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光速の走り屋オオサキショウコ ACT.1「大崎翔子と斎藤智」

 赤城山の麓にある駐車場にワンエイティを停め、休憩を始めた。さっき抜いたZ34が止まり、ドライバーの男性が降りてきた。彼は、恨みを晴らすかのように、窓を叩いて話しかけてきた。

「どうやって抜いたんだ?あのスピードでコーナーを曲がるなんて、普通じゃ無理だろ?」

 おれは窓を開け、軽く笑って答えた。

「『覚醒技(テイク)』っていう技を使ったんだ。精神力をタキオン粒子に変えて、クルマと一体となって走るんだよ。」

 男性の目が一層鋭くなる。

「その技、どうやって使うんだ?」

 おれはしばらく考え、答える。

「誰かに教わるか、もしくは自分で見つけるしかない。後者は相当の精神力が必要だけどな。」

 男性は目を輝かせて、懇願するように言った。

「教えてくれ!俺も速くなりたいんだ!」

 おれは少しだけ間を置いてから、彼の右胸に指を当て、集中を始めた。

「じゃあ、これに30秒耐えられるか?」

 彼は顔を歪め、最初は我慢していたが、ついに10秒もしないうちに倒れ込んだ。

「残念だが、君には無理だよ。」

 覚醒技を使うには、強い精神力が必要だ。彼にはそれが足りなかった。
 男性はショックを受け、顔を覆いながらZ34に乗り込むと、エンジンをかけ、VQ37VHRの低音が響き渡りながら駐車場を去っていった。
 おれはその人を傷つけてしまった。なんとも言えない気持ちが胸締め付ける。

「さて、おれも帰ろう」

 人気がいなくなった駐車場で、ゆっくりとワンエイティに乗り込んだ。クラッチを繋ぎ、エンジンキーを回すと、RB26エンジンが唸りを上げた。その音が、まるで地面を引き裂くように響く。
 ギアをバックに入れ、アクセルを踏み込みながら、駐車場を後にした。

 1分後、目的地に到着。看板が掲げられた、古き良き日本の風情を感じさせるレストランの前に、愛車を停めた。銀色のR35型GT-Rとカラフルな3代目ヴィッツが並んでいた。
「和食さいとう」。赤城山のふもとにある和食メインの料理店だ。今日は休みだが、ここにはよく顔を出す。なぜなら、ここはおれの家だからだ。
 店内には、車の本やポスター、クルマ関係のメーカーのステッカーが飾られ、インテリアにはテーブルが2つほど並んでいる。カウンターにも席があり、メニューにはターボ焼きそばや走り屋弁当、赤城うどんが並ぶ。

「ただいま、智姉さん。赤城のドライビングから帰ってきました!」

 店内にいたのは、黒いセーターを着た女性—智姉さんだ。ウグイス色の長髪を輝かせながら振り向き、春の桜より綺麗な笑顔を見せる。

「おかえり、オオサキ。ドライブはどうだったか?」

「楽しかったです!」

 智姉さんの顔は、歳よりも少し若く見えるが、声は低く落ち着いている。彼女はここで働き、日・水・祝日以外はほとんど店にいる。おれはこの人を“智姉さん”と呼んでいる。
 店にもう1人、男性が座っていた。肩まで伸びた青い髪をまとめ、白いジャケットと長ズボンを着た、少し高身長な彼だ。

