見出し画像

#Athlete7Cuts 原希美・ハンドボール 〜現役アスリートを撮る旅006〜

2019年12月31日・大晦日。今日は三重バイオレットアイリス今年最後の練習日。数日前に金沢の病院を退院した原希美選手が練習に来ると聞き練習場を訪ねた。

ーこの記事は全文無料公開・投げ銭制で公開していますー

2019年11月30日〜12月15日に熊本で開催された女子ハンドボール世界選手権。その直前に右膝の前十字靭帯断裂という大怪我に見舞われた日本代表・おりひめJAPANのキャプテン。

世界選手権のコートに立つこと無く、右ひざの手術を終えて鈴鹿に戻ってきた原選手。そこにはコートで見せる厳しい表情とは違う、いつもの柔らかな笑顔があった。

画像1

世界選手権開幕直前、11月18日の出来事。

「お久しぶりでーす、元気にしてますよー(^^)」

ハンドボールの話をしていない時の彼女は、ホワーっとした優しい笑顔を見せる。2019年最後の日に熊本の試合会場以来、3週間ぶりの再会。12月上旬に世界選手権予選ラウンドを見届けた原選手は、熊本を離れ金沢の病院にて手術を受けた。

右膝前十字靱帯断裂。それは世界選手権の直前、11月18日の出来事だった。

味の素ナショナルトレーニングセンターでメディア向けの公開練習が行われていた。デンマークのクラブチームとトレーニングを行い、試合形式のトレーニング中に右膝を痛めた。

左右の切り返しやフェイントを繰り返す、激しい動きのオフェンス練習の最中ではなく、比較的怪我をすることが少ないディフェンスの練習中だったという。原選手本人は膝を少し捻った程度で、まさか自分が前十字靭帯を切ってしまうとは思ってもいなかったという。

画像2

いつまで泣いとるん?からの、もしかして脱走?

その日の公開練習は途中ではずれてアイシング。練習後は普通に歩けたことから、重症とは思わなかった。しかし、その後のトレーナーの触診によると「恐らくアウトだろう」とのこと。すぐにMRIを撮り、前十字靭帯断裂との診断。

そのまま診察室で号泣でした。それから2日間泣き続けたんですよ。

その時のことを笑いながら話す原選手

画像3

その時、日本代表はJISS(国立スポーツ科学センター)で長期合宿中、同部屋だった大山真奈選手はあまりに泣き続けるノン先輩(原選手のコートネーム)に対してこう言い放ったという。

「いつまで泣いとるん。」

画像5

大山選手らしい愛のある厳しい言葉(笑)大山選手自身も怪我の経験があるだけに、ただ厳しい言葉をかけたかったわけじゃないことは当然で、ノン先輩のことを想って出た言葉がそれしかなかったのだろう。

その日は怪我のニュースを知ったいろんな人達からひっきりなしに連絡があり、部屋を出てそれらの電話やLINEに対応していた原選手はほとんど部屋にいなかった。

「いつまで泣いとるん?」と厳しい言葉をかけた部屋っ子の大山選手は、ノン先輩がほとんど部屋に戻らないことを心配して合宿所を探し回ったらしい。「ノンさん脱走したんじゃ?!」

マナは厳しいこと言うけど、ほんとはめちゃくちゃ優しいんですよ。

と笑いながら話すノン先輩。

画像4

世界選手権、複雑な気持ちと仲間たち。

世界選手権は終わってしまった。予選ラウンドをスタンドから観ていた時の気持ちをストレートに聞いてみた。

気持ちの整理は付いていたんですけど、試合を見ているときは複雑でした。苦しい展開の時は「私があそこに立ってたら…」って思ってしまったり、勝った試合の時は「自分がいなくても勝てるんだ…」そんな気持ち。

でも、私は怪我をしたという明確な理由があって試合に出られなかったけど、今回の世界選手権に選出された選手の中には100%のコンディションだったにも関わらず、コートに立つことが出来なかった選手たちもいるので、そんな選手たちの悔しさの方がきっと大きいんじゃないかと思います。

ずっと一緒に頑張ってきた仲間たちを思う原選手。どうにも整理が付かない悔しさや不安な気持ちが何度も何度もぐるぐると回って、そんな気持ちを何度も何度も整理して今の気持ちに辿り付いたのではないだろうか。

