「新・小説のふるさと」撮影ノートより『赤目四十八瀧心中未遂』について思ったこと。というよりはちょっと場所の解説
赤目四十八瀧は名張川にそそぐ宇陀川の支流、滝川の上流部にある。厳めしい名前に深山幽谷を想像するが、滝を巡る約4キロの道のりは遊歩道が整備され関西、中京の小学生たちも遠足で訪れる場所だ。景観は目くるめく変化し高低差はあるがどんどん歩いて行ける。近鉄赤目口からバスで20分。渓谷の入り口、オオサンショウウオセンターから生島とアヤちゃんが辿った道を行った。
四十八とはその多さを示すが実際には二十ほどの瀧があり、秋にはそれこそ迦陵頻伽の色彩を放つは香落(かおち)谷(たに)がその先にある。偶然鶴橋駅で見かけたポスターで、死に場所に赤目を選んだ二人にはそんな渓谷があることなど思いもしなかっただろう。
あの世へ逃げ去ってしまおうとする決心を翻したとき、死出の旅路は順礼となった。この世にありながら死と再生を目指して瀧を巡る二人はそれぞれに臨死を体験し生還するが、アヤが引きかえにしたものは、生きながら死ぬという覚悟と生島の生の担保であったのだろう。数年後生き延びた生島がアマでみたものは、荒廃したアパートと駐車場に姿をかえた店であったが、アヤの消息は最後まで描かれていない。