肥後の走り屋たち ACT.1 覚醒技(テイク)
あらすじ
16歳の誕生日を迎え、免許を取ったばかりの少女・加藤虎美。
父親からのプレゼントとして、三菱・GTO(前期型)を貰うのだった。
翌日そのクルマでドライブへ向かう。
帰りにAE101型トヨタ・カローラレビンと遭遇し、バトルをするも圧倒されてしまう。
あの出来事から2週間が経過した、8月16日の土曜日。
時間は16時、天気はさっきまで曇っていたものの、今は晴れている。
熊本の道路をうちのGTOは走っていく。
速度は40km/hと遅めだ。
今日も前後には若葉マークを入っていて、助手席には誰か乗せている。
お父ちゃんではない。
「虎美の運転遅くない?」
乗っているのは、飯田覚(いいだ・さとり)といううちの親友だ。
飯田ちゃんと呼んでいる。
見た目は、長い桃色の髪をツインテールに結び、猫のような吊り目をしていて、身体はうちより小さめだ。
服装は、灰色のパーカーに髪色と同じカラータイツを履いている。
「安全運転のため、これぐらいの速度で走っとる」
うちだって、初心者だ。
これぐらいの運転しないと、事故る。
後ろから、白いSG9型スバル・フォレスターがGTOを煽る。
「煽られているわよ、虎美! あなたが遅いからよ」
「スピード上げるたい」
猛加速したGTOはフォレスターを離していく。
そのクルマのドライバーは何か呟いた。
「潰したくなるような走り屋を見つけたぜ……面白いね」
後に、このフォレスターとは大きく関わることとなる。
うちらが向かった場所はバイト先の市民プールだ。
そこで監視や清掃といった仕事をしている。
ユニフォームは水着だ
夏はお客が多くなるので忙しい。
18時にバイトを終え、再び飯田ちゃんと共にGTOに乗り込む。
ここから帰路につく。
「さぁ、帰るたい」
(さぁ、帰るよ)
ボンネットに潜む6G72を起動させ、駐車場を出発した。
日が沈みかけた19時、うちらは箱石峠を走る。
ここでは飯田ちゃんと共にクルマの運転を練習している。
彼女にもそれのハンドルを握らせることがある。
この道は走り屋だけの場所になっているため、「仮免許練習中」という張り紙は必要ない。
復路区間を走っていると、後ろから、2週間前に見かけた水色のAE101型レビンが迫ってくる。
助手席の飯田ちゃんは、それを目撃する。
「虎美、後ろから何か来ているわ。さっきみたいに煽られたくないなら道を譲って!」
「はい」
T字路後の路肩にGTOを停止させると、AE101も続く。
そのクルマからドライバーの女性が降りてくる。
見た目はハワイアンだった。
赤紫色のロングヘアーを水色のシュシュで2つに纏め、赤いサングラスをカチューシャ代わりにしている。
顔は欧米人のような青い瞳に、目の形は垂れ目だ。
上の服装はアロハシャツをジャケット代わりにしていて、中には黒いTシャツを着用している。
下の服装は赤いホットパンツに、黒いトレンカ、同色のドライビングサンダルを履いてある。
彼女はGTOの運転席の窓を軽く叩く。
「AE101乗りの女性が何か用よ、窓を開けて」
飯田ちゃんに言われて窓を開けると、女性は飛んでもない一言を浴びせる。
「先週のGTO乗りのノロマはあんたか」
「の、ノロマって失礼な言い方ですばい!」
この前、負けたのは事実だ。
けど、人を見下すような言い方はやめて欲しい。
その後、女性は飯田ちゃんを見つめる。
「隣にいる子は……べっぴんさんだね」
手に持ったカメラで、飯田ちゃんを撮影する。
「やめてください! 私がべっぴんさんだからって……」
飯田ちゃんは可愛い女の子だ。
見た目は学校一の美人と言われ、今年度ミス麻生北の優勝候補でもある。
その美貌はうちが初めて見た時、一目惚れしたほどだ。
撮影の邪魔をすまないけど、女性に名前を訪ねる。
「あなたは一体誰ですか?」
「自分は庄林かな(しょうばやし・-)、21歳。鹿児島の大学生だ」
「加藤虎美です。麻生北高校の1年生で16歳です。このクルマは誕生日プレゼントで貰いました」
「同じく飯田覚、15歳です。この年齢だからまだ仮免許ですけど」
「ノロマが加藤虎美で、べっぴんさんが飯田覚か……覚えとくよ」
互いの自己紹介を終えると、昨日見たアレについて訪ねる。
「こん前、透明なオーラば纏って速かドリフトしていましたばってん、あれは何でしょうか?」
(こん前、透明なオーラを纏って速いドリフトしていましたけど、あれは何でしょうか?)
