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全授業終了!フランスMBAのアントレプレナーシップ教育は今何を教えているのか?〜Term4振り返り〜
こんにちは!前回のTerm3振り返りから夏休みを経て4ヶ月が経ちました。ついに先週で授業が全て終わり、残された課題も昨日提出し、無事に卒業を迎えることができそうです・・!別途全体の振り返り記事は書きたいと思います。
前回は夏休み振り返りと自炊記事を書いたので、今回は9月〜12月のTerm4の振り返りをしたいと思います。
本題に入る前にアントレで思い出しましたが、以前の記事で書いたアントレクラブのトレックの話がHECのグローバルウェブサイトに載りました!簡単な取材も入れてくれたのでよかったらご一読ください。
7コースで構成されているSpecialization
まずプログラムの紹介です。9月中旬〜12月頭にかけて行われるTerm4はSpecializationといって自分が専攻したいコースを選び、そのコースの中で複数の授業がセットになっているというプログラムです。3ヶ月半の授業+テストor課題という形式です。自分の代のSpecializationは以下の図のTerm4に書いてある7つの中から選べました。毎年変わるので参考程度にしてください。
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また、Specilization以外にも3ヶ月の交換留学(Exchange)を選ぶことができ、9月入学の人のExchange申込みはTerm2の終わり頃です。日本人も1/3くらいは交換留学に行っており、全体ではHECとのダブルディグリープログラムもあるUSのYaleに行く人が多かったです。LBSの倍率がかなり高かったようでした。自分はパリが気に入っていたのと、パリに家を借りていたり猫もいる関係で申し込みはしませんでした。ちなみに現地就活を考えている方は交換留学と就活のタイミングが重なってしまうので要注意です。
7科目で構成されているアントレプログラム
さて、Specilizationですが、自分はアントレプレナーシップ専攻を取りました。Marketingと悩んだんですがTerm3はKeringのLuxury Certificateを選んだので、バランスをとってTerm4はアントレ側に振りました。
自分の代のアントレSpecializationは以下のプログラム構成でした。
・Advanced Entrepreneurship
・Navigating Scale-up
・Entrepreneurial Finance and Venture Capital
・Meaningful Entrepreneurship
・Managing Innovation in Established Firms
・Search Funds and Entrepreneurial Acquisitions
・Innovative Marketing and the Marketing of Innovation
これらそれぞの科目で教授が異なり、ほぼ全員起業経験を持っていたり今でも働きながら教えているのが特徴です。Term3のLuxuryに続き、Term4のアントレもしっかり経験のある教授が教鞭を取っている印象です。クラスサイズは自分の代は25人で、国籍で言うとヨーロッパ・アフリカ・インド・ラテンアメリカ・ロシア・中国・日本のような感じです。
言い忘れましたがこのSpecializationは1月入学と9月入学が混ざって授業を受けていくので、Term4に来て初めて話すような人も出てきてとても面白く、特にメンバーに恵まれたのかとても仲良くなりました。
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アントレは、教えられるものとそうでないものがある。
自分はMBAに来る前は大企業2年、スタートアップ8年の生粋のスタートアップ育ちです。特にシリーズA〜IPO〜Post IPOを経験させてもらいましたが、印象に残っているのは、スタートアップは常に変化し、自分自身やファウンダー自身も成長していくことが求められるというものです。(というか気づいたら成長している、というのが正しい感覚です。)
目まぐるしい不確実性の中で意思決定を繰り返し、実行と反省を繰り返しながらスケールアップしていきます。ヒリヒリするような感覚や、生産性を最大限まで高め大事なことに焦点を当てひたすら実行していくこと、そして強いカルチャーを全員でシステムとして育んでいく感覚は、実際に働いてみないと経験できないなと感じました。
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起業=アントレではなく、起業⊂アントレ
今回の授業で特に学んだのは起業=アントレではなく、起業⊂アントレが正しく、大企業の中でアントレプレナーシップをどうシステムとして育んでいくか、サーチファンドモデルで買収してCEOになるケース、実際起業・スケールアップする時に知っておきたかったマインドセット・スキルを学べたのがハイライトでした。特にファイナンス関連のトピックと紐づくことが多かったと思います。授業を通じて何を学んだのか?以下、簡単にそれぞれの授業に対してコメントしていきます。
Advanced Entrepreneurship
HECでなんと22年間(!)もアントレプレナーシップを教えている教授がこのプログラム全体の責任者としてクラスを設計しています。HEC Innovation and Entrepreneurship Instituteが作られる前からHECのアントレとDeepTechのエコシステムを担っています。今年の6月にはその功績でBNP Paribas Teaching Award 2024を受賞されていました。右が教授で、左が起業家でHECのアントレ専用の教室を寄付して作ってくれた人物です。ゲストとしても来てくれました。
