精神覚醒ノ肥後虎 ACT.33 ミス麻生北
あらすじ
生徒会が今後開かれる文化祭のアイディアを探していた。
箱石峠で遭遇した虎美の助言でミスコンを開くことになる。
翌日彼女は覚の誘いで、その家に遊びに行き、晩御飯を食べる。
その最中、覚の父親は熊本県議会議員になると宣言した。
6月17日の金曜日、午後12時半の屋上。
学校はお昼休みに入った。
うちは飯田ちゃんに対して土下座をする。
「頼む、飯田ちゃん! 文化祭のミスコンに参加してくれんか?」
「ミスコン!?」
「そうたい。うちはあんたと初めて出会った時、可愛らしかな見た目に一目惚れしたけん! 飯田ちゃんならミスコンで優勝できるばい! そして自動車部の宣伝になるばい!」
うちが小学生の時だ。
飯田ちゃんはお父さんの仕事の都合で東京から転校してきた。
「東京から来ました。飯田覚です」
桃髪のツインテールに整った顔立ち、彼女に初めて出会った時、うちは一目惚れした。
これが初恋だった。
同性相手だけど……。
「もう1回言う! 頼むからミスコンに参加して欲しか!」
一瞬、重い雰囲気に包まれる。
飯田ちゃんの答えは……。
「あんたが頼むなら、参加してもいいわ。ただし、これで優勝したらお父さんが選挙で有利になるかもしれないから挑むつもりよ」
「だんだん!」
こうして、参加することが決まった。
夕方4時、教室はホームルームを迎える。
「文化祭でミスコンテストをやることになりました。女子生徒のみに紙を配ります。参加するかしないかそれにサインをしてください」
担任の小日向先生が女子生徒のみにミスコンの紙を配った。
それにサインを書いていく。
飯田ちゃんも書き、参加すると決めた。
ちなみにうちとひさちゃんは参加しないと決めている。
容姿には自信あるのだが、他の子には及ばないと考えているからだ。
「回収してください」
書き終わった紙はクラスの委員が回収した。
果たして麻生北ミスコンにはどんな人が参加するのだろうか?
部活動の時間に入り、部員全員と顧問の小日向先生で作戦会議をする。
「飯田ちゃんがミスコンで勝つためにどうすればよか?」
「見た目を磨くしかないでしょ? 見た目を競う大会だから」
「例えば……ダイエットばするとか……」
しかし、小日向先生から飛んでもない話が出る。
「最近のミスコンはルッキズムを助長するという観点から反対運動が目立ち、人間性や社会性、知性も評価のポイントとなっとるばい」
それらがポイントとなるなら……。
「飯田ちゃんの知性ば活かせる行事はあるんやろうか……」
「来週の火曜日、数学のテストがある」
しかし、文武両道の飯田ちゃんには致命的な欠点があった。
「最初に言っておくわ……私……数学が苦手だわ」
数ある教科の中で、それだけは苦手としている。
不安だ……。
数日が経過し、6月21日の火曜日。
テスト当日を迎えた。
「よーいはじめ!」
配られたテスト用紙に答えを書いていく。
飯田ちゃんはいつも以上に頭を抱えていた。
(答えが思い付かないわ……)
開始から45分、テストは終了する。
生徒たちは用紙を先生の元へ帰した。
数学が苦手な飯田ちゃんは満足した顔ではなかった。
「間違った問題が多いかも……これじゃあミスコンはダメかしら……」
今回の件で不安そうにしていた。
3年B組の教室に誰かが入ってくる。
「不二岡……!?」
なぜ入ってきたんだろうか?
「飯田、お前の事は応援している」
「え?」
「今度のミスコンでお前に投票する」
「なぜ投票するの?」
「実はお前の事が……」
「好きなんでしょ」
飯田ちゃんの顔を見ながら、不二岡は頬を赤く染める。
「お前って……母性がすごいからな」
それが理由なの?
飯田ちゃんはあんたの母親ではない。
確かに彼女はうちのブレーキ役を務めているけどな……。
「なんなん……うちに対しては敵視する癖に……」
「お前たち自動車部の事は憎んでいる。けど、飯田は特別だ」
なんだそれ。
特別なら勧誘しろよ!
と言っても……飯田ちゃんは渡さん、自動車部が活動できなくなるから。
そして日は大きく進み……7月2日の土曜日、文化祭当日を迎えた。
午前中はクラス別で演劇を行われる。
午後からは部活別で出し物をした。
「いらっしゃいませー!」
自動車部はカフェと愛車のチェキ販売を行うことにした。
それぞれうちのエクリプス、飯田ちゃんのSVX、ひさちゃんファミリアが写ってある。
廊下には投票箱が設置してある。
これでミス麻生北を決めるのだ。
来場者と生徒たちが票を入れていく。
文化祭がクライマックスになると全校生徒が体育館に集合した。
ミス麻生北の参加者が控え室に呼ばれる。
結果は既に決まっていた……。
ここの舞台に菊池生徒会長が立つ。
「結果発表です」
緊張の瞬間だ。
「初代ミス麻生北は……3年B組で自動車部の飯田覚さんに決まりました」
あっさり決まった。
テストの時に不安そうにしていたけど、無事優勝できた。
飯田ちゃんの優勝は自分の事のようで嬉しかった。
ミス麻生北となった彼女は沢山の来場者や生徒たちと共に写真撮影をする。
「はい、チーズ」
そして、うちはサインを求める。
「どうぞ、あなたがサイン1号よ」
持っていた団扇に書いていただいた。
文化祭が終わると、うちら部員が部室に集められる。
「飯田、優勝おめでとう」
「ありがとうございます、先生」
「ミス麻生北になったら、麻生北ば支えなくてはならんたい。特に震災の記憶が新しかな時に」
「この学校を支えます。虎美、森本さん、私がミス麻生北になったから……今以上に引き締まっていくわよ!」
今日、友達が麻生北の歴史に残る生徒になった。
皆が震災で苦しむ今、彼女は熊本の星になるだろう。
翌日の夜、うちら自動車部が箱石峠を走り込むと変化がある訪れた。
飯田ちゃんの前に、熊本中から多くの男性が集まった。
「なんなん?」
「へぇ!?」
これには飯田ちゃんは驚いた。
今までにない出来事に慣れていなかったからだ。
これほど人が集まるのはミス麻生北になった彼女が学校をPRをする動画を、今日ホームページに上げたからだ。
再生数は10万以上を越える。
男性の大半はカメラ小僧であり、愛車のSVXと共にバシャバシャ撮られていく。
「構わないから、いっぱい撮って」
多くの男性に囲まれながら、7月3日の夜は閉じた。
同じ頃、ある峠にて。
青いH27A型ミニカダンガンがZN6型86を煽っている。
「軽自動車の癖になんていう速さなんだ!?」
ダンガンはZN6の前に出ていく。
同時にそのドライバーは呟いた
「軽に負けるとは情けないな……」
熊本に突如現れたダンガンは後に大騒動を起こすのだった。