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精神覚醒走女のオオサキ ACT.11「ヒルクライム対策」

 赤城山は夜9時になると、1台の白いZN6が第1高速セクションを走っている。

 そのクルマには2組の男女、つまりカップルが乗っていた。
 運転しているのは男で、助手席に座っているのは女だ。

「赤城山で今日のデート最後の目的地にしようね♥」

「帰ったらおいしいステーキが待ってるよ♥」

 その後ろに、白いZ33が来る。
 WHITE.U.F.Oの柳田だ。

「速い車が来てるよ!」

 女のほうはバックミラーを見てZ33を確認する。
 ZN6を猛スピードで追い抜く。

「あのZ33速いね。運転していないけど追いかけたくなった。あなた追いかけて!」

「え?」

 Z33が自分の車を追い抜く様子を見て、女は震えてきたようだ。
 女に言われて、男は嫌がりながらもスピードを飛ばしだす。
 しかし、直線ではZ33には敵わない。

「速すぎて追い付けない!」

 次は左ヘアピン、先頭を走るZ33が先に入った。
 ブレーキランプを光らせずに走っていく!

「どんな風に曲がってるんだよ!」

 柳田Z33がサイドブレーキのみのドリフトでコーナーを攻めていった。
 2人は驚く。

「速いよ、あのZ33!」

「どんどん離されていくよ」

 距離がさらに離されていき、カップルの眼からZ33が消えてしまった。

「雑魚じゃんよ。これが赤城の実力じゃんか?」

 相手に勝った柳田はカップルの実力の低さのあまり呆れているようだ。
 そのままZ33を走らせていく。


 夜11時の和食さいとう。

 リビングの小さい灯りの中にあるテーブルの椅子に座り、おれと智姉さんが会話していた。
 2人の衣装はパジャマの全身タイツ姿であり、前者は紫で、後者は白だ。

「話をしようか」

「はい」

 Z33型フェアレディZの話だ。

「柳田の愛車でもあるZ33は本来峠に向いていない車だ。車体の幅は狭い峠道に向かず、車重はノーマルのJZA80(1510kg)より軽いもののそれでも1450kgと重めだ。直線安定性重視な足回りなため走りにクセがある」

 これぐらい峠には不向きだ。
 峠に使うには上級者向けと言える。
 FRだが、ドリフト大会に参加しているZ33の数は少ない。

「Z33は不利なクルマということでしょうね」

「Z33は別に性能の悪い車ではない。国内のGT選手権では2クラスとも優勝経験があるし、峠には不向きと言っていたが国内ラリーにも参戦した。ドリフトには不向きだが、人によってはドリフトさせる走り屋もいる。腕さえあれば峠でも戦えるクルマだ」

「そうですか、柳田もドリフト派のZ33使いですからね」

 ちなみにD1最多チャンピオンと言われている今村陽一氏も、そのクルマでD1に参加していたこともあったらしい。
 
 次はパワーについて話した。

「あと3.5Lという大排気量ということもあってNAのなのにパワーとトルクがあるものの、柳田みたいにターボを着ける人もいる」

「ノーマルでも37kg・mもありますけど、ターボを着けると鬼に金棒ですね」

「けど、マイナーチェンジで下がってしまったが……」

 2005年のマイナーチェンジでパワーは280馬力から294馬力に上がったものの、トルクは37.0kg・mから35.0kg・mはダウンしている。

「さらなるマイナーチェンジで少しトルクは回復するけどな」

 しかし、2007年のマイナーチェンジでエンジンがそれまでのVQ35DEからVQ35VHRに変更されると同時にパワーは313馬力、トルクは36.5㎏・mに上がっている。

「さてと、明後日には赤城を走る予定がある」

「はい」

「明後日の練習では柳田戦での作戦を言うぞ」

 どんな作戦になるのか楽しみだなぁ。
 ワクワクするよ!