教授はフランスで起業をした経験のある人で、自分の起業の失敗から学んだことや思考方法、CEOとしての心構えからチームの作り方、起業家ゲストスピーカーを招いてのセッションやイントレプレナーシップについて教えてくれました。
一番時間をかけていたのは"Know Yourself"ということでPCM (Process Communication Model)と呼ばれるパーソナリティー診断を元に自分のタイプを俯瞰し、どのように共同創業者を見つけ、どのようにチームを作るべきか考え方を議論していきました。また教授が起業をしていた経験から資金調達のシリーズごとにCEOはどこにどのように時間配分を割り当てるべきか、株の配分をどう考えるべきか、各ボードメンバーがどのような責任を持つべきか、ネットワーキングをする際のコツ(フランスではマジで大事なので・・)などを経験を元に議論しながら学んでいます。とても話しやすく気さくな教授で休み時間にキャリアの相談に乗ってもらったりしました。
ゲストセッションでは元Apollo(大手PE)のパートナー・元モナコ公国主席補佐官・元HEC Paris Alumni President・元HEC Foundation Presidentで今は自分で起業している大物が講演に来てくれました。なんと毎日授業を受けている教室の名前がそのゲストの名前で、HECで初めて寄付運動をした人物としても有名みたいです。他のゲストも金融関連で起業した卒業生などが来てくれました。
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まとめると自分自身を理解することが最も大事で、次にエグゼクティブメンバーのことをPCMで理解して最適なチームを作ろうね、という感じです。
Navigating Scale-up
この授業のためだけに、アメリカから金融関連の起業経験のある教授が来てくれます。LinkedInでも12万人のフォロワーがいるアメリカ人の起業家です。2007年にシカゴで起業し、2018年までCEOを務め、今でも会長としてシカゴとNYで現役で働いている方です。よって、ちょっと早くアメリカに戻らないといけなくなったから授業のスケジュール変更で前倒し!という影響も受けました。笑
中身としては0から500人を超える起業のスケールアップの中で失敗したこと、そこから学んだことを独自のケースに落とし込んで教えてくれます。全て実際に起こったことかつ実践的な内容で、おすすめの書籍リストは送っておくから授業外で自分で読んでくれ、授業は経験をシェアする、という方針でした。この授業はハードスキルというよりもソフトスキル中心でした。
Entrepreneurial Finance and Venture Capital
トロントやバルセロナで教鞭を取っていた教授で、現役でCDL (Creative Distruction Lab)と呼ばれるDeepTechプログラムのメンターをしている人です。個人的にはこのベンチャーファイナンスの授業と後述するサーチファンドの授業が一番面白かったです。今まで起業のファイナンスと道具としてのファイナンスを読んだくらいしかなかったので、改めてValuationからVC投資のDeal Termや株式の種類などを体系的に学べたので今までの経験とも相乗効果があった授業でした。授業の合間にGCPさんのベンチャーキャピタルの実務やコーポレートファイナンス 戦略と実践 を読むことで理解が深まりました。あとCoral Capitalさんのファイナンスブログも大変参考になりました。
授業で印象に残っているのは、セコイアのYoutubeへのInvestment Memoを題材にしたり、FigmaのシリーズBのファイナンスを題材にしたり、持ってくる事例が面白かったです。先ほどのCDLと呼ばれるDeepTech・ClimateTechのプログラムを卒業した企業を題材にVCのアソシエイトとしてパートナーにプレゼンする最終課題もあり、審査員もいて面白かったです。自分は今ホットなDAC (Direct Carbon Capture)スタートアップを選びました。DAC市場・Carbon Trading市場って奥が深いですね。
Meaningful Entrepreneurship
シラバスはMindful Entrepreneurshipでしたが、教授がひたすらMeaningful Entrepreneurshipと授業内で言っていたので変わったんでしょう。笑 いわゆるサステナビリティーとBusiness Ethicsを学ぶ授業です。教授は現役で製薬会社のInternational Directorを務めつつHECで教鞭を取っています。過去にコスメティック分野で起業経験がある方でした。
ゲストが2人きて1人はL'Orealのサステナビリティーマネージャーで、かの有名なGarnierのGMを務めていた方でした。毎日Garnierを使っているのでびっくりです。スライドたっぷりでL'Orealのサステナビリティーに対する取り組みを話してくれました。もう1人はサステナ領域で生活用品を作っている企業のDirectorで、フランスの小売業界について話してくれました。
Managing Innovation in Established Firms
元コンサルでStrategyとBusiness Model Innovationの本を出している女性の教授です。HECのExecutive MBAのAcademic Directorを務めていたり、学校内で様々な役割を担っています。
内容としては大企業でどのようにイノベーションを起こしていけるのか、またスタートアップと比較してどのようなロジックでイノベーションが生まれにくいのか、CVCやイントレプレナーシップをゲスト講師や企業訪問をしながら学んでいきます。自分の代はCFAO(Corporation For Africa & Overseas)と豊田通商のJVであるMobility54というCVCによる講演や、日本で言うNEXCOのフランス版の企業のR&D施設に訪問に行ったり、L'OrealのBeauty Tech AcceleratorプログラムのInnovation Program Directorを務めてこれから起業する方がゲスト講師で来てくれました。ラストはアーティストが来てワークショップもありました。
