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好きになる さすれば見えん

僕は「ハイブランドおじさん」と呼ばれていた時期がありました。

私服は古着、スーツはユニクロの僕がそう呼ばれていたのは広告会社に勤めていた1年ほど前のこと。キラキラしたハイブランドやコスメ系のクライアントを20社くらい任されていた頃のお話です。

終日メールと電話に追われ聖徳太子さながら働いていたあの頃、休む時間もままならない中で大事にしていたのは"クライアント(の商材)を好きになる"努力。「努力してまで好きになる必要なんてないでしょ」って声が聞こえてきそうですが、百貨店のコスメコーナーやドアマンのいるお店に野暮ったい服装の男が1人で入るのではなかなか勇気のいるものです。

銀座か表参道(あるいは新宿高島屋)で「調査」するのは月一回。商品のことをスタッフの方にこれでもかと質問したり、お客さんの動線やレジでのオペレーションを観察してみる(お化粧の勉強もたくさんした)。不審者以外の何者でもありませんが、そうして得た商品知識や店舗改善の気づきは大にしてクライアントに喜ばれたものです。

大切なのは「クライアントのため」という利他的なモチベーションではなく「好きだから」という利己的なモチベーションを保つこと。結果的にクライアントのためになることでも、奉仕活動という認識のまま続けると疲れるし、パフォーマンスも下がる。だからひとまず、目先の利益にモチベーションのトリガーを持ってくるんです。

僕の場合は"普段触れない世界を見れる"ことが楽しくて、誰に言われるでもなく「調査」を続けてた。ある程度理解が出来ると、その知識を使った企画提案や施策改善も自然と思いついて、それもまた楽しかった。転職したいまでもたまに見に行っちゃうのは、やっぱり楽しんでいた証拠だと思ってる。

好きなことしかしたくないなんてわがままに育ったから、卒論ではいろんな人に迷惑かけたけど、好きじゃなかったものを好きになる方法とその豊かさを学べた職場でした。いろいろありましたが、感謝してます。

好きになる
さすれば見えん
なんの紐

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