 そして2日が過ぎる。
 3月が終わって、4月に入った。

 4月2日の木曜日、柳田戦まであと2日。
 時間は午前6時30分。

 朝の山に2台のクルマが登ってくる。
 R35とワンエイティが走っているものの、今日も前者のほうが速かった。

「速すぎる!」

 何秒か遅れて、おれは麓の駐車場に入る。

「やっぱ智姉さんに勝てっこないや」

 クルマから降りると同時にそう呟いたら、智姉さんの説明が始まった。

「今度のバトルのことだが、タイヤのグリップを温存させる作戦にしたい。そのためにドリフトはするな」

「え?」

 やっぱタイヤ温存か……。

 ドリフト禁止だとォ⁉

 おれは唖然する。

「どうしてなんですか? ドリフトはおれの得意技ですよ!」

「ドリフトはタイヤのグリップ力をかなり使うぞ、さらにはタイムを稼ぐことはできない。グリップ走行で行け。それと前半、つまりサクラ・ゾーン突入までは覚醒技の技を使うな。前半で気力を温存し、後半で一気に使う。後半からは覚醒技の技を使ってもいいが、ドリフト技は禁止だ」

 色々制限の多いタイヤ温存作戦だけど、果たしてこれで戦えるのだろうか……。

 昼13時にオープンしたばかりの和食さいとう。

 おれと智姉さんの服装は仕事中なの制服を着ている。
 プラズマ3人娘がやってきた。

「いらっしゃいませ!」

「いらっしゃい、プラズマ3人衆。注文は何にするんだ」

「おらは牛丼でお願いします」

「くにちゃんはターボ焼きそば」

「うちは刺身でお願いや」

 注文を頼まれた智姉さんは料理を作る。
 数十分後、注文した料理がテーブルに置かれた。

 クマさんは智姉さんに話しかけた。
 おれの速さについてだ。

「智さん、なぜサギさんは速えのですか? わだすより2つ下なのに、16歳の走り屋で免許取って1年も立たない者ですよ」

 それについて、智姉さんは説明した。
 おれは13歳から走っていると。

「さ、サキさんって……13歳から走っているんですか!?」

「けど、最初は荒っぽい走りだったな。ワンエイティをガードレールに衝突させたり、時には怪我するほどや板金新車価格コース行きと言えるほどの修理費になるほどぶつけたぞ。よく「オオサキ、そっちはコースではなくガードレールだ!」と私は言っていたな。あと、私のR35でトレーニングさせたこともあった」

「へぇ~そうなんですか」

 最初はをれぐらい下手くそだったんだ。

「覚醒技の技の練習でも最初はこんな感じだったぞ 初心者向けの技でもまともに使えず、<コンパクト・メテオ>の「コ」の字や、覚醒技(テイク)の「覚」の字もでないほどだったな。しかし半年もしていくうちに上手くなり、使えるようになっただけでなく、小山田疾風流の技も使えるようになった」

 今では懐かしく感じる。

「他にも速い秘訣は私と一緒にバレエしてるからな。バレエは精神的にも体力的にもキツいスポーツだが、それが走りの腕と覚醒技の力を鍛えることができたからな」

「へぇ~バレエで鍛えてるんですか。自分はサーキットで練習したり、ゲーセンで心を落ち着かせたり走りのテクニックを考えたりしていますからね。サギさんともう1回勝負したくなりました」

