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精神覚醒ノ肥後虎 ACT.10「飯田覚」

前回までのあらすじ

 虎美とひさ子の戦いは、前者の勝利で終わった。

 次はひさ子と覚の戦いが行われるのだが、コースに対向車の影があることを2人は知らない。

 飯田ちゃんとひさちゃんのバトルのことを話そう。

 スタートはファミリアが先頭を取った。
 途中までは、バトルの変化はなかったらしい。

 しかし、中盤以降はSVXがファミリアの前に出ていく。
 バトルの状況が変化し、後ろのクルマを引き離してゴールした。

 飯田ちゃんの勝ちに終わり、ひさちゃんは2敗したために部長争いから外れてしまった。

「部長ってわしには無理だったばい……後、バトルは怖かった」

 1勝できなかったひさちゃんは、耳に聞こえないほどの小さな声で呟く。
 
 残るはうちと飯田ちゃんの対決、既に1勝している者同士の対決だ。

 エクリプスとSVXの2台がスタートラインに立ち、飯田ちゃんがクルマのサイドウインドウを開けると、敵であることを証明するように淡河を切る。

「最初に言っておくわ、あなたが友達であっても手加減しないわ」

「こっちも手加減せんよ!」

 引き続き要さんがスタートの合図を開始する。

「カウントいくわ! 5秒前、4、3、2、1、Go!!」

 2台は一斉にスタートする。
 飯田ちゃんは前のバトル同様に後攻を選んだことにより、うちが先を走ることとなった。

「ひさちゃんは大したことがなかった。ばってん、飯田ちゃんは強かかもしれん。バトルは後攻を取った方が有利だと沙羅さんからアドバイスされたからな」

 実はひさちゃんと戦ったとき、大竹の方が手応えあったと感じた。
 彼と戦った時が苦しさがあったからだ。

「虎美も1勝しているから負けられないわね。しばらく様子を見ることにしましょ」

 後ろを走るSVXに警戒しながら攻めたけど、バトルの状況は変化がない。
 序盤の終わりに当たる低速右ヘアピンまでのコーナーを抜け、互いを睨みあう状況が続く。

「ついてきとる……!」

「虎美の運転って、ちょっと乱暴ね……コーナリングの進入が早過ぎたりとか……ブレーキが急だったりとか」

 弱点を見抜かれた。
 しかし、うちはそれに気づいてない。

 ヘアピンの後は直線に入る。
 飯田ちゃんから逃げようと、サイドブレーキを引いてドリフトを発生させ、フェイントモーションの体制を取っていく。
 次のコーナーは左中速ヘアピンであり、入るとオレンジのオーラを纏う。

「肥後虎ノ矛流<キャノンドリフター>!
 虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎、虎ー!」

 タキオン粒子の力を借りることで速度を上げながら攻めていく。
 と、思いきゃ……ハンドルを切るタイミングが早すぎたあまり……。

「わ、技を外したたい!」 

「森本さんの時に成功したのは、マグレだわ。乱暴な運転のせいで失敗したのよ」

 ガードレールに接触してしまって技は失敗。
 ややタイムロスをしてしまう。
 飯田ちゃんのSVXとの距離を縮めてしまい、さらには……。

「今から抜くわね、覚悟はいい?  <直景の槍!>」

 鎧のようなオーラを纏ったSVXが、槍で突き刺すような加速をしながらオーバーテイクする!
 前に出すことを許してしまった。

「飯田ちゃん……速か」

 槍で刺されたダメージが原因で言葉が出ない。
 技は、鉄属性のオーラを纏いながら加速する技だ。
 

 スタート地点、虎ちゃんが抜かれたことが報告される。

「飯田さんはわしを抜いたみたいに、虎ちゃんをやっつけるんたい……」

 飯田さんはわしを抜いてすぐ一瞬で倒した。
 わしが下手だったこともあるから。
 互角の勝負になる。

 ドローンがバトル中の2台を追跡をしているけど、無関係なクルマを目撃したことに戦慄が走った。

「ん? ドローンが対向車を発見したわ」

「今の時代に対向車っているのでしょうか……?」

 確かに、全ての峠が廃道となったため対向車はいなくなったはずだ。
 なのに来てるって、どういこと?

「ああ……バトルに影響を受けんこつば願うしかなか……」

 うちらは現在、高速右ヘアピンを抜けるとまた直線に入っていた。
 SVXのほうが速く、うちのエクリプスを離していく。

 直線の後は右中速ヘアピン。
 ドリフト走行で攻めていったものの……。

「荒い運転だわ。インを攻め過ぎよ」

 内側はガードレールではなく土の山だ。
 土の山へ接近していったエクリプスはタイムロスしてしまう。

 短い直線を挟んで、左高速ヘアピン。
 ここもドリフト走行で抜けていく。
 コーナリング勝負は、飯田ちゃんが優勢であり、差はさらに広がっていく。

「くそ……どんどん離されとるばい!」

 さっき技を使ったから、技は使えない。
 使えるようになるまで待つことにしよう。

 一方、遠い場所ではスタリオンが走っていた。

 ドライバーである、清楚で上品な印象のある女性は遠くから聞こえる2つのエンジン音を聞き取った。

「いよいよ、来ますね。準備しますか」

 虎美たちが来ることが分かると、車を激しくUターンさせていく。

 彼女は走り屋だ。
 ターゲットとなったクルマを狙っている。

 覚醒技超人でもあり、全体からオーラが溢れている。

 飯田ちゃんのSVXとの距離はどんどん広がっていく。

 今度は左からの高速S字セクションに突入する。
 最初のコーナーは、飯田ちゃんがグリップ走行、うちがドリフトで攻めていく。

 2つ目の右コーナー。
 時間が経過して技が使用できるようになったばってん、次に使う技について考える。

「飯田ちゃんのオーラの色から、属性は水と金属性だと分かるばい。
 <清正の片鎌槍>で行くと不利ばい……」

 なら……!

「肥後虎ノ矛流<落ちてくる虎>」

 岩属性の技で勝負たい!

「虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎、虎ー!」

 岩のオーラを纏いながら、超高速スローインファーストアウトでSVXとの距離を縮めていき、筆箱サイズの物差しで図れるほどの距離となった。

「縮めてくるとはやるわね」

 次の瞬間、飯田ちゃんの表情が変わった。
 前にバトルとは関係ないクルマがいたからだ。

「嘘……バトル中なのに私と虎美以外のクルマは走っていないはずでしょ! 部長決定戦だから邪魔しないでよね!」

 クルマがいることには、驚きを隠せなかった。

 前を走る車の色は白。
 メーカーは三菱であり、形は流線型だがロボットのように角張っている。
 その車種は……スタリオンだ。

 うちらを見つけると、バトルに乱入してスピードを上げていく。

「お待ちしておりました。あなたたちの腕を見せてもらいましょう」

 スタート地点にて、情報が伝わってきた。

「対向車がバトル中の2台に接近し、乱入してきました!」

「虎ちゃん……飯田さん」

 乱入者が入ったこのバトルの展開はどうなるのか。

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