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経理の決算スケジュール
会計士試験を突破し監査法人に入られた方の大多数は経理の実務経験がないまま期末監査に投入されるわけですが、決算締めの具体的なスケジュールがイメージできず困った方も多かったのではないでしょうか(もっとも他に困ることが多すぎてそれどころではなかったかもしれませんが……)。この記事では、主にそんな方向けに会社の一般的な決算スケジュールを解説しました。
もっとも、決算スケジュールは業界によっても会社によっても異なります。流れ自体は大きく変わらないはずですが、この記事に書いてあるのはあくまで一例ですのでご留意ください。
当然ながら私自身の経験にも偏りがありますし、経理として全プロセスを経験したわけでもないため、いろんなところにツッコミどころがあるかと思います。特に連結実務は経験がないため非常に解像度が低いです。自分の場合はこうだった、ここはこういった流れの方が一般的ではないか?等ご指摘がありましたらこのnoteや𝕏にコメントいただけるとありがたいです。
なお、最近は経理実務に関する書籍も多く出版されていますので、「経理は何をやっているのか?」については書籍を通じてある程度学ぶことができます。本によって解説に重点を置いているポイントはさまざまなので、可能であれば書店でいろいろな本を眺めて「これだ!」と思うものを選ぶことをおすすめします。
この記事を書くにあたり参考にした書籍は以下の2冊です。
『フローチャートでわかる経理・財務 現場の教科書』は決算に限らず経理業務全般について幅広く書かれています。『「経理の仕組み」で実現する 決算早期化の実務マニュアル』はタイトルの通り決算早期化のポイントが実務的な目線で書かれている書籍ですが、結果的に「あるべき決算の流れ」もわかるようになっています。
以下では単体と連結を分ける形で書いていますが、実際の業務は単体チームと連結チームで分かれている会社、全てを一つのチームで担っている会社等様々です。
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単体編
決算準備
文字通り決算に向けての準備です。
具体的には、経理部内や監査法人との期末の重要論点のすり合わせ、システム部門とのスケジュール確認、各部門へのスケジュールの案内や資料依頼等が挙げられます。
決算を無事締めるためには他部門の協力が不可欠ですが、基本的に経理以外のほとんどの人は決算の結果(というより自分のボーナス)には関心があるものの決算数値を作る過程には興味がなく、どの資料をいつまでに出さなければならないか等を把握してくれているのはごく少数です。しかし資料がないと決算を締めることができないため、前もってアナウンスをし、必要に応じてリマインドや督促をしていきます。このあたりは監査法人と経理のやり取りに似ていますね。
あくまで一例ですが、具体的な案内としては以下のようなものがあります。
・科目ごとの締めスケジュール(売上、原価科目、経費、固定資産等、科目によって締めが違うことがほとんどです)
・棚卸のスケジュール・要領
・現物実査の依頼(切手や印紙等の貯蔵品、現金等)
・滞留している売掛金や建仮の状況調査
・期末に未収/未払計上となるような債権/債務の有無の調査
内部統制がしっかりと整備・運用されている企業ではこれらの資料依頼は定型・定例化しており、毎年同じようなタイミングで発出することが業務に組み込まれています。
また、期末の棚卸や実査も決算準備といえるでしょう。これらは工場や営業所はもちろん、監査役や内部監査部門、監査法人とスケジュールを調整しながら進める必要がありますので、ロジを組むのになかなか気を遣いますし手間がかかります。
売上締め
原価を確定させるためには売上を確定させる必要がありますから、まずこの勘定が締まります。
また、例えば原価計算を5営業日目に行う企業の場合、会計処理だけを考えると5営業日までに売上を確定できていればいいわけですが、実際には月が変わってすぐに取引先に請求書を送らなければなりません(相手側の締めに迷惑が掛かります)。また経営陣も売上の状況は早めに知りたいというニーズがありますので、早々に締めて売上状況を経営層に速報するといった仕組みになっている場合もあるでしょうから、販売システムは1営業日目などかなり早い段階で締める会社もあります。
締めが早いため、販売システムの締め後に計上漏れが発覚することもあります。このような場合は販売システムを経由せず会計システムに手仕訳で直接売上仕訳を投入することになります。したがって、「売上で通常のフローから外れた仕訳がある」=「不正」というわけではないことに注意してください。一方で、通常の内部統制のフローから外れた処理ですので監査上は注意すべきものであることは間違いなく(当然ながら不正の可能性もあります)、こういった処理があれば会社に内容を質問し、回答の裏付けとなる監査証拠を入手することも必要です。
