精神覚醒走女のオオサキ ACT.6「葛西サクラ」
ドリフト走行会2日後の3月22日の午前6時、オレは目を覚めた。
深夜に180SXに抜かれるという出来事は夢だったらしい。
「ワンエイティ……」
夢が忘れられなかった……。
まさかあそこで抜かれてしまうとは。
いつもの服に着替え、家族と一緒にリビングで朝食を食べる。
ちなみに家族構成は……母と3つ離れた双子の2人の妹がいて……父親は3歳の時に亡くなった。
オレの家はチューニングショップ兼自動車の整備屋さんで、名前はSpeed葛西だ。母がオーナーを務めている。
月曜日と水曜日以外に営業し、チューニングから整備まで幅広く行っている。
営業時間は13時から23時までだ。
母はオレより色っぽい女性であり……髪は黒く清潔な長い髪で……前髪は姫カットになっている。
知らない人からは姉に見えてしまうものの……こう見えて年齢は45歳だ。
「ごちそうさまでした」
朝ごはんを食べ終え、
「歯を磨いたらちょっと今ドライブに行ってくる……」
オレは席を立つ。
「いってらっしゃい、早めに帰ってきてよね」
オレが席から去ると、家族がオレの様子について話を始めた。
「母ちゃん、サクラ姉ちゃんの様子がおかしいぜ!」
緑のポニーテールが特徴的な、上のほうの妹ことヒマワリが言う。
「ボクもそう思う……今日のサクラ姉ちゃんは様子がとても変……」
オレンジのツインテールが特徴的な、下のほうの妹ことモミジもそう感じる。
「まあ、心配することはないわ。サクラはいつも無口で家族にも感情を表さないし……」
「けどよお、母ちゃん。オレはサクラ姉ちゃんの様子変だと思ったんだ」
「変なのは、ドリフト走行会が原因かもしれないわね――」
たしかにオレは変だ……起きてすぐ「ワンエイティ」の言葉をつぶやいてしまった――。
外へ出たオレにガレージに置かれている黒いJZA80に乗り込み……Speed葛西を出ていく。
ワンエイティと勝負を挑むためだ……。
午前8時……和食さいとう。
外では2JZシングルターボの音を流す黒いJZA80が来た。
サクラが和食さいとうにやってきて、店の中へ入る。
何しに来たんだろう?
「いらっしゃい、と言っても今日は日曜日だから休みだぞ。しかも午前中には開かないからな」
「お前に用はない……用があるのは大崎翔子だ」
「オオサキか、いるぞ。お前に用のある人が来たぞー!」
智姉さんに呼ばれ、すぐおれがやってくる。
「今来ました!か、葛西サクラァ!?」
和食さいとうにサクラがいることにビックリする。
「大崎翔子……来たな……お前に用がある……バトルを挑みに来た」
ここに来た目的はこれだった。
バトルだった。
バトルのルールを言ってくる。
「バトルは下り1本……コースは赤城道路全体を使う……特別なルールは特にない……覚醒技はOKだ……」
それを受けるか尋ねてくる。
「日程は3月28日の午後10時……どうだ……挑むのか……?」
「オオサキ、どうしようか」
「どうしましょう……」
おれはこれを受けるのか、考える。
考えた結果、答えを言う。
「バトルするよ。このバトル、受ける!」
「受け入れよう……3月28日土曜日の午後10時……赤城山で待っている……」
こうして……バトルすることが決まった。
その後、サクラは何か言い始める――。
とても人間とは思えないことだった。
「お前のクルマのスペックは御身通しだ……。RB26DETTを積んでいることだけでなく、350馬力のパワーがあること……47kg・mのトルクがあることを知っている。装着しているパーツはHKSのマフラーのほか、性能は良いもの乗り手を選ぶシノヤマ・レーシングのドリフト用ブレーキを装着していたな――」
「どォ、どうして知っているのッ!?」
ワンエイティのスペックと装着されているパーツをサクラは見抜いていた。
これってもしかして――!?
