精神覚醒ノ肥後虎 ACT.35 ミニカダンガン


あらすじ


 虎美は沙羅子からGREENGROOVEのS14のテストを頼まれる。
 デモカーの最高出力は620馬力と高く、その挙動に苦戦させられる。
 そんな中、1台のミニカダンガンが乱入してくる。

 加藤虎美(S14)

 VS

 謎の走り屋(H27A)

 コース:箱石峠復路

 S14とダンガンがスタートラインに並んだ。
 カウントは飯田ちゃんが務める。

「カウント行くわ! 5! 4! 3! 2! 1!  GO!」

 2台は出発をした。
 4WDのトラクションを活かしたダンガンが先行する。
 そのクルマのエンジンを聞いたうちはあることを感じた。

「あんクルマ、軽のエンジン音やなか」

 どっちかっていうと、バイクっぽいエンジン音だった。
 スタート地点の稲荷神社前を出発した2台は中速右コーナーに入る。

 うちはサイドブレーキを引いて、ドリフトを発生させて進入していく。

 しかし!

「しもうた!」

 まだS14の運転に慣れないあまり、ハーフスピンして大きく失速する。
 ダンガンとの差が離れてしまった。

「まだあのクルマの運転に慣れていないようだな」

 それを見抜かれてしまった。
 一方のダンガンはグリップ走行でスムーズに通過していく。
 直後の左の緩いコーナーに突入した。

「専門外やけど、ここはグリップ走行で抜けたる!」

 2台はグリップ走行で抜けた。
 差は変わらない。

 直線に入る。
 ダンガンが赤いオーラに包まれた。
 それは赤い鳥に変化する!

「巨人の足跡流<ファイヤー・バード>!」

 滑空する火の鳥の如く、急加速をする!
 S14が離されていく!

「なんやあの鳥!」

 <ファイヤー・バード>で離されたうちは、その後ハイパワーなS14の運転に慣れていなかったこともあって、ダンガンに追い付くことはなかった。

勝利:謎の走り屋

 復路のスタート地点である、稲荷神社前に到着した。
 飯田ちゃんたちが待っていた。
 バトルしていたクルマからそれぞれのドライバーが降りてくる。

「ガッカリしたぜ。お前の走りに」

「こんクルマにまだ慣れてなかったけん」

「やはりクルマに慣れてなかったか。なら、お前がこのクルマに慣れたら再戦してもいい。それまで待ってやる」

 それを言い残すと、ダンガンは去っていった。

 うちはそのクルマを見て、こう考えていた。

(雰囲気があんクルマに似とる……うちば倒したスタリオンに)

 スタリオンの件を思い出す度に背筋が凍る……。

 飯田ちゃんたちがうちの前へ来る。

「虎美お嬢さんでも無理でしたか」

「事故を起さなくてよかったけど……やはりピーキーな代車では無理だったわね。虎美にはエクリプスじゃあないと……」

「戻ってくれたらなぁ」

 今回の件で沙羅さんを恨みたくなった。
 なんでうちが慣れないクルマを託したんだろうか。

「虎ちゃん……」

「エクリプスが戻ってくるまでこんクルマに慣れんとな」

「今日はもう遅かやけん、帰ろう」

 その後、小日向先生の言葉でうちらは解散するのだった。

 7月5日の火曜日、朝6時。
 うちは半袖セーラー服と黒タイツ姿でS14と共に箱石峠を走行していた。
 このクルマの運転に少しでも慣れるために。

「リベンジするために……ちょっとでも慣れんと」

 ダンガン野郎から言われた言葉は覚えている。
 時田さんをはじめ、彼に負けていった人たちのためにリベンジしなきゃいけない。
 ドリフト走行をするとスピンする恐れがあるため、今回はすべてのコーナーをグリップ走行で抜けていく。

 朝になってからS14の挙動が変化していた。

「何か……動きが重くなっとる」

 誰かが細工しているだろうか?
 これがクルマの挙動に慣れるヒントになるのだった。

 午後5時になった。
 今日も全ての授業を終えて、部活動を始める。

 小日向先生がダンガンの情報を貰ってきた。

「あのダンガンちゅう軽自動車、カワサキ製の大型バイクのエンジンば搭載しとる。馬力は260馬力ほどや」

「やはりそんエンジン音はバイクの奴やったんか。そぎゃん馬力やのに、ボディが軽かの軽自動車に載せたら速かと分かるばい」

「鬼に金棒ね……」

 やはりバイクのエンジンを積んでいた。
 音で分かっていた。
 軽とは思えない速さはこれだ。

 その時、自動車部の部室にカメラを持った多くの男子高校生が来る。
 ミス麻生北の飯田ちゃん目当てだと考えていた。
 しかし! 
 
「部長の加藤虎美さん、いませんか?」

「部員の森本ひさ子さんも!」

 飯田ちゃん効果に巻き込まれたのか、いつの間にかうちやひさちゃんまでブレイクしてしまった。

 実はこれ、この前撮ったインタビュー動画がキッカケだ。
 誰かの乱入で中途半端になったけど、小日向先生がそれを学校のHPに投稿したら部全体まで人気になってしまった。

「うわ……わしゃ、そぎゃんこつに慣れとらん」

 今までカメラを持った人に囲まれたことがなかったひさちゃんは怯える。
 運の悪い彼女にとっては、この事は良い事か、悪い事なのだろうか?

 うちも同じだ。
 PR動画ひとつで人気になるとは思わなかった。

「逃げろおおおおおお」

 今までにない出来事のあまり、うちとひさちゃんは大群のカメラ小僧から逃げ回る。
 まるでマスコミから取材を受けている気分だ
 部室の外へ出て、クルマの中へ隠れた。

 午後6時には箱石峠へ走りに来た。
 うちのS14は飯田ちゃんのSVXと練習バトルをする。
 今回はドリフトを解禁した。

 自動車部目当てなのか、いつもよりギャラリーが多かった。
 
 その中に、とある麻生北の男子生徒がいる。

「S14が加藤先輩で、SVXが飯田先輩……」

「大西、加藤先輩は初代エクリプスに乗ってなかったけ?」

「動きで分かるばい。おるには」

 大西と呼ばれる男子高校生の隣にはピンク色のPF60型いすゞ・ジェミニがあった。
 そのクルマはボディキットを装着している。

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