ちなみに手仕訳で処理をした場合であっても、販売システムに情報を入れないとなにかと不都合が生じます(販売システムと在庫システムが連動している、請求書発行に支障が出る等々)。このため、実務上は会計システムに売上仕訳を投入するのと同時に、翌月付で販売システムへの売上登録と会計システムへの逆仕訳の投入を行っている会社が多いでしょう。こうすることで、会計上は売上が正しい月に反映され、また販売システムにも(月ズレではあるものの)しっかりと売上が記録されることになります。
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また同様の修正は売上のほか、仕入や固定資産でも行われることがあります。
自動仕訳の投入
減価償却や給料手当等、同種かつ大量の仕訳はシステムの自動仕訳で処理が入ります。多くの会社では会計システムの外側に固定資産システムや給与計算システムがあり、毎月同じタイミングでそれらシステムから会計システムに仕訳が連携されるようになっています。
仕訳投入のタイミングは科目によっても会社によっても異なりますがある程度の制約はあり、例えば減価償却仕訳の場合、固定資産勘定が締まった後かつ原価計算が行われる前に投入する必要があります。固定資産勘定を締めるのは期末日からある程度バッファーを取る必要がある一方、遅くとも一週間以内には原価計算を完了させたいでしょうから、概ね3~5営業日頃に処理が走ることが多いのではないでしょうか(必然的に固定資産の取得や除売却等の処理はそれまでに終えておく必要があります)。給与計算も勤怠の確定に1~2日ほど必要な一方、原価計算の前には処理が必要なので似たようなタイミングで処理が走ることになります。
ちなみに、減価償却は簿記の講学上「決算整理仕訳」として取り扱われますが、実務上は管理会計目的の月次決算でも必要な処理ですので(原価計算や部門別の損益計算のために必須です)、システム上は「決算整理仕訳」として取り扱われていない場合があります。この場合、仕訳データを「決算整理仕訳」で絞っても減価償却の仕訳が出てこないぞ?ということになるわけですね。
原価締め、原価計算
売上が確定し、自動仕訳が入り、仕入取引のほかあらかたの仕訳も入ったタイミングで原価科目を締め、原価計算を行います。部門からあがってくる様々な経費の伝票は基本的にはこのタイミングまでに投入するようになっている会社が多いのではないでしょうか。期末の棚卸時に把握した帳簿と実在庫の数量のズレもここまでに修正しておきます。
締め後には管理会計で学ぶような部門別の配賦計算を行い、売上原価や期末在庫が確定します。
原価計算は夜間バッチ(深夜帯の会計システムがクローズしているタイミングでまとめて処理を行うこと)で自動計算をするような会社もあれば、エクセル等で手動計算し会計システムに仕訳を投入しているような会社もあります。
自動計算の場合は夜間バッチが走る日の夜までに必要な科目を確定しておく必要があり、翌朝出社したときに出てはいけないエラーが出ていた場合は原価チーム(と情報システム部門)が阿鼻叫喚になります。
販管費・営業外勘定締め
販管費や営業外の収益・費用等、原価計算に関係ない科目の締めです。とはいえ原価締めまでにあらかたの仕訳は入っていますので、例えば貸倒引当金の繰入や棚卸資産の評価損等、決算日からある程度時間を経ないと数値を確定できないような科目が入ることになります。
他にも賞与引当金や退職給付引当金等の引当金、保有している有価証券の評価替え、固定資産の減損等々税金以外の決算のタイミングで生じる仕訳もこのタイミングまでに投入します(中には早い段階で確定できるものもありますので、決算前~このタイミングまでに随時仕訳を入れていきます)。
税金計算①
一通りの会計処理が終わり損益が確定したら税金計算を行います。事前に部門から収集しておいた情報や仕訳データ、固定資産システム等から税務調整に必要な情報を抽出し、税金計算を行ってその結果に基づき仕訳を投入します。税効果の計算や仕訳投入が行われるのもこのタイミングです。
税金計算は非常に複雑ですので、上場企業であればおそらくどの企業でも税金計算用のソフトを利用しているはずです(もっともソフトを使ったところで税金計算は非常に難しく、知識や経験が求められる仕事であることに変わりはありませんが)。
グループ通算制度を採用していない会社、あるいはグループ通算対象法人以外の会社はここで単体決算が確定します。
管理会計締め
管理会計の振替・配賦処理もこのタイミングまでに行われます。本社費の配賦や部門間取引の費用・収益の振替等、行う処理は会社によってさまざまでしょう。
管理会計が締まると単体の業績報告資料を作成し、経営陣に業績報告を行います。そのため管理会計担当者は科目ごと、部門ごと、製品ごとの対予算/対前年の状況を把握し、差異が大きいところや突っ込まれそうなポイントはあらかじめ各部門や経理の科目担当者にヒアリングをする等して調査します。ここで作成された分析資料を入手し、単体の財務分析に活用している監査チームもあるのではないでしょうか。
連結パッケージ締め
税金計算が終わったタイミングで財務会計の処理は一旦終わりですので、連結パッケージに数値を入力して提出します。連結パッケージとは、B/S、P/Lのほか相手会社別の内部取引やセグメント数値等の財務情報、人員情報や後発事象等の非財務情報等を入力する連結グループ共通のフォーマットです。