「おかえり、オオサキちゃん」

「六荒、お前いたのかよ!」

 思わず身が固まる。男性恐怖症だからだ。彼の名前は美波六荒。かつてはワンメイクレースのドライバーだったが、今はここで働いている。

「今日は休みだろ? どうしてここに?」

「いいじゃないか。様子を見に来ただけだよ」

 六荒があまりにも自由すぎて、どこか引っかかる。子供がいるはずなのに、なぜかこうして店に顔を出すのは少し不思議だ。
 智姉さんが腕時計を見て言う。

「ちょうど昼時だな。そろそろご飯にしないか?」

 時計を見ると、確かに正午を過ぎていた。

「賛成です!」

 空腹だったおれは即答し、智姉さんがキッチンへ向かうのを見送りながら、2階に上がる準備をした。

 15分ほどして、智姉さんの声が響く。

「和風明太子スパゲッティができたぞ。降りてきてくれ」

 テーブルには湯気を立てるスパゲッティが3人分並んでいた。智姉さんと、居候の六荒の分もきちんと用意されている。

「じゃあ、いただきます!」

 3人で手を合わせ、昼食が始まる。フォークでスパゲッティを巻いて口に運ぶと、程よい塩気と明太子の風味が口いっぱいに広がり、思わず声が漏れる。

「美味しいです! 智姉さんの料理、最高です!」

「そうか、気に入ってくれて良かったよ」

 智姉さんの腕前は本物だ。店長としても、料理の腕に関しては誰もが認める実力を持っている。食べ終える頃には、皿の上には何も残らなかった。

「ごちそうさまでした」

 片付けを終えると、智姉さんが微笑みながら提案する。

「昼ごはんも終わったし、赤城へドライブに行こうか?」

「行きます!」

 おれは満面の笑みで即答した。智姉さんと一緒のドライブなら、どこだって行きたい。

「六荒、留守番を頼むぞ」

「お前の大事な家、守っとくからな」

 六荒が答えるが、正直、心の中で思うことはひとつだ—できれば彼にはここを空けてもらいたい。あの自由すぎる態度に、少しだけでも距離を置きたいと思ってしまう。
 洗面所で歯を磨き、顔を洗って身支度を整えた。少しだけ、窓の外を見ると、外の車の音が聞こえた。3台の愛車が、日差しを浴びて輝いている。これからどんなドライブになるのだろうかと、少しワクワクする自分がいた。

 銀色のR35型日産・GT-Rに近づく。
 その車は、日本を代表するスーパースポーツカーだ。5年ぶりに復活したこの車は、480馬力を誇るVR38DETTエンジンと精密なアテーサET-Sシステムを搭載し、その存在自体が威圧感を放つ。智姉さんの愛車であるこのGT-Rは、ただの車ではない、まるで野獣のような力強さを感じさせる。
 隣に停められているのは、六荒の3代目ヴィッツG's。普段は街中で見かけるコンパクトカーだが、実はワンメイクレースでも活躍するスポーツカーとしての顔を持っている。小柄でありながら、その走行性能は見逃せない。
 そんな2台を横目に、智姉さんのGT-Rのドアを開け、助手席に身を沈める。ベルトで身体をしっかり固定し、エンジンキーをひとひねり。瞬時に、VR38DETTエンジンが目を覚まし、独特の重低音を轟かせる。その音はまるで、大地を震わせる雷鳴のようだ。600馬力の力強さが伝わってくるが、今はその力を見せつけずに、穏やかに走り出す。
 赤城道路の坂道を登りながら、時速60から70km/hで進んでいく。普段であれば、GT-Rの本気を見せつけるところだが、今日はあえてそのスピードを抑えている。周囲の景色が流れ、車の中に静けさが広がる。木々が風に揺れ、山の頂きが薄く霞んで見える。空は透き通るように青く、光が木漏れ日となって道を照らしている。
 その静けさの中で、智姉さんは穏やかな表情でハンドルを握っている。彼女の運転には、どこか余裕が感じられる。助手席の自分がその背中を見ていると、自然と安心感が湧いてきた。

 中央にあるオーディオから、桑島法子さんの「私らしく」が流れ始めた。
 智姉さんのR35は、レース用にカスタマイズされており、ロールバーやバケットシート、東名パワード製のホリンジャー6速シーケンシャルトランスミッションが装着されている。その代わり、不要なリアシートやカーペットが取り外され、車体はノーマルよりも遥かに軽量化され、1560kgという軽さを実現している。
 それでも、オーディオだけは残されている。走りを優先したカスタマイズの中で、なぜかこの部分だけは温かさを感じさせる。音楽を通じて、どこか柔らかい空気が車内に広がっているようだ。