画像6

神様が与えた試練、そして東京2020に向けて。

2019年はおりひめジャパンを立て続けにアクシデントが襲った。

1月には右サイドの池原綾香選手がデンマークリーグの試合中に右膝前十字靭帯断裂。9月にはセンターの横嶋彩選手がヨーロッパ遠征中に前十字靭帯断裂。そして11月、キャプテンの原希美選手が右膝前十字靭帯断裂。

奇しくも3人は同級生、おりひめジャパンの中核を担う3人だった。

池原選手は滑り込みで世界選手権のメンバーに入り、決勝ラウンドの数試合に出場。本来の調子は取り戻せていなかったのかも知れないが、彼女がコートに戻ってきたことは日本ハンドボール界にとってとても嬉しい出来事だった。

しかし、復帰した池原選手と入れ替わるように二人が怪我をしてしまった。

画像7

女子ハンドボール日本代表は、1976年のモントリオールオリンピック以来44年ぶりにオリンピックの舞台に立つ。開催国枠として出場が約束されている現在の日本代表・おりひめJAPAN。その中核を担う原選手・横嶋選手の世代は確実とは言わないまでも、現在の代表チームの中心選手として考えるのが当然の流れと言える。

先日、手術を終えた原選手のところを訪れた横嶋選手と、前十字靭帯断裂仲間の二人で話したという。

開催国枠でオリンピックに出場できるチャンスをもらえた私たちに神様が与えた試練なんじゃないか?

アヤとそんな話をしたんです。しかも前年には世界選手権も自国開催、そこから東京2020出場が約束されている状況の私たちに「気の緩み」があったんじゃないかって。

でも神様が与えた試練とはいえ、「あまりにも直前すぎるやん!!」って(笑)

画像8

でも…ただ、応援するだけ。

怪我した本人たちの大変さとは比較にはならないが、ハンドボールの近くに居るのがつらい。応援している選手が次から次へと膝の大怪我に見舞われる。

怪我をしてしまった選手には掛ける言葉がない。

起こってしまったことはどうすることも出来ないわけで、それに対して周りの人間は「頑張って!」と言うのもおかしいし「元気だして!」と励ますのも何か違う気がする。はっきりいって言葉がない。

画像9

三重バイオレットアイリスの練習後に現状の報告と今後の予定を話す原選手。これから8月のオリンピックに向けて1日たりとも無駄には出来ない復活のスケジュールが組まれている。

過酷なリハビリの大変さは怪我の経験がない者には想像すらできないが、きっと何度も心が折れそうになる場面もあることだろう。

年明けに日本リーグの開幕を控えるチームメイトたちに「ずっと一緒にはいられないけど、私も一緒に闘うからね」と笑顔で語る原選手。

画像10

2019年が終わり、いよいよオリンピックイヤー2020年を迎える。まだリハビリも始まったばかりで年明けから東京に行って本格的に復帰に向けたトレーニングを開始する原選手。

彼女がコートに戻ってくる日はいつだろう。

でも今日の表情を見たら、必ず元気に戻ってくるだろうという期待感しかなかった。

こんな辛く悔しい思いをして、そこでへこたれるような性格じゃないことはみんなが知っている。一緒に復帰を目指す同期もいる。がんばれクル(三重バイオレットアイリスでのコートネーム)!がんばれおりひめJAPAN。

画像11

怪我をしてから筋肉が落ちてしまい、すっかり細くなってしまった脚を見せて彼女は言った。

こんなにスラッとした細い足を見られるの、今だけですよ♫

これだけは言っておく「大丈夫、筋肉が落ちても普通の女子と比べたら全然すらっとなんて…」やっぱり言えない。

とにかく、帰ってくる日を待ってるよ(^^)

画像12

頑張るアスリートを応援する企画をスタートします。

マークスリーデザインの「#Athlete7Cuts」では頑張るアスリート、怪我からの復帰を目指すアスリート、マイナー競技だけど奮闘しているアスリートを応援する企画を立ち上げます。

企画の概要がまとまったらリリースしますのでやんわりとご期待ください。

なお、この記事は全文無料公開しますが、投げ銭制の¥200で公開しています。もし200円で購読して頂ける場合は、その売上を応援企画に回そうと思いますので、どんどん投げ銭してください(^^)

それではみなさん、良いお年を。

画像13

ここから先は

0字

¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?