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社会人からの公認会計士試験について

社会人からの公認会計士試験の受験について、思うところと自分自身の経験をまとめました。
私は上場企業の経理職→退職専念→監査法人という経歴で、経理時代に会計士試験の受験を志し、短答は働きながら、論文は専念で合格しました。
受験にあたっては「会計士試験はとにかく難しい、働きながらだとさらに難しいが中には合格できる人もいる」くらいの情報しか見当たらず(今は探せばもう少し体験記などが出てくると思いますが)、検討材料が少なく本当に大丈夫なんだろうかと思いながらも講座を申し込んだ記憶があります。
そのためこの記事は、社会人で会計士試験の受験を検討されている方、勉強を既にされている方向けに、検討の一材料や勉強方法の参考になればと思い書きました。


公認会計士試験の社会人受験について

会計士試験の社会人受験はどれくらい難しいのでしょうか。実際に受験を検討されている・既に勉強されている方であれば見たことはあるかもしれませんが、その難しさが端的に表れているデータがあります。公認会計士・監査審査会が毎年公表している「合格者調」です。

出典:令和5年公認会計士試験 合格者調

どこまでを「社会人」とするかは少し難しいですが、会計事務所員などは試験前に長期休暇を取れることも多いため除外するとし、「会社員」「公務員」「教員」で計算すると合格率は3.4%です。学生合格率は9.6%ですからおよそ3分の1ですね。ひとつ前の令和4年試験で同様の計算を行うと合格率は2.9%になります。またこれは「出願時の申告に基づくもの」なので、例えば私のように試験年の4月に退職した場合は受験時に無職でも「会社員」としてカウントされています。そのため最後まで働きながら受験された方の合格率はこれよりもう少し低いはずです。
会計士試験は一個一個の論点が難しいというよりは、試験範囲が膨大すぎるため難易度が高い、といった類の試験です。学習に投下できる時間の多寡が合格率に直結し、このような結果になっているのだと思われます。
その上、上記はあくまで願書提出者に対する合格者の割合です。実際には会計士試験の講座を申し込んだものの受験に至らなかった方も多くいるので、「会計士を目指した社会人受験生」の合格率はこの半分に満たないのではないでしょうか(検証不能ですが)。

また、社会人受験生で一番大変なのは、実は勉強時間の確保よりもモチベーションの維持です。毎日残業なしといった職場であれば安定して勉強を継続しやすいと思いますが、多くの職場はそうではありません。例えば経理職だと3か月に一回は繁忙期が来ますし、トラブルや異動等で突然業務負荷が高くなることもあります。そうすると学習習慣が完全に崩れてしまうため、毎回毎回元に戻すには大変なパワーが必要です。そして仮に合格できなかったとしても別に食うに困ることはないため切迫感は大きくありません。こうした状況でモチベーションを維持し、何年にもわたってしっかりとした勉強を継続するのは至難です。これで脱落してしまう人、あるいはだらだらと受験生活を続けてしまう人も多いのではないでしょうか。

脅しのようなことを書いてしまいましたが、こういった前提があってもやる覚悟がある方でなければ働きながら会計士試験の受験をしてはいけないと思います。会計士講座の料金は高いですし、3年かそれ以上の自分の余暇の時間を棒に振りかねません(勉強したこと自体が無駄になることはありませんが、やはり資格を取れるのと取れないのとでは大きく違います)。USCPAを目指す、簿記1級を取ってTOEICも高得点を目指す、といったように会計でキャリアアップを狙うのであれば他の道も多くあります。

また、監査法人の先輩や同期で前職がある方をみると、大半の方は退職し専念生になってから短答に合格されています。専念生として受験した場合、少なくとも2,3年は職歴が空いてしまいますしそれで合格できるとも限らず(そもそも専念生でも合格率は1割未満です)、またその間の生活を維持できる資金・環境が必要ですので積極的におすすめすることはできません。とはいえこれが最も合格率が高いのも間違いないので、ひとつの選択肢ではあるでしょう。

それでも会計士になりたい、でも過度なリスクは取りたくない、という方は、私のように短答までは働きながら合格して論文は専念で合格を目指す、というのが有効な選択肢だと思います。働きながら短答に合格できたのであれば、専念すれば論文も通る確率はかなり高いはずです(必ず通るとは言いませんが)。短答合格までに専念のための資金を貯めることもできます。
働きながらの論文合格はどうしても確率の要素が入ってしまうので、「会社を辞めるつもりはないが会計士試験を受験している」というわけでないのであれば、個人的にはこのプランを推します。あるいは監査法人の短答合格者採用の制度を使うのも一つの手でしょう。