 勝負したくなる気持ちを聞いたおれは提案する。
 
「なら、今すぐバトルしよう!ルールは覚醒技使用禁止、コースはヒルクライム1本だよ!」

「構ねぇべ!!
 今度は負けねー!」

 バトルをすることが決まった。
 2人は外に出てそれぞれのクルマに乗り、赤城道路ヒルクライムのスタート地点へ行く。

「熊久保、オオサキは覚醒技を使わなくても速いぞ」

 智姉さんはクマさんにアドバイスを伝える。

 そしてヒルクライムバトルが始まった。
 4分後にバトルは終わり、おれが勝利した。

 智姉さんの言うとおり、覚醒技を使わなくても速かった。

 時間は過ぎて夜7時。
 和食さいとうでプラズマ3人衆が話していた。

「本当に速かったべ、サキさん。
 なんでんだな(※意味:なんでそんな)に速えだんべい」

「さすが伝説の走り屋の弟子だよ、サキちゃん」

「育て方がよかったんやね」

「13歳から運転し、伝説の走り屋に鍛えられるとは……」

 おれの凄さを、3人は羨ましく思うのだった。

 翌朝6時。
 日は4月3日、柳田戦まであと明日へと迫った。

 赤城山頂上にある大沼の湖畔にておれのワンエイティが停まっていた。
 車内には運転席におれ、助手席に赤城ようかんを手に持った智姉さんが座っている。

 車内で2人は会話していた。

「お前がサクラに勝利したことは想像できなかったぞ。ごく普通な16歳の女の子が赤城で勝つとはな」

「いえいえ、智姉さんがおれの走りを鍛えてくれたおかげです」

 おれも、サクラに勝ってしまうとは想像できなかった。

「そうか?サクラ戦の後はドリフト甲子園上位の熊久保たちを倒した。 次は榛名ヒルクライム最速の柳田だ。サクラ戦前に比べるとお前は変わったな。あと、ようかん食べるか?」

 智姉さんの持っている赤城ようかんの口に入れる。

「けど、あーん。おいしいです。おれは変わったという実感はありませんよ!? サクラ戦以降でおれは変わったなって思ったことは……」

 サクラに勝ったなんてマグレだと感じている。
 本格的に走り屋デビューした初心者がいきなり強い走り屋を倒してしまうから。

 1人の観光する男がワンエイティに近づく。

「あの、すいません。赤城神社はどこですか」

 男は赤城神社に行くつもりであるものの、そこが分からない。
 2人に聞いてくる。
 
 男だと聞いて……。

「わ、ワンエイティの前にお、男が来る! ナンパされるかレイプされるよ! おれ、男が苦手だから智姉さんが話しかけてください!」
 
 おれはビビり始める。
 代わりに智姉さんが聞いた。

 智姉さんは赤城神社の場所を教える。

 聞いた後、教えてくれたことにお礼を言う。

「ありがとうございます。身体の小さくて赤い女の子、ビビらなくてもいいよ。ボクは変態じゃあないからね」

「うん……(ビビらなくても良かった)」

 道案内をすると、男は去っていった。

(智姉さん……変わったという実感はありませんと言いましたが、走りに対する気持ちは変わっています。次の柳田戦はすごいワクワクしています。走るのが前より楽しくなりました。サクラ戦よりワクワクしています)

 けど、そういう気持ちになりつつある。
 強敵を見ると心を震わせてしまう。

 夜8時、Maebasshiのレストラン。

 右には雨原、左にはサクラとウメの親子が座っている。

 今度のバトルはDUSTWAYは関係ないものの、メンバーを倒した走り屋のバトルということもあり、彼女たちは気になって仕方ないようだ。

「明日のバトルでオオサキちゃんは直列6気筒のRB26DETTを積んだワンエイティとVQ35DE改ツインターボのZ33が戦う。直列vsV型の6気筒対決になるな」

「オレのクルマも母さんのクルマもオオサキ同様に直列6気筒だ……」

「直列6気筒のV型6気筒の違いを話すわ」

 今回のバトル、2台のエンジンは「直列6気筒」と「V型6気筒」という違いがあるのだ。

「見た目的には直列6気筒こと直6は縦に1個ずつ、V型6気筒ことV6は縦に2個ずつ載せているのが特徴なのよ。直6はエンジンの回転が滑らかでなのが長所だけど、騒音対策・安全性・エンジン剛性・重心の低さ・ではすべて直6よりV6の方が有利よ。スペース的にもV6は有利でエンジンスペースの狭いFF車にも搭載されているよ。V6のほうが有利な言い方をしたけど、私は直6のほうが好きだけどね」

 直6は昔日本のメーカーも作っていたが、現在はBMWしか作っていない。
 ただし現在も音の良さからウメのように愛好家もいる。

「どちらもちょっとは知っているけど、ウメさんが言うとさらに分かるな」

「解説を聞いてくれて嬉しいよ……明日のことだけど私たちは関係ない人なのにワクワクするよ。今度はヒルクライムで柳田が走るけど――相手はあんたを倒した走り屋の大崎翔子という小娘よ。柳田が有利に見えるけど、私は勝つと思っているよ」

「なぜ、オオサキちゃんが勝つ?」

「――オオサキが勝ちそうな理由教えてくれ……」

 このことに2人は疑問に思った。

「柳田は……自滅するのよ……」

 果たしてウメの予言は当たるのだろうか?

