精神覚醒ノ肥後虎 ACT.8「部長決定戦」
前回までのあらすじ
再開した高校生活を虎美たちは満喫する。
部活動も始めたのだが、ひさ子がトイレで謎のチラシを拾ってきた。
うちらはひさちゃんが拾ってきたチラシを眺めていた。
「ふむふむ……スプリントレースの開催日は3ヶ月後か」
飯田ちゃんがこんな提案を持ち掛ける。
「じゃあ、スプリントレースの練習として今夜バトルでもどうかしら?」
「賛成ばい」
「わしも」
「決まりね。今夜8時頃に森本さんの蛍食堂に集合し、晩ごはんを食べたら箱石峠へ集合よ」
飯田ちゃんのSVX、ひさちゃんのファミリア、どんな走りを見せるのかな?
覚醒技を持っているんだろうか、2人もオーラらしき物が見えている。
うちは気になることを見つけてしまったので、周りを氷河期にしてしまう。
「部活の部長って誰だったけ」
「ま、まだ決めていなかったの?」
「ごめんたい」
「さっさと決めなさいよ……まったく」
実は部活には部長がおらん。
解決策として、ひさちゃんが提案を持ちかける。
「今夜のバトル……勝ったもんが部長ってどうばい? わし、考えたばってん」
いいアイディアだ。
「分かったわ。一番速いのが部長に決まりよ!」
熱を出したように顔を赤くしながら、ひさちゃんの考えたルールを受け入れた。
勢いで勝ってやろうか。
午後6時には部活動が終わり、下校の時間だ。
学校の出入口を出て帰ろうとすると、ひさちゃんに痛い事が訪れてしまう。
うちらの部活より遅くまで活動中している野球部のボールがひさちゃんの体に直撃してしまい、衝撃で倒れ込む。
さらには、サッカーのボール、テニスボールがひさちゃんに当たってしまう。
部員たちがひさちゃんの所へ謝りに来る。
「すいませんでした」
ひさちゃんが立ち上がったのは、部員が去った後だった。
「ひさちゃん、大丈夫?」
「わしは……大丈夫ばい」
「ボールには気をつけてね」
当たって倒れた挙句に、他のボールが直撃なんて……泣き面に蜂ばい。
「駐車場へ行きましょ」
「飯田ちゃん、ひさちゃん、今夜な」
クルマがとんでもない姿になっていることを目にする……。
それを見たひさちゃんがとても青い顔になっている。
クルマとは、ひさちゃんのファミリアだ。
「わしのファミリアのドアに鳥の糞が付いてしまっとるばい!」
さらに、彼女の頭にも鳥の糞が落ちてきた!
「いや、いやー!」
髪に落ちた糞を落とそうと、自分の髪を引っ掻く。
「やれやれ」
ひさちゃんが糞と格闘している中、うちと飯田ちゃんはクルマに乗って駐車場を去っていく。
「待って、わしを置いていかんといて!」
残されたひさちゃんはうちらを追いかけるように、糞の付いた愛車に乗り込んで自宅へ向かっていった。
空を赤くしていた太陽は大地に隠れ、暗くなってくる。
午後8時、うちとエクリプスは蛍食堂へ向かった。
ひさちゃんの家でもあり、店にはファミリアが置いてある。
熊本地震で被災したことで一旦閉めてしまったけど、すぐ再開し、被災した人には無料でご飯を用意してある。
飯田ちゃんのSVXが停車していた。
「飯田ちゃん、こんばんは」
「こんばんは、虎美。峠に行く前に晩ごはんでも食べましょ」
飯田ちゃんの服装は私服に変わっており、灰色のパーカーに花のように美しいピンクのカラータイツという服装だった。
ちなみに、うちも黄色い美脚が映える服に着替えている。
店に入ると、ひさちゃんだけでなく家族である2人の男女が迎えてくれた。
ひさちゃんも服装を着替え、制服から緑のパーカー風ジャケットと白いニーソックス姿だ。
男性がひさちゃんの兄である森本力也だ。
女性がひさちゃんのお婆さんで、高校生の孫がいるとは思えないほど若々しい見た目をしている。
「いらっしゃい、虎ちゃんと飯田さん。そしてお兄ちゃんとお祖母ちゃん」
「いらっしゃいませ。よく来たな、虎美ちゃんと覚ちゃん」
「うちの孫がいつもお世話になっとります。虎美ちゃん、覚ちゃん、ご飯を用意しとるからね」
お婆さんさんが用意してくれたのは、熊本名物だご汁と熊本ラーメンだ。
美味しく頂いた。
「ごちそうさまでした」
空っぽになったお皿をお婆さんとお兄さんは片付ける。
テーブルから全て片付けると、話をして頂く。
「あなたたち、すごかクルマを手に入れたばい」
「はい、古いけど結構よかなクルマです。自分のペットのような感じです」
「なるほど。実はひさ子が「わし、クルマを買う」と言ったとき、こん子は運が悪かやけん心配したばい」
「ワテもそう思ったとばい。ばってん、妹は運転したい気持ちやったんけん、買わせたたい」
「へぇ、そうなんですか」
「ばってん、お祖母ちゃんお兄ちゃん、わしはクルマの運転楽しか」
運転って運が付き物で、いつ事故が起きるか分かない。
しかし、今のところひさちゃんの運転は無事だ。
「さて、うちらは今から箱石峠へドライブしに行きます」
「ごちそうさまでした。事故らないように、安全にします」
「おばあちゃん、お兄ちゃん、行ってきます」
「ひさ子、行ってらっしゃい」
「夜のドライブ、楽しんでこい」
うちらはそれぞれのクルマに乗り込むと箱石峠へ向かう。
夜9時、箱石峠。
前に大竹と再び遭遇した同じ場所へ停車し、クルマから降りた。
サラマンダー財団の奈亜河さんと要さんも立ち、彼女たちが乗ってきた2台のエボXも停車している。
「紹介すっばい。彼女たちはサラマンダー財団副代表ばい」
「虎美は組織と知り合いなのね」
「彼女たちに助けられたばい」
飯田ちゃんとひさちゃんにはサラマンダー財団との出会う切欠となる話をした。
奈亜河さんが口を開く。
「バトルのルールだが、それはどうするんだ?」
それについて、飯田ちゃんが考えていく。
「まず、ルートは南東側の往路区間を使うわ」
大竹と戦った時とは別のルートで、方向も逆だ。
南東側の往路はずっと下り坂のため、実質ダウンヒルとなる。
「バトルはリーグ戦で行くわ。勝てば点数が貰え、点数が多い走り屋が勝者よ」
「よか。リーグバトルだと、全員と勝負できるからなあ」
「わしも賛成」
こうして、バトルのルールが決まった。
次、準備に入る。
「では、最初にバトルするのは誰がいいの?」
「最初はうちとひさちゃんやな」
「虎ちゃんと勝負か……大丈夫かな。マスコミのフォレスターを撃退したけんな……虎ちゃん相手なら、絶対負けると思うたい」
「大丈夫ばい、ひさちゃん。楽しんで行こうばい」
うちと戦うことに怯えるひさちゃんを励ましながら、エクリプスとファミリアがスタート地点に並ぶ。
スタートの合図は奈亜河さんが務める。
「カウント行くぞ! 5秒前、4、3、2、1、GO!!」
唸り声を上げ、クルマが出ていく。
うちとひさちゃんのバトルが始まった。
ファミリアから炎のような赤と閃光のような黄のオーラが見える。
彼女は覚醒技超人だ。