精神覚醒ノ肥後虎 ACT.13「不二岡現八郎」
あらすじ
部長決定戦を終え、乱入した相良玉子に破れて蛍食堂へ戻った虎美たち自動車部。 そこへ来た、それを聞いて沙羅子から「今のあなたのままでいいのですか? それではスプリントレースでは優勝どころか上位に入れません」という重い言葉を投げつけられた。
翌朝、虎美とひさ子は学校に来ていなかった……。
飯田ちゃんが学校に来る5分前のこと。
豊後街道の和菓子屋前の駐車場。
ひさちゃんが誘拐されたと聞いてやってきた
そこにひさちゃんのファミリアだけでなく、族車のような見た目をした、紫のMA61型セリカXX 、通称ダブルエックスと呼ばれるクルマも停車していた。
その助手席にひさちゃんは座っている。
ダブルエックスから1人の少年が降りる。
赤い学ランという服装から、うちと同じ学校の生徒だった。
「お前は昨日、レースで部長争いをしていた3年の加藤か」
「なんなん、ひさちゃんばさらって? 新聞部部長ことディープ·不二岡こと不二岡現八郎へ、うちらは学校に行かんとあかんたい」
「レースで勝って部長になったお前、本当に部長に相応しい実力なのか確認するためにバトルをしてもらう。こいつは人質だ! それでもいいのか!?」
「人質なんて卑怯ばい!」
「助けて、虎ちゃん! あいつばやっつけてほしか!」
「ひさちゃんば助けるために、挑むぶぁい!」
「いいだろう。今すぐクルマに乗れよ、この子は俺のクルマに乗せてやるからな! 覚醒技超人と呼ばれる奴を狩ってやる!」
卑怯な奴には負けらない。
ドライバーたちはクルマに乗り込んでいく。
加藤虎美(D27A)
vs
不二岡現八郎:(MA61)
コース:豊後街道復路
2台は和菓子屋まで移動して、道を塞ぐように並ぶ。
ここがスタートラインだ。
不二岡が空き缶を持つ。
「スタートは空き缶で合図する」
不二岡の手が空き缶を放り投げ、地面に落ちると2台はスタートしだす。
スタートしてしばらくは、直線が続く。
バトルは後攻を取るべきだけど、卑怯な奴をやっつけたいあまりエクリプスの加速力を使って先攻ば取った。
「そのまま離したるぶぁい!」
黒い脚でアクセルを強く踏み、田園風景を突き抜けていく。
バトルに変化が起きたのは、2つの高速コーナーを抜けて、突き当たりの左コーナーに入った時だ。
ダブルエックスは毒々しい紫色のオーラば纏った。
オーラを纏うと、左、右、左、と交互にドリフトを始めだす。
「行くぞ……スコーピオンの針流<スコーピオン・ニードル>!」
蠍が尻尾を動かすように毒のオーラを纏いながら攻めていき、XXはうちのエクリプスを1追い抜いていく!
追い抜かれたうちは蠍の毒におかされた。
「うぅ……痛か……」
「虎ちゃん!?」
「死なない程度食らわせた。このまま毒に苦しみながら……離れていくといい。俺は麻生北で一番のドライバーだからな」
精神毒状態になったうちは、その苦しみからアクセルを踏めず失速。
距離がどんどん離れていく。
この状態はしばらくの間、精神力が削られる状態異常だ。
ダブルエックスが大きく先行状態のまま、カーブが大きく曲がる右U字ヘアピンへ突入する。
ドリフトしながら攻めていく。
「俺の勝ちだ。相手にならなかったな。これが自動車部部長の実力か?」
(昨日バトルで部長になった虎ちゃんは負けんたい)
遅れてうちも、右U字ヘアピンへ突入する。
毒に苦しみながらもドリフトで抜けていく。
抜けていくと、精神から毒が消えていた。
楽になった。
左U字ヘアピンば抜けてすぐ、緩い左から右の高速S字ヘアピンが来る。
下りに入る。
ドリフトせず、グリップ走行で抜けた。
これらの区間は高速区間だったため、4WDであると同時にパワーのあるエクリプスに有利な区間であり、ダブルエックスの距離ば縮めていく。
うちの方がここでは速かった。
XXとの距離を縮め、ついに前の車が見えてくる。
「虎ちゃんが来たばい!」
「くそゥ、追い付いてきたか……。俺は麻生北で一番の走り屋なんだ……俺以外の覚醒技超人に負けてたまるか!」
後ろを見た不二岡の顔は苦虫を噛み潰したような顔をした。
かつて沙羅さんから「前に出てしまうとプレッシャーが大きくなる」とアドバイスされていたけど、不二岡はそんな状態になっとる。
バトルは大きな左U字ヘアピンに突入し、不二岡は焦りから紫色のオーラを発生させながら連続ドリフトを行う。
「こうなったら、また……スコーピオンの針流<スコーピオン・ニードル>!」
蠍の尾で刺すように、ヘアピンを攻める!
尻尾は……。
「肥後虎ノ矛流<片鎌槍>ッ!」
槍で斬ってやる!
刃が片方しかない槍を降るかのようなドリフトで攻める!
鎌鎌槍が蠍の尻尾を切断した。
ドリフトしながらXXの内側ばギリギリ突き、前に出る。
「前に出ただとォ!」
「やってくれたばい!」
ひさちゃん、助けられるばい!
バトルに変化は無く、XXを引き離した状態でバトルは終えた。
勝者:加藤虎美
スタート地点近くの和菓子屋前に2台は来る。
クルマからドライバーが降りてくる。
負けた不二岡の顔は怯えた表情に変化していた。
「す、好きにしてやる……! こ、こいつをか、解放してやるぞ……! くっ……」
ひさちゃんはダブルエックスの助手席から降り、ファミリアの運転席へ移動した。
「ありがとう、虎ちゃん……助かったばい」
「上手く勝てたと……さぁ学校行かんと」
朝早くバトルしたから、遅刻は不可避だ。
朝8時30分……うちとひさちゃんは学校へ着いた。
部長になったばかりにも直後にも関わらず遅刻寸前だったため、飯田ちゃんの血管は切れそうだった。
「遅いわよ!」
「すまんたい。ひさちゃんがさらわれてもて。助けにいかんとバトルしてもたんよ」
「それでも部長なの……? けど、森本さんを助けたいという理由で遅れたなら仕方ないわ」
「虎ちゃんが助けてくれたけん」
「チャイムが鳴っているわ。
教室へ急ぎましょ」
部長になって2日目。
さっそく朝から波乱の日がやってきた。
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