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フランスMBAのアントレプレナーシップ教育は今何を教えているのか?〜Term4中間振り返り〜

こんにちは!前回のTerm3振り返りから夏休みを経て3ヶ月が経ちました。
前回の自炊記事は完全にフランス生活者向けだったので、今回は9月・10月のTerm4の中間振り返りをしたいと思います。

本題に入る前にアントレで思い出しましたが、以前の記事で書いたアントレクラブのトレックの話がHECのグローバルウェブサイトに載りました!簡単な取材も入れてくれたのでよかったらご一読ください。


7コースで構成されているSpecialization

まずプログラムの紹介です。9月中旬から始まるTerm4はSpecializationといって自分が専攻したいコースを選び、そのコースの中で複数の授業がセットになっているというプログラムです。3ヶ月の授業+Examという形式です。自分の代のSpecializationは以下の図のTerm4に書いてある7つの中から選べました。毎年変わるので参考程度にしてください。

https://www.hec.edu/en/mba-programs/mba/learning-experience

また、Specilization以外にも3ヶ月の交換留学(Exchange)を選ぶことができ、9月入学の人の申込みはTerm2の終わり頃です。日本人も1/3くらいは交換留学に行っており、全体ではHECとのダブルディグリープログラムもあるUSのYaleに行く人が多かったです。LBSの倍率がかなり高かったようでした。自分はパリが気に入っていたのと、パリに家を借りていたり猫もいる関係で申し込みはしませんでした。ちなみに現地就活を考えている方は交換留学と就活のタイミングが重なってしまうので要注意です。

7科目で構成されているアントレプログラム

さて、Specilizationですが、自分はアントレプレナーシップ専攻を取りました。Marketingと悩んだんですがTerm3はKeringのLuxury Certificateを選んだので、バランスをとってTerm4はアントレ側に振りました。

自分の代のアントレSpecializationは以下のプログラム構成でした。

・Advanced Entrepreneurship
・Navigating Scale-up
・Entrepreneurial Finance and Venture Capital
・Meaningful Entrepreneurship
・Managing Innovation in Established Firms
・Search Funds and Entrepreneurial Acquisitions
・Innovative Marketing and the Marketing of Innovation

※S23/J24の例

これらそれぞの科目で教授が異なり、ほぼ全員起業経験を持っているのが特徴です。Term3のLuxuryに続き、Term4のアントレもしっかり経験のある教授が教鞭を取っている印象です。クラスサイズは自分の代は25人で、ヨーロッパ・アジア・アフリカ出身者がバランスよくいて、あとはアメリカ・ラテンアメリカ・ロシア出身がちらほらいる感じです。

言い忘れましたがこのSpecializationは1月入学と9月入学が混ざって授業を受けていくので、Term4に来て初めて話すような人も出てきてとても面白いです。

↑授業を受ける部屋は卒業生の寄付金によって特別に作られています。

アントレは、教えられるものとそうでないものがある。

自分はMBAに来る前は大企業2年、スタートアップ8年の生粋のスタートアップ育ちです。特にシリーズA〜IPO〜Post IPOを経験させてもらいましたが、印象に残っているのは、スタートアップは常に変化し、自分自身やファウンダー自身も成長していくことが求められるというものです。(というか気づいたら成長している、というのが正しい感覚です。)

スタートアップは目まぐるしい環境で不確実性の中で意思決定を繰り返し、実行と反省を繰り返しながらスケールアップしていきます。そのスケールアップする中でのヒリヒリするような感覚や、生産性を最大限まで高め大事なことに焦点を当てひたすらエクセキューションしていくこと、そして強いカルチャーを全員でシステムとして育んでいく感覚は、教えることができないと感じました。

アントレクラブ主催で開催されたフランス起業家シリーズ"French Tech Leaders"

起業=アントレではなく、起業⊂アントレ

また個人的な見解ですが、起業=アントレではなく、起業⊂アントレという感覚が正しく、大企業でもCEO継承でも起業でも通じるマインドセット・スキルを学ぶのがMBAのアントレの授業だと思います。起業だけしたいなら学ぶよりもさっさとやるべきだと思いますし、そう言われてると思います。

