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#31中国リハビリ記録【無言の声|異国の地で紡ぐ物語】No.2

初めてのリハビリ

リハビリの初日は簡単な身体評価から始めた。碧蓮(ビーリェン)の筋緊張の度合いを確認し、可動域を調べる。

状態は厳しく、全身が硬直しているため、わずかな動きでも筋肉に負担がかかっていた。表情に変化はないが、僕には彼女の言葉が伝わってくる気もしていた。

僕は慎重に彼女の左腕を動かしながら語りかけた。「ゆっくりでいいから。緊張しないで」
当然、返事はない。けれど瞬きをしてくれた。それは『わかった』という彼女の返事なのだと父親が言った。

リハビリ室の空気は硬く重かった。それは僕が作り出していたのかもしれなかった。

僕の背後にいる無言の家族、彼らの視線。母親は手を組んで祈るような仕草をし、変化を見逃すまいと目を凝らしていた。祖父は椅子に腰掛けながら、深い溜息を漏らしている。

しばらくして、父親が口を開いた。

「先生の部屋から見える枇杷の木、この木はもうすぐ実がなりますね。そこの窓から手を伸ばせば、簡単に取って食べれる。お昼のおやつになりますね、ハハ(笑)」

「へ?」僕は不意打ちを喰らったかのように気の抜けた返事をした。「本当ですか?それは楽しみですね」

リハビリ室の緊張が解けた瞬間、家族と僕との間に穏やかな空気が流れた。

「この子は果物が嫌いなんです。お肉ばかり食べて」そう言って父親は娘の頭を撫でる。

碧蓮(ビーリェン)は微笑んでいた。父親に甘えるよう微笑みが、僕にはなんとも神々しく見えた。

運命を変える出会い

その日のセッションを終え、僕は一つの確信を得た。彼女のリハビリには時間がかかる。しかし、彼女の瞳に宿る光は確かに消えていない。

あの眼差しがある限り、彼女には多くの可能性が秘められている。

「明日も来られますか?」と僕。

「もちろんです」と言って父親が頷いた。

その夜、僕は彼女のことを考えながらノートに計画を書き込んだ。筋緊張の緩和にはどんなアプローチが最適か、家族を交えたリハビリをどう進めるべきか。

考えれば考えるほど、彼女との出会いが自分にとって何か特別な意味を持つような気がしてきた。

次への一歩

異国の地で出会った少女とその家族。彼らの希望と覚悟に触れて、僕は心が動いた。

“この少女の未来に少しでも役立つのなら、自分はこの国に来た意味がある”
これは直感であり、なぜそう思ったのかは分からない。

しかし、これはまだ始まりに過ぎない。彼女とのリハビリの日々を通じて、僕自身も学びを深める必要がある。

そして、その中でどんな物語が待っているのか、僕にはまだ分からない。

【つづく】

碧蓮とのリハビリ中に撮影したもの。
窓から手を伸ばせば取れる琵琶。
僕もその木が好きだ。

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JUNYA MORI
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