「納豆食って納得」したけど遅かった…優柔不断男の失恋反省記

冬の寒さが身に染みる夜だった。
俺は古びたアパートの一室で、
一人、ぼんやりとテレビを眺めていた。

つい数時間前、彼女の美咲に振られた。理由はシンプルだった。

「ごめんね、翔太。私、もうあなたとはやっていけないの。」

それだけ。何がいけなかったのか、
問い詰める気力すら湧かなかった。
きっと、何かが積み重なっていたのだろう。
俺が気づかない何かが。

そういえば、数日前、美咲が仕事の愚痴をこぼしていた。

「もう疲れちゃった……上司も理不尽だし、辞めようかな。」

「へー、大変そうだね。
でもまあ、どこ行ってもそんなもんでしょ。」

「……そうだね。」

美咲はそう言って、静かに視線を落とした。
俺は特に気にすることもなく、
スマホをいじりながら適当に話を終わらせた。

今思えば、あれが最後のサインだったのかもしれない。
美咲は俺に、ただ共感してほしかったのかもしれない。
寄り添ってほしかったのかもしれない。
でも俺は、いつものように「そうだね」と流してしまった。

冷蔵庫を開けると、賞味期限ギリギリの納豆が一パックだけ残っていた。

「これしかないのか……」

呟きながら、俺は白飯の上に納豆をのせ、無心でかき混ぜる。

糸を引くそれを見つめていると、
不意に美咲の言葉が蘇った。

「翔太ってさ、なんでもすぐ納得しちゃうよね。
もっと自分の気持ちに正直になったら？」

俺は、美咲の言うことにいちいち反論することもなく、
いつも「そうだね」と相槌を打っていた。
美咲が悩んでいる時も、「わかったよ」と流して、
深く話し合おうとはしなかった。
衝突を避けることばかり考えていた俺は、納豆とは正反対だった。
全然粘らなかった。

美咲の悩みと正面から向き合うこともなく、関係を繋ぎ止める努力もせず、俺はただ、あっさりと納得したふりをして、楽なほうへ逃げていた。

俺は箸を取り、納豆ご飯を一気に口に運ぶ。
粘り気が強く、喉に絡みつくような感触がする。
噛んでも噛んでも、しつこく残る。

「納豆って、ほんとに粘るよな……」

俺は箸を置き、納豆が絡みついたご飯をじっと見つめた。

「納豆食って……納得（納豆食う）……って、俺なに言ってんだ？」

自分で言って、自分で呆れる。
でも、なんだか妙に今の俺にぴったりな言葉だった。

納豆を食って納得……したはずなのに、まだ心のどこかに残るモヤモヤ。
でも、それって本当に「美咲への未練」なのか？もしかすると、
彼女のことをちゃんと理解していなかったのかもしれない。
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