 さらに時間は過ぎてバトル1時間前になった。
 赤城山和食さいとう。

 和食さいとう閉店と同時におれはワンエイティ、智姉さんはR35に乗って出発する。

「行くよ、ワンエイティ。
 榛名最速の柳田と480馬力のZなんか怖くないから」

 出発と同時にそんなことをワンエイティに言い聞かせる。
 ただし車は返事しなかった。

「おらたちも行きます!」

「くにちゃんも応援する!」

「うちもサキはんのバトルを間近で見たいんや!」

 和食さいとうにはプラズマ3人娘もいた。
 プラズマ3人娘も自分たちのクルマに乗り、おれと智姉さんを追ってバトルのスタート地点へ向かう。
 
 もうすぐバトルなのでギャラリーと走り屋たちがいっぱいいる。
 先週のサクラ戦より多いかもしれない。

 その中に白いクルマたちがいっぱいいる。
 WHITE.U.F.Oのクルマたちだ。

 柳田はZ33のボンネットに座り、おれを待っている。

「柳田、相手はサクラを倒した走り屋だ。油断するんじゃあないぞ」

「分かっているじゃん! あたしのノーフットブレーキ流の覚醒技とサイドブレーキのみのドリフトでぼこぼこにしてやるじゃん! 赤城でもこの走りでも勝つじゃんよ!」

 リーダーのDC5型インテグラType-R乗り、戸沢龍の姿もあった。
 柳田は自信満々で、おれを倒してやろうという気持ちがある。

 頂上、DUSTWAYのメンバーがギャラリーをしている。
 雨原、サクラ、ウメがいた。

「もうすぐだぜ、こっちもワクワクするぞ!」

「オオサキはまた勝つのか……こっちは勝敗の行方が気になる……」
 
 ウメが2人にある報告する。

「今ギャラリーから報告が来たらしいわ。大崎翔子たちのクルマが来たって」

 本当だった。
 スタート地点の奥からV型エンジンを混ぜた直列6気筒のサウンドたちの嵐と共にもう1人の主役がやってきた。

 おれのワンエイティ、智姉さんのR35、クマさんのC33、タカさんのHCR32、川さんのA31が赤城山のヒルクライムのスタート地点に降り立つ。

「待たせたよ、柳田マリア!」

「やっと来たじゃん!」

 主役の2人はバトルの会場で顔を合わせる。
 

 ――バトル開始直前のゴール地点。

 葛西親子と雨原芽来夜が何やら話していた。

「昨日の夜、「柳田は自滅する」と言ってたけど、意味は弱点で負けると言う意味なんだ」

「弱点とは……柳田の走りにはタイヤへ負担を掛けやすいってことよ」

「タイヤか……」

「柳田の使うサイドブレーキのみでのドリフトは強力だけど、普通のドリフトよりさらにタイヤへの負担を掛けやすいと思う。それだけでなく、柳田はコーナーでもアクセルを離さない走りも問題点よ。しかし、サイドブレーキだけのドリフトだけでは自滅しない、他にも本気を出し過ぎることも自滅する要因のひとつかもしれないわね……」

「母さんは柳田の弱点を語ったが、オレは最終コーナーで柳田はオオサキに負ける……タイヤを負担で自滅し、車の性能を落としながらな……」

 バトルの時間、11時になったスタート地点……。
 WHITE.U.F.Oのメンバーたちgz話す。

「柳田さんの480馬力のZ33が350馬力のワンエイティに負けることってありえないでしょ」

「ヒルクライムではパワーとトルクのあるほうが有利だよ。柳田さんは負けないっしょ」
 
 WHITE.U.F.Oのリーダーの戸沢はZ33の窓の先にいる柳田に話しかける。

「柳田、相手が16歳とか車のパワーが相手より上とかで油断するなよ。相手はサクラを倒した走り屋だからな」

「分かってるじゃん! 油断なんかしないぜ!」

 智姉さんもバトル直前のおれに話しかける。

「作戦のことは忘れず、実行するんだぞ。分かったか?」

「はい! 必ず作戦通りに戦います!」

 2台は駐車場を出てスタートラインに立つ。
 スターターは戸沢だ。

「カウント始めるぞッ!」

 戸沢の掛け声で2台の中に潜む猛獣が吠える!

