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#16 理学療法士の中国リハビリ記録【異文化・同業者交流−未来の友を作るのは簡単ではない】
旧暦の新年、いわゆる『春節』が終わり、春の気配が漂い始めるころ、僕はまた一つ学会発表を迎えた。リハビリの時間を縫うように学術交流の機会が続いていた。
もちろん、いつも順調に進むわけではない。僕のもう一つの活動、現場での病院訪問には、別の試練が待っていた。
近隣地域の病院を訪れる日々が始まった。訪問先の病院によって対応はさまざまだ。
白衣の歓迎
ある病院では、僕を歓迎するために白衣を用意してくれていた。その白衣は新品のように真っ白で、袖を通すと心地よい緊張感とともに「ここで何か役立てるかもしれない」という期待感が湧き上がる。院長やスタッフたちが集まり、僕の説明に真剣に耳を傾けてくれる。
また時には、患者のリハビリに立ち会い、その場でアドバイスを求められることもあった。そんな瞬間は、この地で活動する意味を強く感じられる貴重な時間だ。
冷たい壁
すべてが歓迎ムードばかりではなかった。
ある病院では、そっけない対応を受けることもあった。僕が話しかけても、返ってくるのは短い言葉や曖昧な笑顔だけ。
時には、スタッフが僕を無視するような態度を取ることもあった。その空気は冷たい壁のようで、胸がぎゅっと締め付けられるようだった。
病院を出ると、思わずため息が漏れる。「自分のやっていることは、本当に意味があるのだろうか?」と自問自答する日もあった。
未来の友
へこんだ時には、自分にこう言い聞かせるようにしていた。「いまはそうでも、未来ではきっと友になれる。」そう信じることが僕を支えていた。
僕たちは、少なくとも「人を支えようとする気持ち」を共有している。同じ医療やリハビリという目標に向かっているのだから、今は分かり合えなくても、いつかはきっと。
ある日のことだった。訪問先の病院で、僕が過去に訪れた別の病院のスタッフに再会した。彼は笑顔で僕に歩み寄り、こう言った。「先生のアドバイス、あのときは半信半疑でしたが、患者さんのリハビリに役立ちました。
その言葉は、疲れた心に染み渡るようだった。たった一人でもいい、僕の言葉が誰かの役に立てたのなら、それで十分だと思えた。
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その何気ない、でも暖かい言葉は今でも忘れない。
続く足跡
訪問の日々は続く。白衣を用意してくれる病院も、冷たい態度を取られる病院も、それぞれに違う物語があった。
そして、その物語の中で、僕自身もまた新たな学びを得ていた。
夜、部屋で疲れた体をベッドに沈めながら、僕は思う。
「未来の友を作るのは簡単ではない。でも、僕が選んだ道は、そうやって少しずつ信頼を積み重ねる道なんだ。」そう自分に言い聞かせながら、次の朝を迎える準備をする。
翌日は、いつものリハビリがある。
いつかは分からぬ将来、振り返ったときに僕が残したものは小さな足跡かもしれない。でも、その足跡が、誰かの新たな一歩につながっていれば、それでいい。
そんな思いを胸に、僕はケーシーを畳んで眠りについた。
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