名称未定 ACT.5 エンジンブロー
あらすじ
31位まで順位を上げたオオサキはEK4型シビックに乗る京橋天満という高い壁にぶつかる。
彼女のクルマはK20Aを2機合体させてV8にしたエンジンを搭載しており、そのパワーに苦戦を強いられていた。
しかし榛名山に入ると、露見した彼女のクルマの弱点を見抜き、それを追い抜く。
どんどん順位を上げ、19位になったオオサキの目の前にはあるクルマが写る。
弟子のあきらのC4と千路のピアッツァだ。
キャノンボールのスタート地点である赤城少年自然の家。
俺には、ある事を心配していた。
「あきらの奴、エンジンのメンテナンスをやったんやろうか? もしせんかったら……」
最悪の事態が起きないことを祈る。
18位のワシとC4は、前を走るシルエットフォーミュラ風のピアッツァと共に渋川松井田線、通称・裏榛名に入っていた。
この前、オオサキさんと練習中にND5RCが乱入してきた所だ。
3連続で緩いS字コーナーを通っていく。
前を走るピアッツァに大きく離されてしまった。
「何なん、あのピアッツァ!?」
「うちのピアッツァは国産唯一のV型12気筒(※)の1GZ-FE(※)にクアッドターボ(※)を搭載したモンスターま! ただの旧車やと思たらついていけわいね!」
※V型12気筒……左右に6気筒づつ並べたエンジンのこと。スーパーカーや高級車に搭載されることが多い
※1GZ-FE……トヨタが開発した国産唯一のV型12気筒エンジン。
※クアッドターボ……4つのターボのこと。
V8のC4よりパワーがあるってどういうこと?
「おっと裏榛名に入った途端、ピアッツァがC4コルベットを離していく! このピアッツァは国産唯一の1GZ-FEに換装し、さらにはクアッドターボを後付けして最高出力は515馬力、トルクは何と88.5kg・mを叩き出します」
さらに、実況はピアッツァのターボについて解説をする。
「この、和倉千路選手のピアッツァのターボはそれぞれ大きさが異なり、超低回転時から小型ターボ、低回転時から中型ターボ、中回転時から大型ターボ、高回転時から超大型ターボが起動します。これはターボラグ(※)を抑えるための対策らしいです」
※ターボラグ……ターボが起動するまでの時間
ターボラグまで対策されるとは、どう弱点をつけばいいのだろうか?
左ヘアピンを抜け、きついS字ヘアピンも通過しき、全開区間に入っていく。
ピアッツァがオレンジのオーラを纏う。
土の属性の技だ。
「<インパルス>!
ピアッツァがオーラを纏った後に道路を走ると、何かを踏んだ感触がした。
それが原因で、C4の挙動が左右に乱れる。
「おっと! 彩依里あきら選手のC4コルベット、挙動が乱れる!」
「<インパルス>ちゅう技はうちらピアッツァ乗りしか使えん技ま! クルマと心がリンクせんと使えんわいね!」
2連ヘアピンに突入する。
ピアッツァはドリフト走行、C4はグリップ走行で入っていく。
2台の差は広がっていく。
あのクルマはパワーがあるだけでなく、コーナリング性能も良いという鬼に金棒だ。
男根岩前を抜け、緩い左コーナーからの直線。
ここでもパワー差で離されていく。
「まだまだわいね……」
ワシの腕では前のピアッツァにはまだ及ばない。
C4のボンネットにあるV8の悲鳴は激しくなる。
右中速ヘアピンからの左低速ヘアピン。
さっきと同じ走りで攻めていく!
これらでもピアッツァとの差は開き、100m離された。
「これでも喰え! <インパルス>!」
また罠にハマり、挙動を乱す。
挙げ句には悲劇が起きる!
インパルスの地雷原を抜けて、右中速ヘアピンに入ろうとすると、C4のボンネットから激しい音をたてながら大量の白い煙を吹き出した。
クルマは勝手に動かなくなる。
「動けC4! くそ!」
紫のタイツに包まれた足でアクセルを踏んでも進まないことに、ワシはハンドルを叩く。
「おっと! 彩依里あきら選手のC4がエンジンブロー! クルマが動かなくなった! ここでリタイアだ!」
それをスタート地点から聞いた俺は、ショックと怒りからこんな言葉が出る。
「あきらのアホ……!」
隣の智たちまでそれを知って悔しい表情をした。
「彩依里がリタイアか……」
「オオサキさんの弟子に入ったというのに……」
「無念だ」
「残念どす……」
その無念さは俺にも伝わってくる。
あきらの親代わりとして……。
彩依里あきらの結果:エンジンブローでリタイア
エンジンブローして止まったC4を、赤・白・黒のワンエイティが追い抜く。
「オオサキさん……!?」
あの人はワシの仇を取ってくれるかもしれない。
止まったあきらのC4を見ておれは考えた。
「リタイアしてしまったんだね……でも、あきらの分まで、走ってやるよ!」
リタイアした弟子の思いを受け継ぎながら、前の和倉千路の乗るピアッツァを追いかけていく。
ドライバーの名は智姉さんとの通信で知った。
あきらの仇を取ってやろう!
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