人の価値は、肩書きや財産だけで決まるものではない。病気や障害を抱えても、人は前に進むことができる。そして、誰かと支え合いながら生きていくことができる。
親に誇ってもらうことよりも、自分の生き方を誇れること。そう思えたとき、僕の心は少しだけ軽くなった。そして見守ってくれる存在に目を向けた時、前に進めた。
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退院後のリハビリを引き継ぎお話に出向いた。
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