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パリ五輪活動報告会

はじめに

 2024年10月22日(火)に御茶ノ水センタービルにて10月度の講義を行いました。今回は7月末~8月中旬にフランスのパリで行われたパリオリンピックにメディカルスタッフとして帯同された3名の先生方からご講義いただきました。実際に起きた外傷や食事環境など普段SNS上では得られない現地でのエピソードを詳しくお聞きすることができました。


今回ご講義いただいた左から
鈴木慶先生、金子晴香先生、福島理文先生

講義内容

1.サッカー男子 福島理文先生

 福島理文先生は東京オリンピックに引き続きパリオリンピックに男子サッカー日本代表内科ドクターとして帯同されました。
 パリオリンピックは暑熱環境下でサッカー男子日本代表は中2日の試合日程が組まれていました。また、長距離・長時間移動だったため、よりコンディショニング管理とリカバリーが重要視されていました。今回の帯同報告では、上記のメディカル項目を中心にご講義いただきました。

長距離・長時間移動への対策
 
サッカー男子日本代表は、チーム全員が集合してから最終戦となったスペイン戦までの間、マルセイユ・ボルドー・ナント・リヨンとフランス国内で長距離・長時間移動が必要でした。
 そこでのコンディショニングを落とさないために、移動中はフットマッサージ機を装着していました。フットマッサージ機には加圧システムによって血行を促進し、身体を動かしていない移動中でも正常な循環を促すことができます。
 また、定期的に休憩をとりSAでストレッチを行うことでコンディショニングを整えていました。

ONE TAP SPORTS と スマートリングによるコンディショニング管理

【ONE TAP SPORTS】
 
体温、体調不良の有無、夜中目が覚めた回数、睡眠の質、疲労感、筋の張りの有無(部位も)、怪我の状態、体重
【スマートリング】
 睡眠時間、睡眠効率、睡眠負債、仮眠検出、呼吸数、睡眠の深さ、安静時心拍数、血中酸素レベル(SpO2)、入眠潜時

 上記はONE TAP SPORTS と スマートリングで評価することができる項目です。2つの評価媒体の大きな違いは、ONE TAP SPORTSが選手自身の主観的評価で、スマートリングが客観的評価であるということです。データをとるとONE TAP SPORTS と スマートリングの差が大きい日にちがあることがわかりました。つまり自己認識より眠れていない可能性があるということです。

その他のコンディショニング
①交代浴:深部温の上昇抑制・低下をスムーズにする
     疲労回復
②アイスバス:筋肉の回復促進、炎症の軽減、疲労回復
③体重測定
④尿比重:暑熱対策、脱水の評価、水分補給の目安
⑤リラクゼーションエクササイズ:呼吸法、ストレッチ、ヨガ
⑥空気圧マッサージ:血行促進
⑦高周波温熱器:治療・代謝促進
⑧高気圧酸素療法:治療促進
⑨水分補給
⑩補食
⑪治療・ケア

外傷・疾病報告
 
選手・スタッフそれぞれの外傷・疾病件数と使用薬品を見てみると、選手は外傷が多い一方で、スタッフは胃腸炎や上気道炎など内科的疾患が多く、それに伴い内科的疾患の治療薬の使用件数が多いことがわかりました。

 パリオリンピックは東京オリンピックの時よりもメディカルスタッフの人数が多く、トレーナーも経験のある4名体制であり、海外でも最大限のメディカルサポートを行うことが出来ました。

2.セーリング 鈴木慶先生

セーリングとは
 
ヨットに乗ってブイで示されたコースを航行し、フィニッシュラインを通過する早さを競います。大会ではまずオープニングシリーズとして各種目で決められた数のレースが行われます。レースでは順位が高いほど点数が低く(1位=1点、2位=2点)、各レースの点数の合計点の低い上位10名がメダルレースに進み、このレースで最終順位とメダリストが決まります。種目は使用するヨットの種類によって分けられ、今大会は男女各4種目と混合2種目が行われました。海面上で行われ、自然環境は刻一刻と変わるため身体だけでなく頭もよく使わなければならないのが醍醐味です。

活動内容
①TEAM JAPAN BASE
 拠点はオリンピックマリーナから車で10~15分の閑静な住宅街に位置するゲストハウスでした。ここでは毎日コーチ・役員・スタッフ全員でレースに関することや選手のコンディションや食事に関することについてミーティングを行いました。食事も全員で食べられるように時間を調整することでチームとしての意識を高め、意見交換をしながら様々な状況に対応できるようにしました。敷地内にプールも設置されており、選手は入国後の時差対策としてプールでトレーニングを行ったり、海上での練習・レース後のクールダウンで使用したりしました。また役員・スタッフも熱中症対策として使用しました。