連結決算チームでは連結決算用のソフトウェア(DIVAやSTRAVISが代表格です)を用いてこれらのパッケージ情報を収集して数値を積み上げ、連結修正仕訳を投入し、開示資料を作成することになります。
税金計算②(グループ通算)
グループ通算制度を導入している企業集団では、グループ通算対象法人の決算が締まった段階でもう一度税金計算を行う必要があります。実務的には、グループ通算の対象となる各グループ会社が税金計算用のソフトに損益や各種調整項目等の必要情報を入力し、入力を締め切った後にソフトで計算を回して税額を確定させます。その後会計システムに仕訳を投入し、単体決算が確定します。
余談ですが、子会社の経理レベルは様々であり、規模が小さい会社だと担当者が処理の意味も良くわからないまま数値を入力してくるといったこともざらにあります(規模の小さい会社の場合は経理専任の担当者がいない場合もあるのでこれ自体は仕方のないことですが)。そのため親会社側でのチェックは非常に重要です。大企業の税務担当者は税金計算システムの使い方についての質問から研究開発税制や賃上げ税制のような細かい論点、果ては組織再編税制や国際税務に関する議論まで対応する必要があり、幅広い知識と高いコミュニケーション能力が要求されるポジションで、とても常人に務まるものではありません。一定以上の規模の企業であれば公認会計士や税理士等の有資格者が担っていることが多いですし、そうでなければ叩き上げの税務周りに異常に詳しいベテラン経理マンでしょうからなおのこと優秀な方だと思った方が良いでしょう。もしクライアントの税務実務を取り仕切っている立場の方に会うことがあれば畏敬の念を持って接しましょう。
開示資料の情報収集、資料作成
会社法計算書類や有価証券報告書では、財務諸表の本表の他に様々な注記が要求されています。金融商品注記や賃貸等不動産注記など、その注記のために各部門に依頼しての情報収集が必要なものもあります。
基本的に情報収集は期末までに終えていることも多いですが、本表が固まった後、開示のための細かい資料を作成していきます。
連結編
決算準備
単体と同様、決算前の準備を行います。決算ごとに国内外の子会社に指示書を発行します。
指示書には概ね以下の内容が記載されています。
・決算スケジュール
・連結パッケージへの入力内容や入力方法
・当期の留意点
・過去からの変更点
連結PKG締め、PKGチェック
単体決算が概ね締まるくらいのタイミングで連結PKGが締まります。その後、PKGに矛盾点がないかを親会社側で確認する作業を行います。
基本的にチェックリスト通りに確認していくことが多いのですが、やっていることはプチ監査のようなものなので本来は高度な会計知識が必要です。特に規模の小さい子会社などは監査法人の目が入らないことも多いですのでこのチェックがミス発見のための最後の砦になります。とはいえ子会社の数が多いと人海戦術にならざるを得ず、担当者のレベルに関わらず経理部総動員でチェックを行うこともあるため、チェックリストを適切に作成できていないと事故が起こり得ます(私も新卒配属の直後にPKGチェックを振られたのですが、当時は簿記自体よくわかっていないような状態だったので適切にチェックできていたかというと……)。
特に海外子会社とのやり取りは時差の問題があったり(下手をすると1つのキャッチボールに1日かかります)、どちらも母語でない英語でやり取りをしてうまく話が伝わらなかったりなど、なかなか難しいことも多いです。
個別修正仕訳・連結修正仕訳の投入
PKGがある程度固まったら、連結チームで投入すべき仕訳を投入します。開始仕訳の引継ぎや内部取引消去等はある程度システムで自動仕訳が入りますが、手仕訳が必要なものも相当ありますので漏れや誤りがないように仕訳を投入してきます。PKGへの入力内容が不十分だったり、記載内容が誤っている、子会社間で内容に矛盾があるといったこともありますので、必要に応じて子会社の担当者とコミュニケーションを取りつつ数値を固めていきます。
開示情報収集、作成
注記等の開示情報も基本的にはPKGで収集しているので、情報をまとめて開示を作成していきます。この過程で不明点があれば適宜部門や子会社に問い合わせを行い、監査法人や印刷会社ともコミュニケーションを取りつつ進めていきます。ここまで終わり、監査報告書を入手して決算書類を開示すれば晴れて決算は終わりです。
おわりに
以上、経理視点の決算スケジュールでした。
ここには書き切れていませんが、それぞれのプロセスで担当者ごとの苦労があり、そういった一つ一つの積み重ねで決算数値ができあがっていきます。
冒頭にも書きましたがこの記事に書いてある内容は私の経験に基づいたものであり、実際のスケジュールは会社によって様々です。とはいえ流れが大きく異なることはあまりはずですので、実務にあたり参考になれば幸いです。
実務を経験された方から見るとツッコミどころも多いと思いますので、何かありましたらnoteや𝕏にコメントいただけるとありがたいです。
お読みいただきありがとうございました。