かなさんはそれに答えた。
「これは<コンパクト・メテオ>、覚醒技(テイク)の技の一種だ」
覚醒技!?
初めて聞いた存在だ。
「覚醒技ちゅうもんは何ですか?」
(覚醒技というものは何ですか?)
「覚醒技を知らないのか、ノロマ! あんたの身体にはそれのオーラが流れているというのに!」
「本当ばい」
(本当だ)
今すぐうちの手を見ると、透明のオーラが発生していた。
「覚醒技とは、走り屋がよく使っている特殊能力だ。覚醒の技と書いて、「自分を高く越えていく」という意味から、「テイク」と読む。使える者は「覚醒技超人(テイク・ハイヤー)」と呼ばれる。その者の証拠はオーラを持っているか持ってないかだ」
うちも覚醒技超人の1人か。
「<コンパクト・メテオ>という技だってあんたでも使えるかもしれないぜ」
「こん技、どうやって使うとですか?」
「それは、後で教えてやる」
「いつからうちは覚醒技超人ちゅう存在になったとですか?」
なぜうちが覚醒技超人になったのかも教えていだいた。
「あんたが覚醒技超人になったのは、先月阿蘇に落ちた隕石の落下が原因だ」
「隕石!?」
「ロジャース彗星の隕石だ。日本にはこの彗星が降ることがあるらしく、それがキッカケで覚醒技超人が生まれることがある。助手席のべっぴんさんの身体にも、オーラがある」
「ホンマたい、飯田ちゃんの身体からもオーラが見えるばい」
(本当だ、飯田ちゃんの身体からもオーラが見えるよ)
「私にも覚醒技という力を持っているのね」
飯田ちゃんの身体からオーラが出てくる。
色は青とオレンジだ。
もし彼女が走り屋になったら、強力な存在になりそう。
「ロジャース彗星って飯田ちゃんも覚醒技超人にしたと……かなさんだってそん彗星から覚醒技を貰ったとですか?」
(ロジャース彗星って飯田ちゃんも覚醒技超人にしたのか……かなさんだってその彗星から覚醒技を貰ったんですか?)
「それは……」
かなさんの覚醒技の秘密を聞こうとしたとき、バイトへ行く途中にうちのGTOを煽った白いフォレスターが停まる。
そのクルマから屈強な男が降りてきた。
彼は運転席の窓を叩く。
「見つけたぜ。ヘタクソなGTO乗り。ここで会うとは面白いね~」
「もしかして煽ってきたフォレスター乗りばい!?」
「そうだ。俺の名は大竹。お前みたいなヘタクソな走り屋を見ると潰したくなるんだよね」
フォレスター乗りの大竹はうちの顔を見る。
彼の身体からオーラが出てきた。
覚醒技超人かもしれない。
色は紫と金色。
こんな宣言をしてきた。
「ヘタクソなお前のことを潰す。バトルをしようぜ。ルールはここから復路区間全て使う。先にゴールした者が勝ちだ。」
バトルを仕掛けてきた。
未熟なうちに対して、飯田ちゃんから反対の声が響く。
「ダメよ、虎美! あんたは運転が遅いから太刀打ちできないわ」
けど、うちの決心は固かった。
「バトル、受け入れるばい」
「虎美、平気なの? 勝ち目はないわ」
「売られた喧嘩を買うんはうちの主義たい」
「いいぜ。ヘタクソ相手には絶対引き離してやる!」
こうして、大竹とのバトルが決まった。
かなさんはこんな提案をする。
「べっぴんさんを降ろして」
「なーしてですか」
(何故ですか?)
「自分を助手席に乗せて欲しい。ノロマにはサポートをするからさ。ラリーでいうコ・ドライバーみたいな役割をするぜ」
飯田ちゃんとかなさんが交代する。
助手席の人間が交代したGTOはフォレスターと共にスタートラインに並ぶ。
2台のエンジンが勇ましく吠える!
飯田ちゃんはスタート地点に立つ。
「スタートの合図は私がするわ」
飯田ちゃんの両腕が上がると、カウントが始まる。
「カウント5秒前、4、3、2……1」
残り1秒になると、フォレスターが先に出発をする!
ボクサーエンジンの音と共に、GTOにケツを見せていく。
「ちょ、先にスタートとは反則でしょ!? 虎美、追いかけて!」
「先にスタートされるとは……仕方なか。追いかけてやるばい」
1秒遅れて、うちとGTOは出発する。
6G72のサウンドと共に加速していく。
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