廃香 【岩泉線押角駅】
そこは嘗て、秘境駅として有名な地でした。岩手県は岩泉線に存在した押角駅。自然災害の影響を受け、今はもう路線も駅もありません。
10年前の道路地図には描かれていた、国道340号とほぼ平行しながら岩手県北上高地の山中を往く線路の雄姿。地図上から想像される、険しく、かつ濃緑に染まる山中を、か細い一本の線路が緩やかにカーブを描く光景。当然のように興味を持った私は程なく「押角駅」の存在を知りました。
最初に訪れたのは2010年の3月下旬。北東北におけるこの時期といえば、もうすぐ春ではあるけれども、時折冬を思い出したかのように名残雪ともいえる情緒的な雪を降らせることがあります。この日の天気は今でもまだ記憶に残っていて、ようやく白く固い塊が消え始めた森の中に、湿った雪を再び舞い散らすコンディションでした。
押角峠
押角駅を目指すには、つづら折りの峠を何度も超える道程となります。昔の人々にとって押角峠が難所であったことは容易に想像できます。
岩泉線 押角駅
吹雪の中、ヘアピンカーブを何度も越えて押角駅を示す標識に漸く辿り着き、道端の僅かなスペースに駐車する。その瞬間、ipodを繋いだ車のステレオからACIDMANの「プリズムの夜」が流れてきて、歌詞と情景がシンクロしたのがいまだに記憶に刻まれています。
押角駅の佇まいは、まさに秘境駅そのものでした。既述の荒天だったことでより一層秘境感が増していたとも思います。(前回同様)決定的に残念なのはやはり、私のスキル・・・。今だったら画角を変えて何枚も撮るのに、わずか数枚しか撮っていなくて、しかもほとんどが手ブレ。さすが私、超ハードボイルド。
意図のないf13。f22じゃないところが成長の証。
この運行本数。超絶魅力的です。近所に住みたかったくらい。
駅に至るには、雑草を抜けて小川に架かったこの橋を渡る必要がありました。
2018年、再訪
2010年3月の訪問から間もなく、岩泉線はその年の7月の自然災害により休止となり、その後、2014年に廃線となったとのことです。2018年3月、仕事のストレスがMAXだった私は、有給休暇を取得しフラフラとあてもなく車を走らせました。そして青森県と岩手県の県境に差し掛かった時、ふと思い立ち、押角へと向かいました。
最初の訪問から8年、押角駅は原野に還りつつありました。
駅へのアプローチに必須となる橋はこの有様。意図的に外したのかもしれませんね。
残滓。
2020年、晩秋の廃香を辿ってまた行ってこようかな。