 そしてオーラが輝く。
 走り屋としてのオーラと覚醒技のオーラが輝き、おれは光属性の白色と風属性の萌葱色、柳田は風属性の萌葱色と水属性の青色だ。

「5秒前! 4!  3! 2! 1! GO!」

 カウントが終わるとバトルが始まり、2台は一斉にスタートした。
 パワーのあるZ33はなぜか後ろを走る。

「始まったぞ!」

「先攻はあのワンエイティか!」
 
「サキさんが前だべ!」

「サキちゃんが前に出れたね!
 480馬力相手に先攻できている!」

「サギさんのほうが力不足やのに、前に出れたんやな」

 プラズマ3人娘はおれが先攻できたことに喜んでいる。

 おれにヒルクライムバトルで負けている3人はWHITE.U.F.Oのメンバーにあるアピールをする。

「どうも~ヒルクライムで今バトルしているワンエイティに負けたことのある走り屋3人娘です。わだすは430馬力のC33型ローレルに乗っていましたが、負けてしまっただァ~」

「くにちゃんは70kg・m超えのトルクを持つHCR32に乗っていたけど、上りで負けちゃったよ。ワンエイティ乗りは舐めたら怖いよ」

「うちも390馬力のクルマでバトルして負けたで~」

 ヒルクライムでおれに負けた人というアピールをした。
 しかし、それを見たWHITE.U.F.Oのメンバーは…….。

「あんた誰?」

「黙ってギャラリーしてよ」

 と知らんぷりする。
 アピールは失敗に終わった。

「無視されたべ」

「相手にされなかったよ」

 そんなアピール誰が聞くか!

 一方バトルの状況は……。
 まずはヒルクライム最初のコーナー、5連続ヘアピン。
 ここにおれのワンエイティと柳田のZ33が入る。

「来るぞ、来るぞ!」

 ギャラリーは柳田のZ33が来ることにワクワクしていた。

「今回のワンエイティは前と違って地味な走り方するなあ」

 おれのほうは作戦を守ってグリップ走行で抜け、柳田のほうは得意のサイドブレーキのみのドリフトで抜けた。

「すげェー! 迫力あるぜ!」

 サイドブレーキのみでのドリフトにギャラリーは喜ぶ!
 柳田はそのままコーナーを去っていく。
 おれと違って、派手なドリフト走行だ。

 グリップ走行のほうはタイム稼ぎに有効なため、柳田との距離を少しづつだけど離していく。

「やるじゃん!」
 
 次のコーナー、2つ目の右ヘアピンに入る。
 走りはさっきと変わりない。

 コーナーは3つ、4つ、5つも抜けて柳田のドリフト走行とおれのグリップ走行がぶつかりあい、無駄なくタイムを稼いでいる後者のほうが少し有利だ。

「速いじゃん! あたしをコーナーで引き離すことのできたのはお前が初めてじゃん! それだけでなく、パワーを必要とするヒルクライムで350馬力のお前のワンエイティがあたしの480馬力のZ33を離していくなんてすごいじゃん!」

 ただし次はパワーで不利な第3高速セクションだ。

 ここに入った柳田はグリップ走行で離された距離を一気に縮め、おれに近づくとそれをロックオンする。

「けど、ここまでは様子見だったじゃん! ここから追い抜くじゃん!」

 追い抜きの体制に入った柳田は萌葱色のオーラを纏いだす!

「<啄木鳥の突撃>!」

 オーラを纏った柳田はおれの後ろで左右交互に車線変更している。
 第3高速セクションが終わって右中速ヘアピンに入ると、反射で外側に追い込まれて内側から前に出すことを許してしまい、先攻を取った彼女にブロックされてしまった。

 同時に強制的にブレーキを踏み、減速してしまった。
 前のヒルクライムバトルにもこのような技を喰らったような。

「く! 前に出してしまったよ……」

「こちら第3高速ヘアピン終了地点! 柳田さんが前に出ました!」

 後攻に入ると、相手は480馬力だから後のバトルが苦しくなってしまう。
 けど、作戦のためにいきなり本気を出すことは許されない。

 だが、話はここまで。
 ごきげんよう、さようなら。

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