精神覚醒走女のオオサキ ACT.13「戸沢龍」
読んでいただくために
この作品はフィクションであろ、登場する出来事や人物は架空のもので実在しません。
公道での自動車レースを題材にしておりますが、実際には犯罪行為なので真似をしないようにしてください。なお、この作品はそれを助長しません。
(道交法で禁止されており、もし破ってしまった場合は罰金及び懲役、その両方が課せられる場合もあります)
あと、この作品の影響で車に興味を持って頂くことは構いませんが、実際に運転する際は事件事故を起こさないように交通ルールを守り、安全運転を頂くようお願い致します。
フィクションと架空の区別が付く人のみ観覧をしてください。区別が付かない人は観覧しなくてもいいです。
もし事故を起こした時や迷惑運転は自己責任です。作者は保証しません。
特殊能力要素や同性愛要素などが含まれるので苦手な方は注意するように。
4月9日の木曜日の朝、和食さいとうに段ボールに詰まれた荷物を持ったドラゴン急便の配達員がやってくる。
「お届け物です。Takasaki市の戸沢(とざわ)龍(りょう)さんからです」
「どうも」
銀色のかかったウグイスの色のロングヘアーの女性、斎藤智(通称:智姉さん)はその荷物を受け取る。
配達員はバイクに乗って帰っていった。
荷物を玄関に置いて、開ける。
中から手紙と豆腐1か月分が入っていた。
「豆腐1か月分とは和食レストランであるここではありがたいことだが、手紙はなんなんだ?」
手紙を読む。
柳田に勝ったワンエイティ乗りへ
お前が男性恐怖症だと聞いたので、お前の所には直接行けず手紙を送ってきた。
バトルをしたいからだ。
日は今度の土曜日(4月11日)の夜11時、場所は赤城山のダウンヒルで行う
WHITE.U.F.Oのリーダー 戸沢龍より。
「WHITE.U.F.Oのリーダーで榛名ダウンヒル最速の戸沢から挑戦が来たようだな……」
身体は小さくて幼く見える割に脚はグンバツな少女・大崎翔子ことおれが智姉さんのいる玄関へ来た。
「荷物が来ましたけど、なんですか?」
「戸沢龍という奴から挑戦状だ。こないだお前が倒した柳田マリアが所属しているWHITE.U.F.Oのリーダーだ。WHITE.U.F.Oは女性の方が多いチームだが、戸沢龍は男だ」
「お、男!? 女が多いチームのリーダーだからナンパされたら嫌です!」
男だと聞いたらビビってしまった……。
戸沢龍って女好きだったらどうしよう…!
「(そんなときはどうしようか……)大丈夫、戸沢龍は女の多いチームのリーダーだが、ナンパなんかしない硬派な走り屋だ。顔は中性的だがな……」
「ふぅ……」
あ、安心した!
「それと、バトルは挑むのか?」
「バトルは挑みます」
4月11日の11時、待つぞ!
「昼に熊久保が来たらそのことを話してみよう」
智姉さん、おれもそう思います。
昼12時、和食さいとうはオープンする。
オープンと同時に智姉さんの服装は私服のセーターから仕事着のえんじ色の和服に変わった。
脚を黒く包むタイツはそのままだ。
「いらっしゃいませー!」
「プラズマ3人娘か」
3人のお客さんが入ってきた。
和食さいとうには女性客が少ないけど、彼女たちは珍しい女性の常連客だ。
通称・プラズマ3人娘。
1人目は熊久保宣那(通称:クマさん)。
2人目は小鳥遊くに(通称:タカさん)。
3人目は川畑マサミ(通称:川さん)だ。
「実は話したいことがあるんだ。手紙が来た。榛名の戸沢龍という奴からだ」
智姉さんは朝来た手紙をクマさんに渡す。
「今度の土曜日(4月11日)の夜11時にバトルを行う、ってバトルじゃねーですがー!」
「それって挑戦状だよね!」
「サキはんに挑戦状か?」
「そうだ。WHITE.U.F.Oの戸沢龍という人から来たんだ」
おれも話した。
「戸沢龍と言えば、榛名最速チーム・WHITE.U.F,Oのチームリーダーで柳田の親分だ。
柳田が榛名で上り最速と言われているのに対して、戸沢の方は下り最速と言われている」
「負けた柳田のリベンジでおれに勝負を挑んできたんですね?」
「そう挑んだつもりだ。戸沢の愛車はお前の対戦相手では初めてのFF車、ホンダのDC5型インテグラType-Rだ」
戸沢の愛車がFFだと聞いてクマさんはこんなことを口に出す!
