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#9 理学療法士の中国リハビリ記録【あぁ……なんてこと!大人の想いが子供の心を苦しめる】No.1

病院のテラスで

その日、南京の施設は穏やかな秋の陽射しに包まれていた。交通事故により指が動かなくなった15歳の少女、美美(メイメイ)は、1年半という長いリハビリの旅を経て、ここへきた。

その日も、僕は彼女のセッションを終え、僕は休憩時間にテラスで体操をしていた。背後にかすかな足音を感じ、振り返るとそこには美美がいた。

「先生……」彼女は少し躊躇いがちに、しかし流暢な英語で僕に話しかけてきた。

「I’m sorry for not being positive in rehab.[リハビリに熱心じゃなくてごめんなさい]」と美美。

僕は驚いた。彼女が自主的に話しかけてくることは稀で、特に英語でとなると、なおさらだった。僕はいまだ中国語が苦手、通訳のいない状況で少し戸惑った。

美美は目を伏せたまま続けた。

「I… I went to the mental hospital yesterday. I have a lot of pressure. I cried in front of the doctor.[私…ストレスが大きくて、昨日病院の精神科に行ったの。医者の前で泣いてしまいました] 」

「I see, Your mama must be worried about you, I think.[そう……。きっとお母さんは心配してるでしょう]」 と僕。

「No!  She said… Mum said crying in front of people is so ugly.[ぜんぜん! 人前でなくなんて、とても醜いって]」と彼女。

「Ugly?」僕は耳を疑った。醜い……。そんなことを母親が言うだろうか?

真偽はともかく彼女の声は震えていた。リハビリ施設を転々としながら学業と治療を両立する生活は、15歳の少女には過酷すぎるものだった。そんな彼女の話を聞きながら、僕は言葉を探していた。そして治療に没頭するあまり、彼女の心の苦しみに気づけていなかった自分を恥じた。

「美美、君はよく頑張っているよ」僕は日本語で優しく答えた。すると、彼女は少し笑って、片言の日本語で返してきた。

「先生、ありがとう。but、リハビリ、難しい。指、まだ動かないし……」

限界と葛藤

美美の指の動きは遅々として進まなかった。毎日の訓練が少しずつ進む中で、彼女の表情には焦りや苛立ちが時折浮かんだ。

ある日のセッションの終わり際、彼女はぽつりとつぶやいた。

「先生、私、本当に良くなるのかな……」

その声には不安と疲れが滲んでいた。僕は少し間を置いて答えた。

「美美、変化は小さいけど、でも動作がうまくなっているじゃない」

彼女はしばらく黙っていたが、小さく「ありがとう」とだけ返してくれた。その言葉の裏には、どこか諦めにも似た感情が見え隠れしていた。

小さな一歩

その日、美美の表情は以前よりも暗かった。リハビリを終え、施設の玄関を出る彼女の背中には、疲労と葛藤が滲んでいた。

「美美、またね」僕が声をかけると、彼女は一瞬立ち止まり、振り返って言った。

「先生、明日も頑張るけど……正直、辛いです」

彼女の目には涙が浮かんでいたが、それでも必死に笑顔を作ろうとしていた。その姿を見て、僕はそっと言葉を返した。

「辛いときは、無理して笑わなくていいよ。君のペースで進めばいい」

彼女は少し考えてから、静かにうなずいた。そして「明日ね」と言って施設を後にした。彼女の歩みはまだぎこちなかったが、わずかに前へ進んでいるように見えたのは僕の独りよがりな見解だろうか。

細やかな指の動きを求めていた美美。
リハビリや自主練のプログラムでは、目標に向けて多様性を持たせていた。

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JUNYA MORI
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