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#15中国リハビリ記録【学術派でもない理学療法士が壇上に立つ】
初春の朝、まだ冷たい風が頬をかすめる中、僕はシャツの襟を正しながら学会の会場へと足を運んでいた。今日は特別な日だ。家族や医療者が一堂に会し、医療知識や技術について意見交換する交流の場で、僕も発表者として壇上に立つことになっている。胸の奥で鼓動が速まるのを感じていた。
舞台の朝
会場に到着すると、暖かな照明が落ち着いた雰囲気を作り出していた。出席者たちが交流を深める中、僕は自分の発表資料を確認しながら、控え室で通訳者の李さんと最終打ち合わせをしていた。
趙(ザオ)さんは流暢な英語と日本語を操るプロフェッショナルで、これまでも何度か一緒に仕事をした経験がある。僕は彼女の冷静で的確なサポートには絶大な信頼を寄せていた。
僕の発表は「脳の統一論とリハビリへの応用」という内容だった。このテーマは、以前イギリスの大学で学んだ自由エネルギー原理に基づいている。
この理論は、脳の知覚や学習、行動を統一的に説明するフレームワークとして注目を集めていて、変分自由エネルギーというコスト関数を最小化することで、生物がどのように環境に適応しているかを理解する助けとなるものだ。
それをリハビリテーションや日常生活動作(ADL)訓練に応用するアイデアを、僕は熱意を込めて発表するつもりだった。
発表の時間が近づくとともに、緊張がピークに達した。壇上に立つと、目の前には興味深そうに僕を見つめる多くの聴衆がいた。その中には、白髪の目立つ医師や、患者を伴った家族の姿もあった。「これだけ多くの人々が僕の話を待っている」と思うと、よけいに心拍が上昇する。
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リハビリは「匠の技か」あるいは「汎用性のある科学か」について議論を交わした。
飛び交う中国語・日本語に内心は冷や汗
深呼吸をして話し始める。スライドに映し出されたグラフや図を指しながら、自由エネルギー原理がどのように脳の働きを説明するかを簡潔に説明した。しかし、僕の発言が日本語であるため、趙さんを通じて中国語に通訳される。
スライドを見せながら、「脳は自由エネルギー原理に基づいて、知覚や学習、行動を最適化します」と説明する。李さんがすぐさま翻訳するが、僕が少し早口になると、彼女がちらりと僕を睨む。あ、怒られた。
一番盛り上がったのは、自由エネルギーをリハビリに応用する話だった。「患者が学習するとき、失敗からどう学ぶかが大事です。この原理を使うと…」と話していると、会場から「それで具体的にはどうするんですか?」という鋭い質問が飛んできた。
一瞬ドキッとしたが、「例えば、患者が歩行訓練をするとき、脳がどのようにバランスを取るかをシミュレーションできます」と答えた。
通訳の趙さんも、その答えを流れるように翻訳する。彼女が小さくうなずいてくれたのを見て、「あ、合格だな」と内心ほっとする。
僕は冷静に振る舞ったが、言葉の分厚い壁にヒヤヒヤだった。
その後も僕が答える。
「患者が何かを学習する際に、どのようにエラーを最小化しているかを考えることで、より効果的なリハビリプランを設計できます」
趙さんと目を合わせる。
彼女がうなずき言葉を発する。
「在患者学习某些技能时,通过思考他们是如何最小化错误的,可以设计出更有效的康复计划」
さすがだ。
趙さんもその言葉を的確に変換し、聴衆は深くうなずいていた。
発表が終わり、会場から拍手が湧き起こったとき、僕はようやく肩の力を抜くことができた。発表の過程で生まれた微妙な歩調のズレも、最後には聴衆との調和に繋がったように思う。
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終わってみれば胡蝶の夢
終了後、多くの方々が僕のもとに来て感想を述べてくれた。「これからのリハビリの可能性を感じた」という趣旨の声を聞くたびに、発表者としての喜びが胸に広がった。
その夜、ホテルの一室で、僕は会場の温かい拍手や質問を思い出していた。終わったという安堵感と同時に、実はスタート地点に立ったような新鮮な感じでもあった。
患者や家族、医療者たちとの交流の時間ーー。
しばらく経った後振り返ると、まるで夢を見ていたかのようにも思えた。
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