「FF……? んだな奴なら勝てるべ、サキさん! あんな奴なら楽勝でしょ!」
戸沢のクルマがFFだとナメていた。
「FFなんてドリフトができねー遅っせー車だべ! 戸沢をやっつけてやるべッ! 国産のFRセダンなめんなよ!」
彼女も宣戦布告してしまったようだ。
「あっ! 朝なんか情報を聞いてきたっべ!」
「なに? クマさん」
と気になったタカさんがクマさんに尋ねる。
「実は今日の夜に赤城山でWHITE.U.F.Oがチーム全員で練習すると聞いてきたべ。そこに行けば戸沢がいるかもしれないだ~」
しかし、彼女たちの反応は冷たかった。
「ダメよ、ダメダメ! 戸沢は榛名で1番速い走り屋でここでも勝ちまくっているから絶対勝てないよ!」
「戸沢のクルマはFFだとナメたらあかんで。戸沢の愛車のDC5は速いんかもしれへんし」
クマさんが戸沢に挑もうと考えることを2人は反対する。
ちなみにタカさんは去年流行った芸人のネタを言ってしまった。
「勝てるべ! おらのグルマはFRだがらな、FFには負げねーべ」
「けど、駆動方式が違っても有利とは限らないよ」
「そうやそうや! DC5はFFやけど結構高性能なクルマやで!」
タカさんと川さんは激しく反対する中、智姉さんは賛成し、
「練習中に戸沢に殴り込むつもりか? 殴り込む、殴り込まないのは自由だが、私は殴り込んだ方がいい。 勝っても負けても相手の実力を知るために殴り込んだ方がいいぞ」
と勧めた。
「クマさん、おれも智姉さんと同じだよ。殴り込んだ方がいいと思うよ。」
おれも智姉さんと同じことを言う。
相手の実力なんて、見ないと知ることができないから。
「やっぱ殴り込んだ方がいいべが! こんにゃ赤城のすってんぺんで挑戦だ~!」
「やれやれ、もし負けたらどうしようもないよ。呆れるよ」
「せやな」
今夜、赤城で練習する戸沢らWHITE.U.F.Oを殴り込むことが決定した。
しかし、戸沢とDC5の実力を高さをクマさんは後で思い知らせるのだった……。
そして決戦の時間になった。
夜8時、赤城山では白い車たちが走っている。
ダウンヒルのスタート地点の資料館前にはリーダーである戸沢龍のDC5とNo.2である柳田マリアのZ33が停車していた。
その雪のようなクルマたちの中に3台が登る
BNR34純正リアウイングとカナードを付けたオレンジのローレル。
フルエアロで武装した黄色のHCR32型スカイラインセダン。
同じく青いA31型セフィーロの3台が赤城の山を登っていく。
おらたち、プラズマ3人娘のクルマだ。
その練習する白いクルマたちに紛れながら3台は赤城の山を登っていき、資料館前の駐車場に着く。
それぞれの車から降り、戸沢と柳田の前に現れた。
おらは戸沢を見たとき、あいつの背中から黒い霧が発生した。
覚醒技のオーラだ。
これは色は属性を表し、色から闇属性を表す。
「お前たちに何しに来たんだ」
「バトルを申し込みに来たんです! すいません、お願いします!」
土下座して申し込む。
「分かった。バトルの前に言うが、お前の名前は?」
「ヤー!」
くにと川ちゃんと共に某ダチョウなんとかっぽいことを言って、
「熊久保宣那。19歳の大学生です。ちなみにあなたがバトルを申し込んだ大崎翔子さんは挑戦状を申し込んだそうです」
自己紹介をする!
