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#1理学療法士の中国リハビリ記録|紡ぐ新たな歩み、その一歩
暖かいおもてなし
20年目の療法士である僕は、中国の南京市で新たなリハビリ施設に入職したばかりだった。施設のオープンと僕の歓迎会を祝う宴が、その夜、市内の洒落た中華レストランで開かれることになった。
店内は赤いランタンと木彫りの装飾が美しく、どこか懐かしさと新鮮さが入り混じる空間だった。
夕方7時、レストランに到着すると、すでに多くのスタッフや地域の関係者が集まっていた。彼らは私を見つけると、満面の笑みを浮かべながら拍手で迎えてくれた。
若いスタッフが席に案内してくれ、「こちらが今日来られた森先生です」と紹介されると、場内の注目が一斉に私に向けられた。
すべてが初めてなのに、妙に感激して涙が溢れた。
「今日は、皆さんと一緒に新たなスタートを祝えることを本当に嬉しく思います。」
僕は中国語で挨拶を始めた。言葉に不安もあったが、全員が熱心に耳を傾けてくれた。その姿に安心し、さらに気持ちを込めて話を続けた。リハビリへの情熱や、20年という経験を生かし、中国で新しい挑戦を始めた理由を……。
そして、これから一緒に築き上げていく未来への期待を語ると、再び温かい拍手が会場を包んだ。
食事と会話
歓迎会は形式張ったものではなく、リラックスした雰囲気の中で進んでいった。テーブルには豪華な中華料理が並び、特に蒸した白身魚に香味醤油をかけた「清蒸魚」は絶品だった。一緒に座ったスタッフたちは、料理を勧めながら、私に親しみを込めて話しかけてきた。
「先生はなぜ中国を選んだのですか?」
「20年も日本で活動していたのに、新しい国で挑戦なんて……。」
彼らの興味深そうな表情に、私は自分の思いを語った。
「日本で学んだ技術や経験を、もっと広い世界で試したいと思ったんです。リハビリは国境を越えて、多くの人を助けられる仕事だと思うので」
そう語ったが、実際はそれだけじゃない。自分の生き方や生きる居場所、それを求めて旅する想いがあったのも本音だった。
彼らは深く頷き、「一緒に頑張りましょう!」と励ましてくれた。その中には、若い療法士だけでなく、地域の病院の医師や行政の担当者もいた。皆がこの施設の成功を心から願っているのが伝わり、私の胸は熱くなった。
小さな奇跡
その夜、一人の年配の女性が私の席を訪れた。彼女は地域のボランティアで、昔は看護師をしていたという。彼女はゆっくりと話し出した。
「先生、実は私の孫も交通事故でリハビリを必要としているんです。これから先生がここに来てくれることが、本当に希望になります。」
彼女の話を聞いて、私は言葉を失った。長い間、この仕事を続けてきた理由は、まさにこうした一人ひとりの希望に応えるためだった。彼女に「ぜひお力になりたい」と伝えると、彼女は微笑みながら頭を下げた。
新しい一歩
夜も更け、歓迎会は終わりを迎えた。帰り道、南京の街並みを眺めながら歩く。赤いネオンが川面に映え、暖かな風が肌を撫でた。ここに立っている自分は、まるで夢の中に佇んでいるように思えた。この街に来たばかりの私が、たくさんの人々に迎えられたことが信じられなかった。
ここからが本当のスタートだ……。
20年間積み重ねてきたものは、確かに自分を支えてくれている。しかし、この場所ではすべてが新しい。中国という大地で、また一つずつ築き上げていくしかない。
テラスに立って夜空を見上げると、雲の間から星が一つだけ顔を出していた。それは、どこか希望の光のように見えた。
次の日から、珠海のリハビリ施設での挑戦が本格的に始まる。それは、単なる仕事ではなく、人々の人生を再び輝かせるための物語の幕開けのはずだった。これが苦悩の始まりになるとは、このとき思いもしなかった。
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![JUNYA MORI](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/169376556/profile_b2fc2bac4ba3a19fbf200001797eaf35.png?width=600&crop=1:1,smart)