「智姉さんとドライブするなんて、なんだかデートみたいです」

 心が踊り、顔が熱くなる。心臓が高鳴って、何だかうまく言葉が出てこない。

「そう言われると…私も照れるな。でも、嬉しいぞ」

 智姉さんの言葉に、胸がじんわりと温かくなる。彼女も少し照れたように、微笑みを浮かべる。

「いい曲ですね。智姉さんが好きな桑島法子さんの曲をかけながらドライブするのも、気持ちいいですね」

「うん、私もこの声が大好きだ。すごく癒される」

 智姉さんは桑島法子さんの大ファンで、よくその美しい声を称賛している。彼女は声優にも興味があり、アニメをよく見るタイプだ。音楽やアニメに対する情熱が、なんだか彼女の魅力をさらに引き立てている気がした。

 ドライブを開始してから10分が経ち、赤い鳥居が聳える赤城神社に到着した。 長い橋の向こうに本殿が見える。静かな空気が漂い、心が落ち着いていく。
 橋を渡りながら、軽く雑談をする。

「長い橋ですね。下には大きな大沼という湖があるんですよ。琵琶湖とどっちが大きいでしょうか?」

 自分でもなんて馬鹿な質問だろうと思いながら口に出してしまった。

「それは琵琶湖が圧倒的に大きいに決まってるだろ?」

 智姉さんは笑いながら答える。

「冗談のつもりでした。もちろん、そんなこと知ってますよね」

「本当にやれやれだな」

 そんな些細なことに笑いながら、おれたちは本殿へと向かう。
 本殿に到着すると、賽銭箱に5円玉を2つ入れ、両手を合わせて祈りを捧げた。

「運転が上手くなりますように、智姉さんと一緒に幸せになれますように――」

「オオサキと一緒に幸せにいられますように――」

 それぞれの願いが神様に届くことを願いながら、静かな時間が流れる。
 参拝を終えると、おみくじに同じ願いを書き、木に掛けた。そして、お守りを手に取りながら、少し考え込む。
 智姉さんと一緒に過ごす時間はとても幸せだけど、これからのことを考えると、不安な気持ちもある。でも、それでも一歩踏み出したいと思う自分がいる。

