#27中国リハビリ記録【オーストラリアへ夢を追いかけ飛んだ彼】 No.1
留学の夢が壊れた夜
中国の地方都市にあるリハビリセンター。僕が途中から担当することになった患者、浩然(ハオラン)は22歳の大学生だった。彼は被殻出血という脳血管障害で倒れ、リハビリ生活を送っている。
浩然は、オーストラリアに留学して未来を切り開こうとしていた矢先に倒れたと聞いた。その話を聞いた。落ち込むだろう状況なのに、浩然はいつも明るく笑っていた。
「目標は、留学の夢を叶えることかな?」と声をかけると、浩然はにこっと笑い、「はい、きっと大丈夫です」と答える。その笑顔を見て、僕は「彼は強い子なんだ」とシンプルそう思った。
しかし、そんな僕の考えが揺らぐ出来事が起こる。
中国人スタッフの言葉
ある日、同僚の陳(チン)さんがつぶやいた。
「浩然、あの笑顔の裏で何か隠してると思うんだよね」
「隠してる?どういう意味?」僕は首を傾げた。
「彼の話し方や間の取り方、何となく不安そうに感じがするんだよな」
「いやいや、明るくて素直な子じゃないですか。心配しすぎじゃないですか?」僕は苦笑した。
けれど、陳さんはまじめな顔で続けた。「彼は自分の気持ちを隠すのが上手いんだよ。でも、たまに漏れる。例えば、目線の動きや話題を切り替えるタイミングにね」
僕の中国語レベルでは、その微妙なニュアンスを感じ取れていないのだろう。それ以来、僕は浩然の言葉や態度を少し注意深く観察するようになった。
笑顔に潜む違和感
翌日、リハビリ中の浩然と再び会った。彼は今日も笑顔を見せていたが、僕は何か小さな違和感を感じた。その笑顔がどこか硬いのだ。
「浩然君、調子はどう?」僕はいつも通り声をかけた。
「悪くないです。でも……」と言いかけて、彼は一瞬言葉を飲み込んだ。「リハビリ、がんばります!」と笑顔で付け加えた。
「でも……?」僕はその言葉を返したが、彼の目はすでに笑顔の仮面をかぶり直していた。
「いや、大丈夫です!」浩然は急いで話を打ち切ろうとした。
僕はその言葉の裏に何か隠されているように感じたが、無理に問い詰めることはできなかった。
不安の正体を探る
その日の午後、陳さんに再び話を聞いた。
「浩然君、やっぱり何か抱えてる感じがしますよね」と僕が切り出すと、陳さんは即座にうなずいた。
「でしょ。彼、笑顔で隠そうとするけど、あの『でも』が本音だと思うよ」
「でも、彼の未来は明るいはずじゃないですか。留学のチャンスもきっとまたあるし、回復も順調だし」僕は少し焦りながら言った。
「そう思いたいのは彼も同じだと思う。でも、未来が明るいと信じるのが一番怖いのかもしれない。信じた結果、叶わなかったらどうしよう、って」
陳さんの言葉にハッとした。浩然は未来への希望と絶望の狭間で揺れているのかもしれない。