【ロック名盤100】#65 Patti Smith - Horses
今回紹介するのは、パティ・スミスが1975年11月にリリースした1stアルバム「Horses」だ。パンク黎明期の名盤にして女性オルタナの源流としても高く評価されている大名盤。前回(#64)でも登場したニューヨークのクラブ、CBGB出身のアーティストのひとりであるパティ・スミスはパンクと複雑な詩の融合を目指し、完成したのが力強いアート・パンクの最高傑作だったのだ。プロデュースが元ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルであることも個人的には押さえておくべきツボなポイント。
とにかく凄まじいのがパティ・スミスのボーカル。こんなにオリジナリティ溢れた圧倒的な女性ボーカルはさぞ当時のリスナーに衝撃を与えたことだろう。アナーキーで色気もあるこの歌唱は彼女でしか表現できないものだと思う。もちろんパティ・スミスが重視した詩の表現も見逃せないのだけれども、まずはじっくり彼女が作り出すパンキッシュな音世界に浸ってから、歌詞カードやインターネットで詞の和訳を読んでみよう。
1 Gloria: In Excelsis Deo
2 Redondo Beach
3 Birdland
4 Free Money
5 Kimberly
6 Break It Up
7 Land: Horses/Land of a Thousand Dances/La Mer(de)
8 Elegie
パティ・スミスの代表曲「グロリア」はヴァン・モリソン率いるガレージ・ロック・バンド、ゼムがオリジナル。ヴァン・モリソンが書いた曲をベースに歌詞を書き換えて出来上がった大名曲で、この曲によってパティ・スミスはパンクやフェミニズムなどのムーヴメントのアイコンとなった印象だ。冒頭の「イエスは誰かの罪のせいで死んだが、私の罪ではない」という一節はロック史上最高のラインのひとつなのではないか。パティの哲学や反抗心を強く反映させた素晴らしい詩だと思う。
表題曲「ホーセス」のセクションを含む組曲「ランド」も見逃せない傑作だ。9分間からなる壮大なストーリーテリングはパティの詩人としての才能を表していて、バンドの演奏も実験的だがエネルギーがこもっている。そしてラストを締め括る「エレジー」はなんとも不気味。粘りつくようでも魅力的なパティのボーカルはなかなか頭から離れない。
本作に影響を受けたアーティストは計り知れない。以降のパンク・バンドらはもちろん、ホールのコートニー・ラヴやPJ・ハーヴェイなども本作について言及しており、女性オルタナ・シンガーにとっては最重要作品のひとつであるはず。聴いてみれば、パティ・スミスがどれほどエポックメイキングなアーティストだったかがわかるはずだ。
↓「グロリア」