精神覚醒ノ肥後虎 ACT.27 泣いている心
あらすじ
虎美とミドリのバトルが始まった。
2人が乗るクルマ、エクリプスとST205の2台は4WDで直列4気筒ターボのクーペという共通点を持つ。
相手のホームコースであることと、相手が高速重視のセッティングだったため距離を離されてしまう。
しかし、バトル前に虎美が相手のことを「親不孝もん」と挑発したことにより、様子がおかしくなった……。
スタート地点。
「今後攻だって……果たして逆転できるのかしら……」
「勝って欲しか……」
森本さんと共に私は虎美の勝利を祈る。
その時、衝撃的な情報が出る。
「ST205が謎の失速しているらしい」
本当なのだろうか!?
「父さん……父さんッッ!!」
パニックになったミドリちゃんはST205をフラつかせる。
そん時、うちは彼女の心を感じ取った。
「ドライバーが泣いとる。クルマから伝わるばい」
悲しんでいる。
両親が喧嘩ばかりの複雑な家庭環境、お父さんの逮捕。
そういう悲劇が多かったから、そううちは感じた。
「うるさいッ! 近寄ってこないでッ!」
心が泣いていると読まれたのか、ミドリちゃんは幅寄せをしてきてST205のリアフェンダーをエクリプスにぶつけてくる。
今の姿を見せてもらいたくないかも知れん。
また接触した。2回もぶつけてきた。
バトルは左中速ヘアピンへ入る。
ここでST205は萌葱色のオーラに包まれた。
「マンティスの刃流<カマキリの羽>!」
羽を広げたカマキリの如く、スピードを上げながらコーナーを攻めていく。
うちとの距離が開いていった。
「離してやるわ!」
相手が有利な直線区間。
距離はさらに離れていく。
左高速ヘアピンからの右低速ヘアピンが来る。
ここは2台ともドリフトで通過した。
ここではドリフトが得意なうちが距離ば縮めた。
「離されてたまるか!」
また直線が来て、再びミドリちゃんに離される。
S字を通って、右U字ヘアピンが来る。
ここもドリフトで通過した。
3連続ヘアピン、2連続S字セクションが来る。
前者はドリフトで通過した。
それをば抜けた後、ミドリちゃんはおかしな行動を取った。
「自分のクルマばガードレールにぶつけとる!」
うちには訳分からんかった……。
「うるさい! うるさい! うるさい! 言ってこないで」
まだドライバーの心が泣いとった。
「こうなったら……」
そんな行動を取る走り屋に対して、ある作戦を考えるのだった。
エクリプスに水色のオーラを発生させる。
「肥後虎ノ矛流<クリスタル·ブレイク>」
わざとガードレールにぶつけるクルマを、氷のオーラを纏いながら押し付けていく。
落ち着かせようとした。
「うわああああああああああああ!」
押し付けられるあまり、ミドリちゃんは悲鳴を上げる。
「これでも喰らって落ち着け!」
「うう……!」
<クリスタル·ブレイク>を食らい、ST205が凍りつく。
後に技から解放されると、ボディから氷が無くなっていた。
うちとの差も無くなり、差はサイドバイサイドの状態となった。
そん時、ミドリちゃんはあることを思い出した。
私は、喧嘩せず仲良くする両親が好きだった。
そんな両親は日曜日にボーリング場やデパートに連れていってくれた。
しかし……。
「あなたって常識って言うものがあるの!?」
「うるさい! あるよッ!」
歳を重ねる度に両親の喧嘩は増えていった。
私の事だけでなく、普段の生活の事、夫婦の些細な事、昔のどうでもいい事でといった事で喧嘩が起きた。
喧嘩を止めようとしても、その気はなく、続けた。
「こんな親なんか……!」
それが嫌になった私は家出した。
家出した私は廃車だったST205を手に入れ、怪しい組織の人から貰った薬で覚醒技を身につけ、弱冠14歳で走り屋となった。
けど……本当は両親が好きなのに……。
喧嘩しなければ、好きなのに……好きなのに……!