ちなみに働きながら論文まで合格された方々の体験記は以下で読めます。私も社会人合格者のお話を何人かから伺ったことがあり、皆さん異常者(褒め言葉)なのですが、参考になる内容だと思います。

私の勉強履歴、やって良かった勉強法

以下は私の合格体験記のようなもので、時系列で記載しています。
特に強調したいのは以下の二点です。

  • とにかく短答までに計算を仕上げること。特に社会人受験の場合はこれができるかどうかで合格率が大きく変わるはず。

  • 自分の弱い分野は常に把握しておき、できるだけ弱みを減らすこと

短答合格まで

前提として、私は令和3年(2021年)5月短答合格、令和4年(2022年)論文合格です。
2019年12月:
21年合格目標で勉強を開始、予備校は大原でした。
まずは講義の配信スケジュールをペースメーカーにしつつ、働きながらの場合スケジュール通りに消化できるわけがない(そもそも12月に受講開始って結構遅いのではじめた時点である程度講義が進んでいました)のでとりあえず8月までには全部消化しようと思い、講義視聴を進めました。
この時期は基本的に答練、演習の類は受けていません。というか地方だったため演習・答練はすべて平日の勤務時間中に行われており受験できませんでした。後日に手を回すにしても分量的に無理です(ただし、試験形式に慣れるため2021年に入ってからは数回、答練を解きました。短答模試も土日だったため受験しました)。

その代わり、財務と管理の計算問題集はやり込みました。基本的に短答受験までにすべての問題を3周かつできなかった問題はできるまで解く、ということを繰り返しました。問題の横に解いた日付と、解けたら〇、解けなければ×、解けはしたけど理屈が良くわかっていないなど消化不良な部分があれば△をメモし、〇が3つになるまで何回も解く、というイメージです(逆に〇が3つ付いた問題は回転の際は飛ばします)。
この△というのが一番のポイントです。
問題集にしても答練にしても一番怖いのは解けなかった問題ではなく、「よくわかっていないけどたまたま正解できてしまった問題」です。なまじ正解してしまっているため復習が手薄になりやすいですが、時間をおいて次に解いたときは解けなくなっている可能性が高いため、△は基本的に×と同じです。しっかり解けるようになるまで根気よく復習すべきです。

解いた問題の横に日付と〇×△をメモしていました

問題集を何周も回すと答えを覚えてしまって……という話も時々聞きますが、解答に至るプロセスまで覚えてしまっているならばそれで全然問題ありません。一方、プロセスはわからないけど解答だけ覚えている、というのは覚えているうちに入りません。プロセスが全部説明できるまでは×か△として正解していないものと考えた方が良いですし、そこまでできてはじめて「答えを覚えてしまって……」といった言葉を使うべきです。

また、常に「自分はこの分野が弱い」というのも把握するようにしていました。答練を受けていないため自分の立ち位置が分からない状態でしたが、基本的に弱点が少なければ合格できる試験です。その意味でも上記の〇×△を使った勉強は弱点が明確にわかるため、おすすめです。

日々のスケジュールですが、正直なところ私はかなりムラが大きかったです。調子がいい時期は出社前に1時間、退社後は深夜まで5時間ほど勉強し土日も8~10時間、といったペースで勉強できていましたが、繁忙期後など気持ちが乗らず一日1時間程度しか勉強しない日が続く、といった時期もありました(10分でも20分でも、気合で毎日机に向かうようにはしていましたが)。
それでも、長期スパンで計画を立てて着実に実行する、というのは厳守しました。私がやった勉強は結局のところ講義を視聴し問題集を3回〇がつくまでやり切る、ということに集約されるわけで、それが短答までにできれば問題ない、という考え方で勉強をしていました。
よっぽど意志の強い人でなければ過度に負荷のかかった勉強法は持続しません。会計士試験の勉強は数年に渡りますので、常に根を詰めすぎるよりは多少息を抜く時期もあった方が良い結果につながりやすい気もします(息を抜きすぎてはだめですし長期スパンの計画は実行する前提です)。

2020年6月頃:
コロナの影響で12月短答がなくなり、5月短答のみになるというアナウンスがありました。12月短答に合格できれば一か八か専念するか……?ということを考えていたのですが、この時点でその選択肢はなくなります。

2020年10月頃:
このあたりまで問題集は財務と管理しかやっていませんでしたが、この頃から主に通勤時間を使って企業・監査・財務理論の肢別問題集を解きはじめました。これも問題集と同様、解答プロセスまで理解した上で正解できれば印を付け、印が3つ付くまでは何回でも回転する、といった方法で学習しました(問題集のスペースの都合上〇×△は書けなかったのでこのような書き方をしていました)。正解できたかどうかより、正解に至るプロセスの方が重要です。何度も間違えるような箇所は苦手分野なので、テキストに立ち返って復習していました。
また、短答受験が5月ですが、直前期は決算で繁忙期のため勉強できなくなることが予想できました。そのため、3月には上記の学習を全て終わらせられるよう計画を立てました。