②コンテナハウス
 今回は20ftプレハブと40ftコンテナを設置しました。20ftプレハブはクーラーを完備しており、40ftコンテナは後方に温度設定型循環アイスバスを設置し、練習・レース後にすぐ入れる環境を構築しました。これによりマッサージやストレッチを涼しい環境下で行うことができました。冷蔵庫も設置しており、レース海面で冷たいドリンクの提供や、熱中症対策として冷凍室で凍らせたペットボトルを持参し海上で体温を下げる対応を実施できました。

③撮影体制・映像解析体制
 海上でインシデントが発生した場合を想定して望遠ビデオで470クラスのレースが行われるエリア付近で撮影を行い、インシデント時の証拠映像として提出できる体制を構築しました。レース中に集められる各種データを端末に取り込み、レース後、速やかに選手とインシデントに対するデータを確認、抗議書および審問でのコメントを細かくアドバイスしました。実際、今大会ではこの体制が機能しました。他チームから抗議を出されたが、映像提出などにより却下を勝ち取ることができました。

④栄養サポート
 栄養士の方に朝食と夕食を調理していただき、昼食はおにぎりを中心とした海上食の提供を行いました。昼食のおにぎりは役員とスタッフ全員で毎朝、朝食前にその日配布する分を作成しました。朝食および夕食の持ち帰りは不可で拠点でのみの提供とするなど衛生管理を徹底し、食事の栄養バランスも非常に良かったです。そのため、大会期間中を通して選手・役員・スタッフ全員が体調を崩すことなく最終日まで活動できました。


 チームジャパンとして一丸となり、体調管理や暑熱対策の徹底やケアの充実を実現したことが選手のパフォーマンス最適化につながり、20年ぶりの銀メダル獲得に至ったと思います!

3.陸上競技 金子晴香先生

事前準備
①現地状況の把握:気候、衛生環境(水)、感染症、交通など
②ワクチン接種:麻疹、風疹、おたふくかぜ、B型肝炎、破傷風、A型肝炎、黄熱病
③感染症対策:インフルエンザ、胃腸炎、狂犬病、
       ジカ熱やマラリアなど蚊媒介疾患
④持参薬剤の準備:解熱鎮痛剤、抗アレルギー薬、胃腸薬、皮膚外用剤、外傷・障害に対する薬剤、抗菌薬、抗インフルエンザ薬


派遣前準備
①国立スポーツ科学センターにて行うメディカルチェック

②選手決定後のメディカルアンケートによる選手の健康状態把握

③使用薬剤やサプリメントの把握・判定
➡スポーツファーマシストによりアンチ・ドーピング規則違反の恐れがあるか判定されます

④1~2カ月前から週1回のコンディションチェック
➡Googleフォームを使用したコンディションに関するアンケートを行い、選手・監督・コーチ・メディカルスタッフの間で共有します

渡航・現地のメディカルサポート
①機内の過ごし方と時差対策
➡毎日の起床時間を一定にすることや現地到着日の翌朝に良く寝られた状態で起きられるように飛行機の中の睡眠を短時間にすることを提案して時差ぼけの対策を行いました。

②水・食事・住環境の確認
➡特に水はパリの水道水は飲用として活用できましたが、体重管理とドーピング管理のために水道水を飲まないなどのルールを徹底しました。

③練習・試合会場の確認
➡暑熱対策として気温・湿度・WBGTを把握したり、害虫や野生動物の有無を確認したりしました。

④競技場・サブトラック・練習場・ホテルに分かれての対応
 競技場:ドーピング検査の対応
 サブトラック:故障の対応
 練習場・ホテル:トレーナーによる選手のケア


陸上競技の特徴
〇多種目あるため選手・スタッフの数が多い
〇大会期間は3~10日間
〇種目によって出場日が異なる
〇同種目でも練習や準備の開始時間が異なる
〇同時に同じ会場で複数種目を行う
〇マラソンや競歩などロードレースでの開催種目がある
          
選手、監督、コーチ、スタッフ間でのタイムロスのないコミュニケーションがカギとなります!

最後に
 
種目が異なるスポーツ現場でのお話を学ぶことができ、将来スポーツ医学に関わる仕事をしたいと考えている塾生にとって非常に有意義な時間となりました。
 先生方、お忙しい中貴重なご講義をありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

 最後までご覧いただきありがとうございます。


文責 廣瀬凛(医学部4年)   
   永澤弥子(スポーツ健康科学部3年)   
   岡島春奈(保健医療学部2年)   
   佐土原颯大(保健医療学部2年)


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