見出し画像

精神覚醒走女のオオサキ ACT.17「ブラインドアタックの恐怖」

 ギャラリーたちの視点をやめ、バトル中のクルマたちへ視点を戻そう。
 
 おれを先頭にした2台は左S字ヘアピンに突入する。
 後攻になった戸沢はヘッドライトを消し、夜に消えた。

「相手がわざとおれを行かせて相手が消えた。落ち着いた方がいい。ブラインドアタックはエンジン音を聞けば防ぐことができる!」

 走りは目に消えることはできても、耳に消えることはない。

 S字ヘアピン。
 後ろの戸沢はヘッドライトを消したまま<ハヤテ討ち>という技で160km/h以上のグリップ走行で攻め、おれと互角にコーナーに入る。

「仕方ない、先行に出てしまったら相手を離すしかないよ! <コンパクト・メテオ>では離せそうではないから<フライ・ミー・ソー・ハイ>!で離そうか! ドリフト系の技は攻めるだけでなく、ブロックできるからね!」

 そう予告し、S字を抜けた2台は左U字ヘアピンに突入する!

「<フライ・ミー・ソー・ハイ>! イケイケイケイケイケイケェー!」

 200km/hのスピードでドリフトしながら攻める!
 また、ブロックするために大きくクルマのドリフトの角度を広げている!
 
 しかし! 戸沢も<フライ・ミー・ソー・ハイ>に負けずに技を使い、コーナーを攻める!

 
「離そうとしても無駄だ。WHITE.U.F.O.ミッドナイトドライブ流<ミッドナイトドライブ・ネオ>!」

 その技を使ったことでおれと同じ時速200km/hのスピードで攻め出して、おれの後ろをつく!
 さらに、<フライ・ミー・ソー・ハイ>をブロックとしても使ったため、ドリフトの角度を小さくしてしまった。

「くそ! 離せない!」

 おれの顔に汗が出そうなほど焦りだす。!

 <フライ・ミー・ソー・ハイ>を使用したままブロック、これを使っても戸沢の眼から逃げることが出来なかった。

「次は直線、おれのほうがパワー的に勝っている!
 あそこなら離せる!」

 次は直線の第1高速セクション。
 おれのワンエイティのほうがパワー的には勝っているけど……。

「ここでも離せない! なんでだよ!」

 何度でも言うが、前輪に荷重の掛かるFFの方が下りでは速い。

 戸沢のDC5はK20Aを2.2リッターにボアアップさせて280馬力と29kg・mであり、一方のおれのワンエイティはRB26に換装させて350馬力と47kg・mだ。

 パワーもトルクも下回るものの、駆動方式と下りの重力によって加速の補正が掛かり、直線でもついているのだ。

「やっぱ駆動方式の違いか……。
 技を使っても、直線でパワーの力を使っても離せない!」

 離せないことにおれは焦る。
 先行のとき、こういう状況になるとプレッシャーが貯まっていく。
 ドライビングの集中力が乱れてしまい、走りに支障が出てしまうのだ。
 さらには覚醒技超人の精神力にもダメージを受けてしまう。
 多く消耗するほど、操作に支障が出たり、体力を消耗する。

「後ろにつきまとってやる」

 後ろの暗闇の中で煽られて精神力は減ってしまう。
 
「ち!」
 
 おれの焦りは強くなっていく。
 煽られながら第1高速セクションを駆け抜け、次の左コーナーに入る。

 バトルに変化が起きるのだった……。

 暗闇にいる後ろの戸沢はおれのワンエイティの死角を突いたインを攻めていく。
 そして……!

「WHITE.U.F.O.ミッドナイトドライブ流<消えるミッドナイトドライブ>!」

 ヘッドライトを消しながら、消えるライン(前走車のミラーの死角をついた走行ラインを走り、意表を突いて抜き去る走り)で195km/hを超えるスピ-ドで抜きにかかる!
 さらに闇属性の技であり、光属性であるおれに対して使ったため、速度は1.5倍の290km/h以上の速度へ増加した。

「音で車は分かる! <コンパクト・メテオ>!」

 おれはドリフトでブロックしようとしたものの、<消えるミッドナイトドライブ>の効果でブロックできず、DC5を前に行かせてしまった。
 ふたたび先行が戸沢、後攻がおれになった。

「う、うわ!」

 とてつもなく大きな精神ダメージを受ける。
 おれの覚醒技と相性の悪い闇属性だったため大きかった。

 追い抜きは頂上に報告される。
「ピッ! 今、第1高速セクション後のヘアピンで戸沢さんのDC5がヘッドライトを消したまま消えるラインで大崎翔子の前に出ました!」

「戸沢、<消えるミッドナイトドライブ>で前に出たじゃんか」

「あの技は絶対に防ぐことは出来ないうえ、精神ダメージが恐ろしく、どんな走り屋でも立ち直ることが難しい技です」

「オオサキに耐えられるか? あの技は無理じゃん。ほとんどの走り屋はこの技を喰らって負けていったじゃん!」

 この<消えるミッドナイトドライブ>はとても強力な技だ。
 必ず追い抜くだけでなく、精神的に大きく与えるものだ。
 ほとんどの走り屋は立ち直れない。

「あの技を使えば……勝ったと同然じゃん!」

「そうですね! 柳田さん!」

 <消えるミッドナイトドライブ>を使ったことでWHITE.U.F.Oのメンバーは勝利を確信していた。

 しかし、勝利を確信する柳田の脳裏には

(ここからやばくなりそうじゃん、オオサキに変化が起きじゃん……)