「熊久保宣那……チューニング雑誌で見たことあるな。ドリフト甲子園優勝者として。オオサキが挑戦を受け入れたのか、分かった。あと、お前ら走り屋版ダチョウなんとかみたいな奴らだな」
「そうですか? 聞いてないよぉ」
それは置いといて……。
「さぁ、バトルを始めようか。バトルを始める前に練習を一旦中止することをメンバーに伝えておこう」
こうして、おらと戸沢のFRvsFFのバトルをスタートをすることが決まった。
「FF車とバトルして勝つなんて、How hard Can it be?」
訳すると、そんなの簡単だべ、とおらは某英国自動車番組の司会者みたなことを言う。
「Don’t Say That! それを言うな!」
と、川ちゃんとくにちゃんは言い返す。
「戸沢よ、抜くなよ抜くなよ!」
またダチョウなんとかみたいな事を言ってしまった。
自信満々のわだすだったけど、わだすが見た戸沢のオーラは強く感じる。
あと、どこかで誰かが不安視してた。
一方、同じ時間のおれと智姉さんはどんなことをしていたって、テレビを見ていた。
見ていたのは20年前にアニメ化もされた人気漫画を原作としたドラマんp再放送だけど、
それは酷い内容だった。
原作では小学校が舞台のはずであるものの、ドラマでは高校に変えられてしまった。
さらに舞台が変わっている影響でキャラクターは性格や年齢をお原作とは異なった設定に変えられてしまった。
主人公の家族は原作では妹がいるのにそれを弟に変えられ、ほかにも無駄なオリジナルキャラクターを追加している
キャスティングもひどく、着物キャラにアジア人の女優(しかも演技が片言)を起用し、衣装もその女優の国の衣装に変えられてしまったのだ。
脚本もひどい。
展開は長いし、バトルはご都合主義に終わってしまう。
「酷いドラマだなァ、電源を切ろうか」
「おれ、昔このアニメの再放送を見ましたよ。アニメは原作に忠実に描けていました。ドラマ版は原作を無視して酷いですね。冒涜レベルの作品です」
あまりにもつまらなさにおれたちはテレビの電源を切ってしまった。
次にクマさんのことを話す。
「今夜クマさん、バトルすると言っておりましたね。本当にバトルしているんでしょうか?」
「あいつをバトルに行かせたのは私だが、熊久保は負けるかもしれないな」
「どうしてですか?」
その理由を語る。
「1つは覚醒技だ。戸沢の覚醒技は必ず相手を追い抜くと言われている、先行だと負けるな。2つはFF車の長所とDC5の恐ろしさを知らない。FFの長所といえば室内が広い、安く作れるといった実用性な長所があるものの、走りにおける長所も存在する。走行安定性が高く、コーナリング性能が高いんだ」
FFには走りには向いていないイメージだけど、これら以外にも長所もある。
「さらには下りではFRより速い、フロントに荷重がかかるためだ。下りならパワーも加速も上のFRより速く走れるんだ」
他にも別の駆動方式に比べて車重が軽いと言われている。
次にDC5の特徴を語り出す。
「戸沢のDC5に積まれているエンジンはVTECと言われている。普通、エンジンは一般車向けなら低回転のトルクは良いのだが高回転が悪い。スポーツカー向けならその逆だ。しかしVTECは違った。VTECは一般車・スポーツ用の長所を両立し、短所を打ち消した強力なエンジンだ」
一部のレースではターボ扱いを受けていると言われている。
「DC5のすごさはVTECだけではない。DC5はType-R、Type-Rはホンダの最上級スポーツグレートと言われていて、VTECと言われているエンジンを搭載しただけでなく足回りも高性能なものになっている。大半はFFやNAに拘りつつも、乗り心地を犠牲にするほどの軽量化や剛性強化も行われ、『公道を走るレーシングカー』と言えるような性能だぞ」
DC5をFFという理由で熊久保はナメていて、Type-Rであるそのクルマの真の性能を知らないようだ。
向こうで智が不安要素を解説しながら、赤城ではバトルが始まろうとしていた。
赤城山からのお知らせです。
まもなく競技車両がスタートいたします。
危ないですからガードレールの内側までお下がりください。
熊久保宣那(C33)
VS
戸沢龍(DC5)
コース:赤城下り
スタートのカウントはナンバー2の柳田が務める。
「それじゃあカウント始めるじゃん!」
手を上げて始める。
同時にC33のRB20DETとDC5のK20A改2.3Lが野獣のような咆哮を上げていく。
「5! 4!」
カウントを数えると指が折れていく。
「3! 2! 1! GO!」
カウントが終わると2台は一斉にスタートする。
「加速ではあっちは上か。しかし、先に行かされたことは悔しくない」
おらのC33はFRで430馬力、一方の戸沢DC5はFFで280馬力。
FRでパワーもトルクもあるため先行を取った。
「うっしゃろの戸沢の奴、いねくなったべ!
