#21理学療法士の中国リハビリ記録【金泥棒!脊髄損傷の女の子が叫ぶNo.1 】
ダンスの夢が崩れるとき
中国の片田舎で育った10歳の少女、シャオリン。彼女はダンスが得意で、将来を期待されていたようだ。ある日、ステージ上で華麗なジャンプを決めた瞬間、運命は一変する。足を踏み外し、背中から激しく倒れた彼女は、脊髄を損傷した。
救急車で病院に運ばれたものの、診断結果は絶望的だった。完全損傷に近い状態で、体幹と下肢の動きが失われた。感覚も消え去り、シャオリンの未来は一瞬にして閉ざされた。
父親の葛藤
シャオリンの父親は地元の診療所を経営する医師だった。彼は中国医療に絶対的な信頼を寄せ、日本のリハビリに懐疑的だった。しかし、娘の状態を見た母親の強い願いで、日本人のいるリハビリ施設に送ることを決意した。
父親は心の中で葛藤していた。「本当にこんな異国のリハビリに効果があるのか?ただでさえ裕福ではない家庭なのに、無駄な金を使うのではないか」。そう呟きながらも、娘のために行動を起こさざるを得なかった。
少女の拒絶
リハビリ初日から、シャオリンの態度は冷たかった。「こんなことをしても無意味だ」と彼女は言い放つ。さらに、父親も「家で十分なリハビリをしているから早く帰らせてほしい」とスタッフに訴えた。しかし、シャオリンの足関節にはすでに拘縮の兆候が現れていた。
少女の体は非常に華奢で、埋め込み式の電極を体内に挿入していたものの、効果は不明だった。
何よりも気になったのは、彼女の手だった。爪は痛々しいほど剥けており、指先には血が滲んでいた。拒食症で食事もろくに取らず、リハビリ中も落ち着かない様子で爪を噛み続ける。痛みに耐えながらも、彼女は爪を噛み続ける。
そして彼女は「家に帰りたい」と呟くのだった。
心を開く瞬間
「金を返せ! 金泥棒!」
シャオリンは涙を浮かべながら僕に叫んだ。その小さな体が怒りに震えているのがわかった。彼女の拒絶と憎悪の矛先は、僕らリハビリスタッフへと向けられていた。
いわゆる障害の受容を求めるには酷すぎる状況だ。
僕は静かに彼女を見つめ、言葉を選んで答えた。
「シャオリン、リハビリが嫌なら無理に来なくてもいい。来るか来ないかは君が決めればいいんだ。でもね、僕らはいつでも準備して君を待っている。だから、気が向いたらまた来てほしい。」
彼女は何も答えなかった。振り向くことなく、車椅子に乗せられてリハビリ室を出た。その背中に、僕はいつものように「またね」と声をかけた。
その瞬間だった。彼女の足が一瞬止まり、小さな声でこう言った。
「またね、先生」
僕は驚きで息を飲んだ。彼女が僕らに心を開く日が来るとは思っていなかったからだ。振り向くことはなかったが、彼女の言葉に込められた温かさが、心に深く届いた。
その場にいた父親とスタッフの視線が自然と重なる。お互いの顔を見ると、思わず微笑みがこぼれた。誰も言葉にしなかったが、全員が同じことを感じていた。