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ティーチングスタイルとして、座学・インタラクション・外部ゲスト・グループワークのバランスがとれていたり、事例がアカデミックすぎず実践的なものが多く学びが深かったです。
Search Funds and Entrepreneurial Acquisitions
これは3日間9:00-16:10のインテンシブコースでしたが、Venture Financeと並び、一番面白い授業でした。
教授はサーチファンド業界で世界的権威のJan Simonさんで、長年IESEで教鞭を取っていますが、去年からHECでも授業を持ってくれています。著書に"Search Funds & Entrepreneurial Acquisitions"があり、まだ日本語訳されていませんがサーチファンドに関して体系的にまとまっている貴重な本です。日本でもサーチファンドがトレンドになりつつあるのを肌で感じています。
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Jan教授は厳しいことで有名で、授業中に電子機器を机の上に出すのが一切禁止。事前にケースを読んでこないと普通に教室から追い出されます。実際追い出されてる人もいました。
流石に3日間で12ケースはやりすぎだと思いましたが、毎日必死にケースを読んでひたすらケースに対して議論をするという王道のMBA授業はとても楽しかったです(成績Aだった!)。内容としてはやはりサーチファンドで起業したけど色々な課題にぶち当たってそれをどう意思決定していくべきか?というケースが多かったのと、BS, ISの流れを見るようなファイナンス関連も多かった印象です。
Innovative Marketing and the Marketing of Innovation
これは全部で6回の集中講座でした。教授は今年から初めて教鞭に立つ、現役のマーケティングディレクターのAndre先生。一番実務に関する内容が多く、PMF, Research, Brand, Growth, Data, Paid Marketingの6回のテーマでそれぞれどのようなトレンドでどんなツールがあるのかを共有してくれました。AI関連のツールがやはり多く、特にText to Video, Text to Speechのツールの可能性は面白いですね〜
授業を終えての感想
ということで、Term4振り返りでした。今回のEntrepreneurship Specializationでは色々な角度からアントレプレナーシップを学ぶことができ、ゼロからの起業という選択肢はあくまで数ある選択肢のうちの1つなんだなと改めて感じました。今までのスタートアップ経験を振り返り、足りてなかったファイナンスの観点を補足したり、今話題のサーチファンドの仕組みを学べたり、アントレクラスの同級生と色々と話せたのはとても面白かったです。
アントレバックグラウンドある人は振り返りとしておすすめですが、一方で内容としては特に真新しいことはないので、グローバルのトレンド・事例を一通り学べるという意味でいいかなと思います。MBA総じてですが、これを学べば万能!みたいなものはもちろん無く、視野が広がったり、グローバル人材の視点やグローバル事例を知れたり、人的ネットワークが広がったり、資産的な意味合いの方が強かったと改めて感じてます。
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終わりに:自分のキャリアに貪欲になること。
起業に海外MBAって必要なの?と聞かれるともちろんNOですが、アントレに海外MBAって役に立つの?と聞かれたらYESです。MBAに来る前と比較して以下の点が変わりました。
・グローバルネットワークが異常に広がった(ほぼこれ)
・起業家/起業の志がある友人が増えた
・グローバルトレンドを抑えられるようになった
・ビジネスの立ち上げとスケールに必要な知識は一通り身についた
・特定の国(フランス)のアントレエコシステムが理解できた
・ある程度英語が話せるようになった(純ドメだったらこれ大事だと思う)
・自分キャリアに貪欲になるマインドセットが身についた
特に、最後にあげた自分のキャリアに貪欲になり、自分の人生に責任を持つことは最も大事な学びだったかな思います。アントレの授業はゲストも教授も起業家経験がある人なので自己理解が深い人が多く、自分の人生を思い切って選択している人が多かったです。自分のノートの最後に書いていたことで締めたいと思います。
・自分の理想的なライフスタイルを選び取ること
・自分の人生のオーナーシップを持つこと
・自分のキャリアに貪欲になること
・自分の人生は自分で責任を持つこと
・自分の人生で大事なことは何か、そのレベルで物事を思考すること
これらの学びは一生大事にしていきたいですし、色んな人生の選択肢を考えられるようになったのも大きかったなと思います。個人的に複数の国で生きていくライフプランにしたいですし、やはり中長期的には自分で会社をやりたいなと改めて思いました。
世界の様々な地域で色々な人生を送っている人と知り合うことや、事例を通じてその生き方や葛藤を知ること、選択肢や可能性を知り、自己理解を深めていくことは豊かな人生に繋がっていくんだと思います。
はい、最後完全に散らばりましたね。(笑)
ということで、Term4の振り返りでした!ここまで読んでいただいた方ありがとうございました!次回はHEC Parisのアントレエコシステムとフランスのアントレエコシステムの記事を書こうかなと思ってます!ではでは〜👋
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