おらの勝ちだなァ!」
最初のストレート、おらのC33はパワーで戸沢のDC5を離していく。
すでに彼は消えていた。
それを眺めるとすぐ勝利を確信してしまった。
離された戸沢、FRセダンの実力を見たか!
まずは最初の左ヘアピン。
超速舞流の能力で向上した旋回性能から来るドリフトでコーナーを抜けていく。
このまま有利に見えた。
が、
「現在C33型ローレルが有利だんべい! 戸沢さんのDC5はついてこねー!!」
直線を駆けるおらのC33をギャラリーは見る。
後ろに戸沢のDC5がついてこないと考えた。
ものの、おらの耳にエンジン音だけ聞こえてきた。
「あ、うわ! 戸沢さんのDC5はいたんだ。 前照灯を付けていねかったから着いてこねーと思っていたんべい」
「C33じゃねーエンジン音も聞こえたけど、それは戸沢さんのDC5だったか」
なんと! 戸沢のDC5はヘッドライトとアンダーネオンを消して暗闇の道を走行していた!
それをまだおらは知らない。
3連続ヘアピン、U字左ヘアピン、複雑なS字コーナーを抜けていく。
先頭はわだすなのは変わらない。
コーナーを抜けていくたびにC33の旋回性能は向上している。
現在リードしているおらは第1高速セクション前の左コーナーに突入した。
「よっしゃー、うっしゃろを見たらDC5はいねーべッ! ごのまま技を使わなくても勝てるな、わだすの勝ちだ~!」
後ろに戸沢がいないのを見て、わだすは勝利を確信した。
差は200m以上離れていると考えている。
しかし!
わだすは油断していた。
「ここで仕掛けるか」
実は戸沢はすぐ後ろに走っていたのだ。
車の光を消して走っている。
榛名最速であるため、腕が良く、DC5も性能が悪くない。
コーナーを抜けて速くなったC33を追いかけ、おらに対して追い抜きを仕掛ける!
「WHITE.U.F.O.ミッドナイトドライブ流 <消えるミッドナイトドライブ>!」
闇に包まれた戸沢のDC5はアウトからC33を追い抜く!
DC5の速度は195km/h!
光を消して暗闇を走るクルマがいることに気づいていなかったおらは驚きを隠せない。
「うわあ! なんだべ! あいついたのかァ!?」
驚いたおらは戸沢に先行を許してしまっただけでなく、その技で精神ダメージを喰らった。
土属性は闇属性に弱いからダメージが大きかった。
「あああああああああああああああ! どうしたんだべ、C33!」
精神力を大きく失ったC33はスピンをしてしまった。
おらは敗北した。
FFをナメたあげくに負けてしまったのだ。
榛名下り最速の実力は恐ろしい。
おらとC33がスピンしてしばらくした後、くにのHCR32と川ちゃんのA31がおらのところに来る。
2人は車から降りて、おらのC33のところへ行く。
「負けたんか?」
「負けたべ、ヘッドライトを消して抜いてきたんだべ。
相手にダマされただ……」
「けど、負けるなら戸沢とバトルしないほうが正解だったね。FFをナメていたのが痛かったよ」
「せやな」
本当にバトルしない方が正解だったけど、
「けど、戸沢の走りは分かっただァ~! 明日、そのことを話してやろべ!」
という新たな決意をした。
そして翌日(4月10日の金曜日)、昼12時。
「え! クマさん、戸沢とバトルしたのォ!?」
「そうだべ。昨日戸沢とバトルして負けただ戸沢はヘッドライトを消す走りが特徴だべ。つまりブラインドアタックだ」
「あの序盤はクマさんが勝っていたらしいんだよ。相手は見えなかったから」
「しかし、実は相手は後ろにいたんや! ヘッドライトでクマはんを追い抜いて、ヘッドライトを消す技で大きく精神ダメージを受けたクマはんはスピンした。そしてクマはんは負けてしもうた」
プラズマ3人娘はバトルの状況を話す。
「へェ~なるほど。そんな走りをするんだ」
クルマの光を消す走りをする戸沢龍、
彼の走りを知ったのだった。
ただし次回は序盤は熊久保がそのことを話す前のところが描かれる。
時系列上この後になるのは中盤ぐらいだ。