じゃあ授業を通じて何を学んだのか?以下、簡単にそれぞれの授業に対してコメントしていきます。

Advanced Entrepreneurship

HECでなんと22年間(!)もアントレプレナーシップを教えている教授がこのプログラム全体の責任者としてクラスを設計しています。HEC Innovation and Entrepreneurship Instituteが作られる前からHECのアントレとDeepTechのエコシステムを担っています。今年の6月にはその功績でBNP Paribas Teaching Award 2024を受賞されていました。

執筆時点でまだ授業が1ヶ月残っている状態ですが、CEOとしての心構えからチームの作り方、自分の起業の失敗から学んだことや思考方法、起業家ゲストスピーカーを招いてのセッションやイントレプレナーシップについて教わっています。

初めはまずは"Know Yourself"ということでPCMと呼ばれるパーソナリティー診断を元に自分のタイプを俯瞰し、どのように共同創業者を見つけ、どのようにチームを作るべきか考え方を議論していきました。また教授が起業をしていた経験から資金調達のシリーズごとにCEOはどこにどのように時間配分を割り当てるべきか、株の配分をどう考えるべきか、各ボードメンバーがどのような責任を持つべきか、ネットワーキングをする際のコツなどを経験を元に議論しながら学んでいます。とても話しやすく気さくな教授で休み時間にキャリアの相談に乗ってもらったりしています。

ゲストセッションでは元Apollo(大手PE)のパートナー・元モナコ公国主席補佐官・元HEC Paris Alumni President・元HEC Foundation Presidentで今は自分で起業している大物が講演に来てくれました。なんと毎日授業を受けている教室の名前がそのゲストの名前で、HECで初めて寄付運動をした人物としても有名みたいです。他のゲストも金融関連で起業した卒業生などが来てくれました。

Navigating Scale-up

この授業のためだけに、アメリカから金融関連の起業経験のある教授が来てくれます。LinkedInでも12万人のフォロワーがいるアメリカ人の起業家です。2007年にシカゴで起業し、2018年までCEOを務め、今でも会長としてシカゴとNYで現役で働いている方です。よって、ちょっと早くアメリカに戻らないといけなくなったから授業のスケジュール変更で前倒し!という影響も受けました。笑

中身としては0から500人を超える起業のスケールアップの中で失敗したこと、そこから学んだことを独自のケースに落とし込んで教えてくれます。全て実際に起こったことかつ実践的な内容で、おすすめの書籍リストは送っておくから授業外で自分で読んでくれ、授業は経験をシェアする、という方針でした。

Entrepreneurial Finance and Venture Capital

トロントやバルセロナで教鞭を取っていた教授で、この人のみずっとアカデミック畑にいる方でした。が、個人的にはこの授業が7個の中でも一番面白かったです。今まで起業のファイナンス道具としてのファイナンスを読んだくらいしかなかったので、改めてValuationからVC投資のDeal Termや株式の種類などを体系的に学べたので今までの経験とも相乗効果があった授業でした。授業の合間にGCPさんのベンチャーキャピタルの実務コーポレートファイナンス 戦略と実践 を読むことで理解が深まりました。あとCoral Capitalさんのファイナンスブログも大変参考になりました。

授業で印象に残っているのは、セコイアのYoutubeへのInvestment Memoを題材にしたり、FigmaのシリーズBのファイナンスを題材にしたり、持ってくる事例が面白かったです。またCDLと呼ばれるDeepTech・ClimateTechのプログラムを卒業した企業を題材にVCのアソシエイトとしてパートナーにプレゼンする最終課題もあり、審査員もいて面白かったです。自分は今ホットなDAC (Direct Carbon Capture)スタートアップを選びました。DAC市場・Carbon Trading市場って奥が深いですね。

Meaningful Entrepreneurship

シラバスはMindful Entrepreneurshipでしたが、教授がひたすらMeaningful Entrepreneurshipと授業内で言っていたので変わったんでしょう。笑 いわゆるサステナビリティーとBusiness Ethicsを学ぶ授業です。教授は現役で製薬会社のInternational Directorを務めつつHECで教鞭を取っています。過去にコスメティック分野で起業経験がある方でした。

ゲストが2人きて1人はL'Orealのサステナビリティーマネージャーで、かの有名なGarnierのGMを務めていた方でした。毎日Garnierを使っているのでびっくりです。スライドたっぷりでL'Orealのサステナビリティーに対する取り組みを話してくれました。もう1人はサステナ領域で生活用品を作っている企業のDirectorで、フランスの小売業界について話してくれました。

