光速の走り屋オオサキショウコ肥後の走り屋たち ACT.5「森本ひさ子」
あらすじ
麻生北高校の生徒、虎美、覚、ひさ子は放課後、部活の時間に自動車スプリントレースのチラシを見つける。それを機に、部長を決めるために箱石峠でバトルを行うことに。部長の座を懸けた戦いの火蓋が切られる。
本編
加藤虎美(Z16A)
vs
森本ひさ子(BG8Z)
コース:箱石峠往路
2台はエンジン音を轟かせながら、長い直線を駆け抜けていく。
うちのGTOは460馬力のパワーで、一気にひさちゃんのファミリアを引き離した。背後のライトが小さく見え始めた頃、最初の緩い左コーナーに差し掛かる。
そこからS字に突入すると、バックミラーに映るファミリアが徐々に距離を縮めてくるのを感じた。
「相手はパワーじゃ勝てんばってん、このまま接近するつもりたいね……」
ステアリングを握る手に力を込めつつ、後方を警戒する。だが、心のどこかで違和感が生まれた。
「なんか、大竹と比べるとスピードが足りない気がするばい。」
8ヶ月前に遭遇したあの走り屋――大竹の走りは、どこか圧倒的な存在感があった。それに比べると、ひさちゃんの運転には迫力が欠けているように感じた。ただし、油断は禁物だ。重いGTOを操る以上、次のコーナーでポジションを奪われる可能性は十分にある。
S字の出口に差し掛かると、ファミリアのフロントライトが再び迫り始めた。その光に、次の展開への緊張がじわじわと胸を締め付ける。
スタート地点。
私はかなさんと一緒に森本さんの特徴について話していた。
「ヒサコンって、どんな走り屋だ?」
「悪くない走り屋ですよ。ただ……」
「ただ?」
「肝心なところで、いつも力を発揮できないことがあるんです。例えば、直線では速いんだけど、コーナリングになるとどうしても安定しない。ああいう場面で力を発揮できれば、たぶん負けないと思うんですが」
かなさんの言葉には少しためらいがあった。それでも、森本さんを思う気持ちが伝わってきた。
「それでも、ヒサコンならきっと大丈夫だzr?」
私もついそう言いたくなった。
友達同士の戦いだからこそ、どちらにも頑張ってほしい。でも、心のどこかで勝敗はどうでもいいと思っていた。大切なのは、2人がそれぞれの走りを見せてくれることだ。それを見られれば、どちらが勝っても、きっと満足できるはずだ。
2台は箱石峠の往路を疾走する。長い直線を駆け抜けたGTOは、460馬力のパワーでファミリアを先行する。次の緩いS字に突入する際、うちはひさちゃんとの距離を確認し、余裕の表情を浮かべた。
「このまま離したるばい!」
だが、直後の右ヘアピンで、ひさちゃんのファミリアが一瞬の隙を突き、巧妙なライン取りで距離を詰めてくる。
「虎ちゃん、逃がさんばい! 儀の蛍流<スライディング・ハンマー>!」
緑のオーラを纏ったひさちゃんは、鋭くコーナーを攻める。彼女はコースの条件や相手の動きに瞬時に適応し、接近することなく逆転を狙う。相手を引き寄せ、次の瞬間にはラインを変えて圧力をかけ、相手の判断力に揺さぶりをかける技だ。
「何て技ばい……簡単には離れんちゅうこつか!」
距離がほぼゼロになったところで、次は左曲線が迫る。うちは内側を狙うが、ひさちゃんの走りに防がれる。
「くそ、相手もやりおる……」
うちは一度心を落ち着け、新たな技を繰り出す準備を整える。
「肥後虎ノ矛流<片鎌槍>!」
鋭いラインでファミリアを引き離すGTO。精神力と戦術を駆使して、相手に強烈な圧力を与え、動きに制約をかけることで、ひさちゃんのリズムを崩す。
「虎虎虎虎ー!」
その走りは、まさに異次元の速さだった。ひさ子は懸命に追いつこうとするが、技術とクルマのパワーの差が影響し、次第に差が広がる。
「負けるもんか」
だが、次は高速区間だ。しかも上り坂だ。ひさちゃんは最後まで諦めなかった。
さっきできた距離はさらに膨らみ、ひさちゃんはもはや追いつけなかった。勝負の行方が決まり、うちの勝利が確定した。
勝利:加藤虎美
バトルが終わり、虎美のGTOと森本さんのファミリアがスタート地点に戻ってきた。
2台のドライバーが車から降りてくる。
「2人ともお疲れさま……」
「ひさちゃんに勝ったばい」
「おめでとう、虎美。あなたが一歩リードよ」
私は親友の勝利を祝った。
「参ったばい……やっぱ虎ちゃんには勝てんかった」
「何を言っているの、森本さん。次は私との勝負よ」
勝って兜の緒を締めよと言われるが、今の森本さんにはまだそれができる余裕が足りていない。
次の勝負がすぐに始まる。
私のSVXと森本さんのファミリアが並ぶ。
引き続き、かなさんがスターターを務める。
道の側には3人の少女がギャラリーとして立っていた。
それぞれ、長い黒髪を束ねた少女、青紫の髪をツーサイドアップにした少女、胸まで伸びた金髪を三つ編みのお下げにし、眼鏡をかけた少女だった。
「バトルの気配がすっばい」
「ルリ子、面白そうばい!」
「けど、クルマはまだ来とらんよ」
3人の少女たちは、ただの観客ではなかった。
彼女たちの目は鋭く、次のレースを見届けるために生まれてきたような雰囲気が漂っていた。
まるで、彼女たちが覚醒技超人であるかのような不思議なオーラがその場に広がっているようだった。
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