「決まっている……オレの覚醒技の能力だ……」
「智姉さんから聞いたことがある」
覚醒技には能力、簡単に言えば特権があり、技同様それをうまく使えばバトルに有利になることができる。
これは覚醒技超人の性格や創造力が反映されたものだ。
サクラの能力は相手のクルマのスペックが分かるだけでなく、装着しているパーツも分かる能力だ。
タキオン粒子が与えた物は速さだけではない。
おれのワンエイティに装着されているシノヤマ・レーシング製のカタナというブレーキはドリフト用にテールがかなり出やすくセッティングされすぎてスピンしてしまうほど乗り手を選びやすく、評判が良くない。
カタナだけでなく、他のパーツも高性能だが、事故の報告も多い。
ちなみにこの会社は暴力団との関わりが深いという噂もある。
「シノヤマ・レーシング製のブレーキを搭載するとは怖くないのか……?」
「怖くないよ。ブレーキのおかげで綺麗に走れるんだ」
「お前は「カタナ」に選ばれた1人だな……」
そう言い残すとサクラは和食さいとうを去る――。
「あいつはリベンジしに来たようだな……
ドリフト走行会でお前に追い詰められたからな」
「そうですよね。おれはドリフト走行ではあいつを追い詰めるような走りをしてしまいました。
リベンジしに来たんだと思います」
サクラがバトルを挑みに来た理由はリベンジだと考える。
夕方……Speed葛西……。
ガレージでオレは……JZA80のタイヤを外してブレーキを見ていた。
「JZA80の調子は良いはずだ……ブレーキやサスペンション、タワーバーやダンパーなども悪くないし、2JZシングルタービンもだ……オレの腕がダメなのか……?」
確認を終えると外していたタイヤを付けた。
そこに母さんが来る。
「サクラ……そこでなにしているの?」
「母さん……今日……オレはワンエイティに抜かれる夢を見た……」
「なるほど……しかしサクラとJZA80は悪くないと思うわ。
相手のドライバーが速すぎたからよ……」
「相手のドライバー……大崎翔子が速すぎた!?」
「そうよ。大崎翔子は斎藤智の弟子よ」
オレは気づいていなかった……
「オレがドリフト走行会で覚醒技を使わないと予告したのは相手をナメていたからだ……だが……予想以上に速かった……大崎翔子はあの斎藤智の弟子だが……師匠のような存在になるかもしれない――」
伝説の走り屋の弟子、大崎翔子の実力……。
けど……今は恐れる時間はない……。
「夜……赤城でテスト走行しようかな。JZA80は本当に悪くないか確認するわ。第2高速セクションが終わったら交代しましょ」
「そうだな……嫌いじゃあない――」
母さんの提案に乗り、夜には赤城でJZA80のテスト走行を行う。
時間は過ぎ、夜10時の暗い赤城山。
母さんはオレを乗せて、JZA80を運転する。
「調子は悪くないわね。エンジンは良く回って悪い音を出さないし、ヤレていない。18年落ちとは思えないわ」
クルマの悪いところはなかった。
「オレもそう思う……いつもより遅いと思ったことはない……やっぱりドライバーが速すぎるからか……大崎翔子は怪物だ――」
「やっぱ車のせいでもサクラのせいでもないみたいだね」
走って分かった。
クルマのせいで追い詰められたのではないと。
「次はナイフ型ヘアピン!
サクラァ、運転変わるわよ!」
「ここからはオレの得意な<サクラ・ゾーン>だが……夢であのワンエイティにこの<サクラ・ゾーン>で抜かれた……」
「夢の中でここで抜かれたの?」
「そうなんだ……ここで抜かれたんだ……」
現実ではなく、夢の話のことだが……。
JZA80はそのまま走り続け、ふもとの駐車場に停車する。
停車した後、会話を始めた。
「バトル……? オオサキという女の子にバトルを挑んだの?」
「ドリフト走行会のリベンジとして」
「朝ドライブするって言ったのは和食さいとうに行ったこと!?」
「そうさ……リベンジのためにバトルを挑む……」
「バトルするなら母さんに言ってほしかったわ。相手のオオサキってあんたを追い詰めた走り屋でしょ」
「赤城山全部を使ってあいつとバトルしたい……得意な区間なら負けないな……現実では負けないぞ……サクラ・ゾーンで<サンズ・オブ・タイム>とを使うオレに勝てるか? 怪物少女のオオサキ……」
バトルを申し込んだことを母さんに話し、ドリフト走行会で追い詰めてきた仕返しとしてバトルを挑もうとするオレは意気込みも語った。
「今度のバトルは私の娘vs斎藤智の弟子になると思う」
「そうかもしれない……」
このサクラ・ゾーンは今回のバトルのポイントになるだろう――。