Managing Innovation in Established Firms

執筆時点でまだ終わっていませんが、元コンサルでStrategyとBusiness Model Innovationの本を出している女性の教授です。HECのExecutive MBAのAcademic Directorを務めていたり、学校内で様々な役割を担っています。

内容としては大企業でどのようにイノベーションを起こしていけるのか、またスタートアップと比較してどのようなロジックでイノベーションが生まれにくいのか、CVCやイントレプレナーシップをゲスト講師や企業訪問をしながら学んでいきます。執筆時点ではCFAO(Corporation For Africa & Overseas)というアフリカに特化した商社のExecutiveが来て、主にMobility54というトヨタ通商とCFAOのジョイントベンチャーCVCについて話してくれました。

ティーチングスタイルとして、座学・インタラクション・外部ゲスト・グループワークのバランスがとれていたり、事例がアカデミックすぎず実践的なものが多く学びが深いです。

Search Funds and Entrepreneurial Acquisitions

まだ始まっていないので、授業が終わったら追記します。

教授はサーチファンド業界で世界的権威のJan Simonさんで、長年IESEで教鞭を取っていますが、去年からHECでも授業を持ってくれています。著書に"Search Funds & Entrepreneurial Acquisitions"があり、まだ日本語訳されていませんがサーチファンドに関して体系的にまとまっている貴重な本です。日本でもサーチファンドがトレンドになりつつあるのを肌で感じています。

Innovative Marketing and the Marketing of Innovation

まだ始まってないので授業終わったら追記します。

いくつかの授業を終えて現時点の感想

ということで、Term4中間振り返りでした。今回のSpecializationでは色んな角度からアントレプレナーシップを学ぶことができましたが、改めて今までのスタートアップ経験を振り返り、足りてなかったファイナンスの観点を補足したり、今話題のサーチファンドの仕組みを学べるのが特徴かな(と予想してます。笑)と思います。

アントレバックグラウンドある人は振り返りとしておすすめです。一方で内容としては(執筆時点では)特に真新しいことはなかったので、グローバルな事例のインプットとしてはいいかなと思います。MBA総じてですが、これを学べば万能!みたいなものはもちろん無く、視野が広がったり、グローバル人材の視点やグローバル事例を知れたり、人的ネットワークが広がったり、資産的な意味合いの方が強かったと改めて感じてます。

連続起業家でアントレクラブPresidentを引き継いだ後任と一緒に授業を受けるのも新鮮。

終わりに:アントレに海外MBAって必要?

起業に海外MBAって必要なの?と聞かれるともちろんNOですが、アントレに海外MBAって役に立つの?と聞かれたらYESです。アントレの授業って起業に役立つ?と聞かれるとCase by caseですが、受けておいてよかった?と聞かれるとYESです。MBAに来る前と比較して以下の点が変わりました。

・グローバルネットワークが異常に広がった(ほぼこれメイン)
・起業家/起業の志がある友人が増えた
・グローバルトレンドを抑えられるようになった
・ビジネスの立ち上げとスケールに必要な知識は一通り身についた
・特定の国(フランス)のアントレエコシステムが理解できた
・ある程度英語が話せるようになった(純ドメだったらこれ大事だと思う)

あくまで筆者の主観です。

特に、上記を学んだことで色んな人生の選択肢を考えられるようになったのも大きいなと思います。個人的にこれからの時代は1つの国だけで一生を終えるようなライフプランは一般的ではなくなりorリスクが大きくなり、どの地域とどの地域でどのように生きていきたいのかを考えたり、日本が人口減少していく中でDestinationとしての日本が繁栄していく時代に自分はどう生きたいのか?が突きつけられる時代に入っていくと思っています。

そんな中で、世界で色んな地域で色んなキャリア、そして人生を送っている人と知り合うことや事例を通じてその生き方を知ること、選択肢自体を知ることは豊かな人生に繋がっていくんだと思います。

はい、最後完全に散らばりましたね。(笑)
ということで、Term4の中間振り返りでした!ここまで読んでいただいた方ありがとうございます!次回はHEC Parisのアントレエコシステムとフランスのアントレエコシステムの記事を書こうかなと思ってます!ではでは〜👋

昨日行ったロダン美術館のハロウィンイベント🎃

最後まで読んでいただきありがとうございます!