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デュシャンのレプリカ、スティーグリッツの「泉」
しばらく前のはなしだが、
デュシャン展をぎりぎりになって見にいった。
そして初めてかの「泉」を見たのだが、何か印象が違う。
これはひょっとして本物ではなくレプリカなのではないかと思い確認するとはたしてそうだった。
だが印象の違いはレプリカだからというわけではなかった。
まず最初の違和感はその展示の仕方だった。
「泉」はかなり低い位置に置かれていてかなり見下ろす形になっていた。それと小さな点光源とフラッドの組み合わせは、たしかに美しく拡散した光りで演出されていたのだけれど、どうもコントラストが足りないようだ。
その時一つか二つ前に冊子『ブラインドマン』も展示されていたのを思い出してもう一度見に戻ると、なるほど、見るアングルがかなり違うなと思って腰を屈めて携帯で「泉」の写真を撮った。そしてああそうかと思った。
デュシャンの「泉」は独立芸術家協会の年次企画展への出品を拒絶されてスティーグリッツの画廊「721」に展示された経緯がある。『ブラインドマン』に掲載された写真はここでスティーグリッツによって撮影されたが「泉」はその後消失してしまう。一説ではスティーグリッツがゴミとして処分してしまったともいわれる。
どちらにせよ本物は発表後まもなく、この世から消えてしまっていた。そして私たちがデュシャンの「泉」として認識していたのはスティーグリッツの写真を「泉」として知っていたということだ。
だから僕は東京国立博物館の平成館で何をしていたかと言えば「泉」のレプリカを前に実はスティーグリッツの写真を本物の「泉」として探していたことになる。
デュシャンは後に17のレプリカの製作を依頼したという。
東京に来たものはおそらくその一つなのだろうが、『ブラインドマン』に印刷され、あまたに複写されたスティーグリッの写真が真正の「泉」ということなのだろう。
(FB より再録)