「さて、帰ろうか」

 智姉さんが提案し、おれたちは橋へと向かおうとした。
 その時、突然、何かが起きる気配がした。何も感じなかったはずなのに、心の中でざわつくものがあった。

 赤城神社に2組の男がやって来た。 そのうちの一人、茶髪の男が突然声をかけてきた。

「君たち、僕たちと一緒に何かしないか?」

 あまりにも突拍子もない提案に、思わずおれは眉をひそめる。

「冗談だよな?」

「いや、本気だよ。そこの女の子、彼女になってくれないか?」

 金髪の男も続けた。彼の態度も軽薄だった。
 おれは言葉に詰まった。男性恐怖症である自分にとって、こういう状況は避けて通りたいものだ。

「お前ら、いったい誰に話しかけてるんだ?」

 智姉さんが冷静に答える前に、男たちはおれに向かって言葉を続けた。

「その小さな女の子だよ。君、すごく可愛いね。年齢的には小学生くらいか?」

 その言葉におれは嫌悪感を覚える。まるで物のように扱われている気がして、胸が重くなった。

「いい加減にしてよ! ナンパされるのなんて、全然嬉しくない!」

「でも君、すごく可愛いからさ...」

「やめてって言ってるでしょ!」

 その時、智姉さんが立ち上がり、男たちに向かって一歩踏み出した。

「私の大切な人に何をする!」

 男たちは驚いて一瞬足を止めたが、智姉さんの目は冷徹だった。

「お前たち、もうこれ以上は許さない。」

 智姉さんの脚が、まるで剣のように鋭く振り下ろされ、茶髪の男を地面に倒す。金髪の男もすぐに同じ目に遭った。

「これ以上関わりたくないなら、今すぐこの場を去れ。」

 男たちは、智姉さんの力強さに圧倒され、何も言えずに赤城神社から立ち去った。
 おれは彼らの姿が遠ざかるのを見ながら、深く息をついた。

 助け出されると、智姉さんに礼を言った。

「ありがとうございます。もう少しで危ないところでした。」

「また何かあったら助けてやるぞ。」

 智姉さんはいつでも頼もしい存在だ。彼女の強さ、正義感、そして優しさに、おれはいつも魅了されている。彼女以上の人は、他にはいない。

「その時は、よろしくお願いしますね。うわ!」

 智姉さんはおれの体を力強く持ち上げる。

「どうだ、お姫様抱っこは?」

「最高です!智姉さん、まるで王子様みたいです。お姫様抱っこ、気持ちいいです!」

 おれは顔が赤くなった。こんなことされるなんて、嬉しすぎる。気持ちよすぎて、心臓がドキドキしている。
 赤城神社を後にし、他のスポットを歩き回った後、R35に戻った。

「帰ろう、オオサキ。」

 智姉さんが車のキーを手に取りながら言った。

「はい。」

「赤城のダウンヒル、少し本気を出してみてもいいか?」

「もちろんです!」

 智姉さんの口元に浮かんだ笑みが、おれの胸を少しだけ緊張させた。彼女は「伝説の走り屋」として知られる存在だ。彼女の運転技術は、まさにプロのドライバーさえも驚かせるほどだ。今日は、そんな彼女の走りを少しでも見られるのだろうか。

「じゃあ、覚悟しておけよ。」

 エンジンが目覚め、低く唸る音がR35の存在感を引き立てる。おれもシートベルトをしっかりと締め、身を沈めた。

「行くぞ。赤城のダウンヒル、ジェットコースターみたいに駆け下りる!」

 R35のシートに押し付けられる感覚が、加速するたびに強まる。身体がGに押しつけられ、息を飲んだ。

「速い……さすが智姉さんのR35だ!」

「怯えるなよ。もっと見せてやるから、覚悟しろ。」

 智姉さんはアクセルを踏み込み、R35は時速200km/hを超える速度でストレートを駆け抜ける。
 最初のS字ヘアピンに突入した。減速のタイミングは一瞬。ヒール・アンド・トゥでブレーキを踏みつつ、ハンドルを切り込む。車体は斜めに滑りながらコーナーを抜け、ガードレールすれすれでドリフトが終わる。

「すごい……ガードレールとキス寸前だ!」

 思わず声が漏れた。智姉さんの走りを見ているだけで、心臓が張り裂けそうだった。

「これぐらい、まだ序章だ。本気を出すのはこれからだぞ。」

 言葉通り、智姉さんはさらにアクセルを踏み込み、R35は速度を上げる。
 第1ヘアピンを抜けると、道幅の広い右コーナーが現れる。ここではフットブレーキを使わず、アクセルワークだけで車体を滑らせる。ドリフトの終わりには直線が待ち受け、R35の600馬力がカタパルトのように加速を解き放つ。

「これが4WDの力か……!」

 直線を抜けると、左低速から始まる3連続ヘアピンが待ち構えていた。智姉さんは手足を華麗に動かし、シフトチェンジとブレーキングの絶妙なタイミングで車を操る。車体はガードレールすれすれを滑り、次々とヘアピンをクリアしていく。

「まだ技を温存しているんだな……」

 U字カーブに差し掛かると、再びドリフト。ガードレールとの距離は髪の毛一本分といったところだ。それでも智姉さんの動きには迷いがない。
 次の直線が現れ、その先にはS字ヘアピンが待っている。智姉さんはブレーキを使わず、逆ドリフトを連続で繰り出しながら軽快にコーナーを攻めていく。重い4WDの車体が嘘のように軽やかに、そして正確に動く。これが智姉さんの走りだ。