この頃、翌年の5月短答に合格し8月の論文がだめであれば退職・専念しようと決めました。資金計画を立てて、財形貯蓄等を使って専念資金を準備しはじめます。

2021年4月~5月:
仕事の経理業務が決算のため残業祭りになってしまい、予想通り一切勉強ができませんでした。GWは若干勉強をしたもののやる気も出ず、結局4月5月はほとんど机に向かった勉強をできないまま短答式試験に突入します。おそらくこの2ヶ月で机に向かった時間は20時間にも満たなかったはずです。
通勤時間を使った企業・監査・財務理論の肢別問題集での学習は継続していました。

2021年5月:
短答式試験を受験し、合格します。
直前期にまともな勉強をしていなかったのに合格できた要因としては、間違いなく3月までに計算を固められていたことが大きいです。計算は一度身に付いてしまうと理論に比べて忘れにくく、また記憶が戻るのも早いため、少し勉強期間が空いてしまっても勘が戻りやすいです
この「一度固めればしばらく触っていなくても勘が戻りやすい」というのは論文期、ひいては修了考査に至るまで効いてきます。節の冒頭で「とにかく短答までに計算を仕上げる」と書いたのはこのためです。

論文受験(一回目)~退職

6月7月と税務申告や四半期決算で忙しい上に異動も重なったためまた残業祭りになってしまい、この時期はほぼ勉強できませんでした。この時点で租税と選択科目(私は統計でした)にほぼ手を付けていたかったですし、他の科目も論文対策は一切していなかったので、今年の論文は無理だなと諦めていました。成績は以下の通りで、そりゃまあそうなるわという感じです。

令和3年の論文成績表

ぶっつけ本番で受けた割には会計学が悪くなく、やはり計算が仕上がっていれば点は取れるということを感じました。諦めずに会計学を勉強していれば科目合格を狙えたかもしれないと若干後悔したのを覚えています。

以前から決めていた通り退職を決意し、11月の合格発表後に上司にその旨を伝えます。3月に退職(最終出社は2月)するつもりでしたがなんだかんだあり4月退職(最終出社は3月)に延ばしました。円満退職をしたかったですし、有休消化期間が4月にかかりボーナスを満額もらうことができたので、結果的にこの選択は正しかったです。

退職までは引き継ぎ資料の作成や送別会、「辞めてからでなんとかなるだろう」という気の緩み等でまとまった勉強をできていませんでした。
租税と統計の講義を進め問題集をちまちまと解く程度しかしていなかったのですがこれはあまり良くなく、普通に考えてもっとがっつり租税・統計に取り組んだり、会計学の計算の復習をしたりすべきでした。

退職後~論文受験(二回目)

2022年4月:
退職直後に大原の第1回模試を受験しました。成績は以下の通りで、なかなかひどいものです。ただし論文対策の勉強をろくにしておらず想定通りの結果ではあったので、あまり焦りはありませんでした。
また会計学はCで比較的悪くなく(良くもないですが)、やはり計算は裏切らないということを再認識しました。

2022年 大原論文模試1回目

ここで会計学と監査論はそこまで悪くなく、租税・統計・企業が強化すべきポイントだと判断しました。特に租税・統計は計算の要素が強く成績が安定しやすいと考えたため、重点的に取り組むことを計画します。
具体的には5月末までに租税と統計、財務理論の講義を全部消化し、並行して第2回模試(7月半ば)までに租税・統計の問題集を〇×△をつけながら3周、企業法と監査論の論述問題集は2周するという計画を立て、実行しました。また演習や答練は基本的に参加するものの、回転は7月以降に行うことにしました。
一方、会計学は週1~2回のペースで演習か答練があったためそこで計算力を維持し、それ以外は基本的に手を付けず6月末までは放置することにしました。
会計学で手を抜いたとはいえ上記を全てやり切るのは結構大変で、基本的に専念になってからは毎日10時間程度は勉強をしていました。

7月からは全科目の答練の回転に入ります。統計は毎日問題を解き、他の科目は租税・管理・監査の日/財務・企業の日と分け2日で全科目に触れるようにしていました。答練回転と並行して財務・管理の理論の詰め込みも開始します。理論問題集の解答の主要部分を緑マーカーで塗って赤シートで隠す、という方法で本番までに7周しました(結局管理はやり切れませんでしたが……)。
また7月半ばからは原価計算基準を毎日1時間ほど音読していました。今振り返ると原価計算基準の音読は本試験の数ヶ月前からはじめるべきでした。頻出の分野です。