左からのS字ヘアピン。
ここの先にある菓子家の前で1人の男性がギャラリーしていた。
うちの担任を務ている、小日向佐助先生だ。
「別に興味があってギャラリーに来たわけではなか。うちの生徒がバトルばしとると聞いたけんここに来たばい」
先生の耳にエンジンが聞こえてくる。
「来るばい」
サイド・バイ・サイドの状態で、2台が先生の前を通りすぎる。
「加藤よくやっとるのう、さすが学園ナイターレースの優勝者ばい。ばってん、走り屋は暴走行為をしとる輩たい……」
高速S字ヘアピン。
前半の左ヘアピンにて、うちは銀のオーラ、ミドリちゃんは萌葱色のオーラを纏う。
「肥後虎ノ矛流<片鎌槍>!」
「マンティスの刃流<マンティス·ブレード>!」
エクリプスは鎌が片方しかない槍を振るうかのようなドリフト、ST205はカマキリが腕の鎌を振るうようなドリフトで攻めていく!
「虎虎虎虎虎虎虎ー!!」
ヘアピンば出るとうちはミドリちゃんの前へ出た。
「抜かれてもただでは諦めないわ! この後は高速区間だから私の方が有利になるはず……」
ばってん……。
「お母さん……お父さん……!」
ミドリちゃんの目に優しい顔をした両親が写る。
彼女ば望んだ家族の形だった。
それを見ると、アクセルを緩める。
バトルは相手の降参により、うちの勝利で終わる。
勝利:加藤虎美
戦いを終えたうちらはスタート地点へ戻ってくる。
着くと、ST205から降りたミドリちゃんはお母さんの所へ向かう。
「お母さん」
今から、ある決意を口にする。
「家に……帰るわ」
それは、家出少女が心を入れ変えた瞬間だった。
「おかえり、ミドリ」
決意した娘を優しく迎える。
「娘に勝ってくれてありがとう。帰ることを決意したわ」
「いえいえです」
「あなたに説教されて決意したことがあるの。それはくだらない喧嘩をほどほどにすることにするわ。旦那を通報したことは後悔し、いつかは被害届を取り下げるわ」
飯田ちゃんとひさちゃん、斬鬼郎さんも来る。
「勝ったのね!?」
「ああ、勝ったばい」
「これで虎ちゃんの腕はは相手のアウェーでも通用するとわかったばい」
「不利な条件の中、よく勝ってくれた」
赤石さんと青山さんも来る。
「おめでとう。そしてありががとう。ミドリは帰ることを決意してくれたよ」
「これで行きすぎた行為を見なくて済むな」
勝ったうちを称えてくれた。
その後は家出していたミドリちゃんは家に帰るようになった。
奥さんが被害届を取り下げたこともあり、逮捕されていた旦那さんは釈放された。
家出のきっかけとなった夫婦喧嘩はほどほどにして、今より幸せな生活になるかもしれない。
後日、5月30日の月曜日。
職員室にて。
「え? 勝った加藤が不良少女を更生させた!? よくやるのう」
話を聴くとあの子らに興味を持った。
自動車部の部室にある人物が入ってくる。
担任の小日向先生だ。
「ちょっとよか」
「なーして来たんでしょうか?」
「今日から先生が顧問になる!」
「こ、顧問になるって!? ホンマですか!?」
突然先生が顧問になると宣言してきた!?
「こん前までは走り屋は暴走集団やと思っとった。ばってん、あんたらが不良少女を更生させたと聞いて考え変わったばい。おるはここの顧問になると決めたと!.」
「よろしくお願いいたします」
「ばってん、先生はクルマのこつは素人やけん、そのこつは分からんたい。生徒任せにするかもしれん。あと、そんな自動車部にプレゼントを用意したばい」
外へ出ると、1台の白いクルマが止まっていた。
車種はスバルのGC8型インプレッサクーペWRX STIだ。
「こんクルマは部の看板車として使ってもよか」
「使ってもいいんでしょうか?」
「よか」
クルマまで貰ってしまった。
いいことだろうか?
学校の帰りのこと。
わしとファミリアは信号前で停止していた。
前に1台の銀色のクルマが停まっていた。
車種はGRS184型クラウンアスリート、ゼロクラウンと呼ばれるモデルだ。
信号が青になって出発した途端、わしの不注意だったのか……そのクルマばぶつけてしまった……。
「じゅつなか(熊本弁で「どうしようもない」)……じゅつなか……」
とても後悔した……。
しかし、大きな騒動に発展するとはわしは知らんかった……。
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