「すごい……!」

 2連続ヘアピンに突入する。右コーナーは低速で、ここはラリーのようなサイドブレーキドリフトで攻める。続く左コーナーでは、智姉さんがあの技を使うつもりだと感じる。

「見てくれ……ここは限界まで決めてやるぞ。危険な技だから、しっかり見ておけよ。」

「はい。」

 心臓が高鳴り、身体が震える。智姉さんがコーナーに差し掛かると、減速は一瞬で終わり、アクセルを踏み込んだままドリフトが始まった。そのまま曲がりながら、ハンドルをほとんど触れずにR35は難なくヘアピンを抜ける。

「すごい……智姉さん以外には真似できない走りだ!」

 あの走りに、おれはただただ驚くしかなかった。
 手足の震えが収まらず、体中が痺れる。

「実は私でも怖いと思うことがある。車をぶつけたらどうしようかって……」

 智姉さんも感じることがあるんだ。あんな危険な技、もし自分だったら恐ろしくて、命がけだろう。

「でも、次も行くぞ。この後、覚醒技も使うからな。」

 R35は第1高速セクションに突入し、600馬力の力を解き放ちながら加速する。

「次はS字連続ヘアピンだ。最初は通常のドリフトで行く。後半は“覚醒技”を見せてやる!」

 智姉さんはアクセルを緩め、ブレーキを軽く踏んだ。そして、サイドブレーキを引いて車体を滑らせる――ラリーカーのような操作だ。
 彼女の声が響いた瞬間、車体が再び加速する。智姉さんはブレーキもハンドルもほとんど触れず、アクセルとシフトだけでR35を操作した。

「なんだ、これ……!」

 車体がまるで風のように滑らかにS字を駆け抜ける。R35のボディが、まるでオーラを纏ったように光を放った――萌葱色の輝きだ。

「小山田疾風流、<フライ・ミー・ソー・ハイ>!」

 車がS字を抜けると同時に光が消えた。

「す、すごい……!こんなの、智姉さん以外にできる人はいません!」

「これが私の全力だ。でも、まだ終わりじゃない。赤城はこれからが勝負だぞ!」

 智姉さんは再びアクセルを踏み込み、赤城の道路を突き進む。速度、技術、そして緊張感のすべてが極限を迎えていた。

 赤城道路を駆け抜けたR35は、六荒の待つ「和食さいとう」に到着した。
 猛スピードで赤城を下り終え、クルマから降りる。

「着いたぞ」

「おれは帰ってきたよ、ワンエイティ」

 帰ってきたおれは、愛車に軽く手を触れながら挨拶をする。
 無機物であるクルマが返事をすることはないけれど、心の中で「よく帰った」と言ってくれている気がする。

 店で待っていた六荒が近づいてきた。

「おかえり。ドライブはどうだった?」

「楽しかったよ。特に、アクセルだけでコーナーを抜ける瞬間が最高だった。お前にはわかんないだろうけど」

 つい、六荒には上から目線で言ってしまう。
 あいつが嫌いなわけではないけれど、どうしても智姉さんとの関係が気になってしまうんだ。
 でも、智姉さんの走りは今でも心に残っていて、何度もあの瞬間を再現したいと思ってる。
いつか、あんな走りを自分でもできるようになりたい。

「そういえば、明日も赤城に行くんだな」

「うん、そうだな」

 でも、明日は智姉さんのクルマじゃなくて、おれのクルマで行くつもりだ。

「明日は勝負だ!」

「まぁ、練習だから手加減してやるけどな」

「でも、絶対に追いついてやる!」

 智姉さんは伝説の走り屋だ。どんなに手加減してくれても、おれの腕じゃ歯が立たないかもしれない。
 そのことはわかっているけれど、それでも挑戦したい気持ちが湧いてくる。
 その時、六荒がふっと顔を出した。

「俺も一緒に行っていいか?」

「もちろんだ。でも、オオサキのクルマの助手席に乗ってくれ」

 練習の時に六荒を呼ぶのは、少し考えものだ。
 せっかく智姉さんと二人きりの時間を過ごしたかったのに。
 でも、まぁいいだろう。
 おれの覚醒技で、あいつを失神させてやろうと思ってる。

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