答練の回転に関しても、1回目に解いたときに「これは復習の必要はない(ほぼ完璧に理解している)」と判断したもの、逆に「これはもう一度解きたい」と判断したものはそれぞれ印を付けておき、問題に応じて適宜2周目をスキップしたり、3周目を解いたりしていました。
問題集も答練も、ただ形だけ回転するのは時間の無駄です。自分の弱い分野を把握し、潰していくことがとにかく重要です。
7月半ばにあった大原模試は以下の結果でした。ほぼ想定通り成績が上がっていたため、上記の勉強法で本番まで突っ走りました。

2022年 大原論文模試2回目

論文直前の1週間では特に弱い、見返しておきたいと思っていた範囲の問題集、答練を集中的に解きました。また、租税法の理論対策講義を一通り見返したのですが、非常にコスパがよく本番の成績も確実に上積みされたのでおすすめです。

8月に論文の本番を受験し、結果は以下の通りでした。

令和4年の論文成績表

一見バランスが良い成績に見えますが、よく見ると管理会計(会計学第1問・第2問)が事故っています(管理会計は大原の第2回模試では偏差値60を超えていました)。管理会計・監査論・企業法は試験範囲に対して出題範囲が非常に狭いため、いくら答練・模試の成績が良くても本番の出題範囲によっては大事故が起こり得ます。ある答練で得意分野が出て偏差値60以上だったがその次は40台まで落ちた、ということはざらにあるはずです。模試の成績に捉われすぎず自分の弱点を把握する、ということが非常に大切な所以です。

働きながらの論文受験について

ご存じの通り、論文では租税法と選択科目が増えます。また会計学の理論は短答に比べ相当ボリュームがある上に、企業法はもはや短答とは別科目なので、自分の体感では短答から4,5科目増えたような感覚でした。
この試験範囲を働きながら全部さらうのは(試験休暇を月単位で取れるとかでなければ)どだい無理で、確実にヤマ当ての要素が入るでしょう。当たりやすいヤマというのはあるので確率は下がるものの合格できる可能性はありますし、科目合格も組み合わせて短答合格後に2,3年計画でやればそこそこの確度で合格できる道筋はあると思います。ただこの場合、最初の方で触れたモチベーション維持の問題が大きな障害となるでしょう。
監査法人への転職を考えているのであれば早く合格するに越したことはないですから、働きながら論文を受けるか、退職専念するかは合格確度と落ちた時のリスクを天秤にかけるような選択になります。
会社を辞めるつもりがないのであればヤマを張って確率に賭ける戦略、あるいは科目合格狙いで複数年計画というのが現実的だと思います。ただこれは私がやれなかったことなので、特に語れることはありません。

なお、論文の方が大変というのはあくまで私の主観です。Twitter(現𝕏)でそういった趣旨のことを呟いたところ逆に短答の方がハードルが高かったというリプライもいただいたので、あくまで一意見として捉えてください。

おわりに・会計士試験を受験して良かったのか?

以上が私が公認会計士試験の社会人受験について思っているところと、自分の体験記です。
ではそもそも、会計士はここまでして目指す価値があるものなのでしょうか。
Twitterのタイムラインには特に監査法人に勤務されている会計士の方々の怨嗟の声が流れてくることも多く、給料も(あくまで大企業と比較してですが)実はそこまで、といった話もよく見かけます。

監査法人の働き方や業界構造などに問題が多いのは事実です。また給料も、私の場合前職に残った場合と監査法人に入った今を比較するとむしろ下がっています。その上無職の間は無収入でしたし。
一方で、いつでも組織を辞められる、住む場所を自分で選べる資格を得られたという点で、この試験に合格できたことは非常に大きいです。このメリットは新卒で監査法人に入った方はあまり感じることはないのかもしれませんが、通常そんな条件で働けることはほぼありません。キャリアの幅も合格前より圧倒的に広がったので、これからどういったキャリアにしようというワクワクも感じています(もっともこれは悩みでもあるのですが……笑)。
また、監査法人の同期や補習所、Twitter、note等を通じて多くの方々と知り合うことができ、やり取りをする機会が大幅に増えました。これは試験合格前には想像もしていなかったことでしたが、社会人数年目になってこうやってコミュニティが広がるというのはあまりなく、大変ありがたいことです。
こういったことから、私の場合は会計士試験を受験するという判断は(少なくとも今のところは)大正解だったと思っています。合格できたから言えることかもしれませんが、リスクを負って目指す価値のある資格です。

長文になってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。
読んでくださった方の参考になりましたら幸いです。

ちなみに以下のようなnoteも書いています。合格されて補習所短縮を考えられるようなことがあれば、こちらも参考にしていただけると嬉しいです。


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