 とこれからのバトルの状況を不安視していた。
 今後の展開を警戒しているのだ。

 一方、おれの味方たちはというと?

「サキさん、抜かれました。おらのようにサキさんは戸沢に勝てないかもしれません」

「でも、下りの後半は直線が多くなるよ。パワーのある車に乗るサキちゃんは有利かもしれないね」

「けどォ、下りでは軽量でFFの戸沢が有利やで。ギャラリーの人からトランシーバーで聞いとったけど、第1高速セクションではサキはんは戸沢を離せんかったで」
 
 おれが抜かれたことに、プラズマ3人娘は焦り始めている。

「後半でもサキさんは勝てねーべ……どうすればいいだあ?」

 クマさんのほうはウロウロと動作し始めた。

「オオサキは不利になるかもしれない。しかし、勝ち目を作る要素もある。それは能力だ」

「サキさんの能力?
 おらは見たことありませんよ」

「くにちゃんも」

「うちも」

 おれの能力はどんなものか、プラズマ3人娘は知らない。

「オオサキの能力は強力なものだ。精神ダメージが大きくなるとクルマの性能がアップし、ドライバーの操作性・集中力を上げるものだ。ただし危険であり、使うとすぐ疲労するからな。私の能力も似たようなもの使うが、良く倒れかけたになったものだ」

 視点を戻そう、現在2台は第2高速セクションを走っている。
 両者2台互角のスピードだ。おれは戸沢DC5の青いテールランプを追う。

「フンッ、先攻でも使うことはあるんだな」

 戸沢が先行しているにも関わらず、一瞬ヘッドライトを消した!

「WHITE.U.F.O.ミッドナイトドライブ流<暗闇の威嚇>!」

 点滅するように一瞬だけだが、戸沢は消えた。

「何! 戸沢は後攻だけしかライトを消さないのに!」

 それを見て、後ろにいるおれは驚きを隠せない!

「戸沢さんは後ろのクルマを威嚇するために先行でも消えることがあるんだよ」

「へぇ~知らなかったぜ。後攻だけだと思ったぜ」

 戸沢の行動についてギャラリーは話す。

 突然一瞬消えたことにおれは驚き、アクセルを踏む力を弱めてしまう。

「うわ!」

 さらにおれは光属性のダメージを受けた。
 あの技は光属性なので、等倍のダメージだけど精神攻撃の高い戸沢の覚醒技と技の威力もあって大きなダメージだった。

 戸沢のDC5がおれのワンエイティを離していく。

「く!」

 少しづつだが、離されているおれは苦い顔をした。
 第2高速セクションの後はジグザグゾーン。

 追い上げようと、そこに入った途端に<フライ・ミー・ソー・ハイ>を使ったけど、満足に追い上げることは出来ずこれじゃあ気力の無駄遣いだった。
 一方の戸沢はジグザグゾーンの後半あたりで<ミッドナイトドライブ・ネオ>を使って逃げていくのだった。

 とても絶体絶命だ!
 技で離されて、精神力はかなり減っている!

 最初の難所でギャラリーしている双子の姉妹はおれのピンチについて話していた。

「モミジ! トランシーバーを持っている奴が言っていたんだけどよ、大崎翔子がピンチじゃねーか!」

「けど、大崎翔子がピンチになるとチャンスに変わるだろうね。ボクはあれの予感をしている」

「あれって、なんだよ?」

 双子の妹は今がチャンスだと予感し、顔には笑みがこぼれる。

「もうすぐ、能力が発動するんだ」

 そう、そのチャンスとはこのことだった。

 再びバトル中の2台の視点。

 ジグザグゾーンが終わって、バトル中の2台はサクラゾーンに入る。
 戸沢とおれの距離は互いが見えなくなるほど離れていた。

「終わったな。柳田とサクラを倒した奴とは聞いていたが、大したはなかったな」

 相手の強さにうんざりするようなことを言って、DC5を走らせる。

「ダメだ……もう負ける」

 離されているおれは敗北を確信した。
 と、次の瞬間!

 おれのワンエイティに、大量の萌葱と白のオーラが現る!

「あれ、オーラ?」

 オーラは台風と発光のような姿でワンエイティを包む。

 しかし、それは逆転の幕開けを開かせるのだった――。


いいなと思ったら応援しよう!