精神覚醒ノ肥後虎 ACT.11「相良玉子」
精神覚醒ノ肥後虎 ACT.11「相良玉子」
前回までのあらすじ
覚とひさ子の戦いは、前者の勝利に終わり、部長の席から1人離れることとなった。
最後のバトルが始まる。
序盤は虎美が先攻していたものの、中盤で抜かれてからは自身の運転の荒さもあって苦しい戦いを強いられてしまう。
そんな中で、1台の三菱·スタリオンが乱入してくる……。
「乱入してしまって申し訳ございません。あなたたちの腕をちょっと試してみたいだけですから」
「仕方がないわね。挑んでやるわ! スタリオン、私たちと勝負よ!」
「相手が増えたばい。ばってん、増えた相手との勝負も買ってもらうたい!」
虎美は勝負に入る前に、スタリオンのオーラを見る。
「オーラの色は水色と赤や。つまり、氷と炎属性ばい!」
スタリオンはバザードを発光させ、正式な乱入の合図を取った。
ここからのバトルは、3台で行われる。
「まずはスタリオンの様子を見ながら、走りましょうか。それが終わったら、抜きにかかるわ。知らない走り屋相手にいきなり攻めたらリスクが高いのだから」
S字を出た後の、やや右側に曲がった直線に入る。
虎美のエクリプスと私のSVXは、前を走るスタリオンに離されていく。
「パワーではこちらよりあっちの方が上って訳ね。なら、コーナーで勝負よ!」
直線を抜けて、グリップ走行で左U字ヘアピンへ入る。
「ホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワホワ、チャー!」
ヘアピンでの突っ込みでは、私はスタリオンとの距離を縮めていくものの……。
「中々の突っ込みですね。けど、簡単には行かせませんよ!」
立ち上がりに入ると、スタリオンが冷気が漂う水色のオーラを纏って加速していき……。
「<アイス·ボール!>」
発射される玉の如く、ヘアピンを脱出していく!
氷属性の初歩的な技だ。
「やるわね……」
スタリオンが技を使ったことにより、私たちとの差は広がる。
次にやって来る、突き当たりの右ヘアピン。
突っ込みでは勝てたものの、立ち上がりではまた離されてしまう。
「中々行かせてはくれないみたいね……」
こうなったら、ペースを上げるしかない!
私はピンク色の脚でSVXのアクセルペダルを思いっきり踏んでいく。
一方のうちは、スタリオンと飯田ちゃんのSVXを追いかけていた。
「飯田ちゃんも速かばってん、相手はさらにすごか」
うちの脳裏に、悪い予感が脳を攻撃するように過る。
「飯田ちゃんは負けるかもしれん……」
飯田ちゃんより相手の方が遥かに上かもしれんからそう考えてしまった。
「飯田ちゃんが負けたら、うちが代わりに挑もうか。結果が分かっとっても………」
右ヘアピンを抜けた後は長い直線が広がる。
ここではスタリオンに大きく引き離されていく。
左からのS字セクション、右からのS字セクションへと突入した。
「速いわね……ついていくだけでは無理だから……抜いてやるわ!」
そう悟った私は、追い抜きのチャンスのある低速コーナーを待つ。
クネクネした連続S字後の直線を抜けると……突き当りの左ヘアピンがやって来る。
チャンスがやってきた。
「いよいよ、覚醒技を使って追い抜くわ。追い抜いたら、ブロックしながら走るつもりよ。行くわ……山崎ノ槍柱流<どこでも曲線 (スニーキング・カーブ)> ! ホーワ、チャー!」
ヘッドライトを消し、消えるラインで攻めることで気配を無くしながら攻める技でスタリオンのリードを奪っていく。
「よし、技を再び使えるようになるまで待つわ。その時が来たらブロック技で先攻を守るわ」
そう確信すると……リードは一瞬で終わる。
直後にある右からのS字ヘアピンでの出来事だった。
「抜かれたら、すぐにリードを取り戻します。巨人の姫君流<ティターン·ハンマー>!」
大きく振られるハンマーの如く凄まじいドリフトをしながら、スタリオンはリードを取り返す!
<ティターン·ハンマー>で抜かれた私のSVXは加速が遅り、スタリオンの姿が小さくなるほど離されていく。
「中々の走りでした。しかし、私に及びません」
「速いわ……降参ね」
離された私は、スタリオンとの勝負を降りることにした。
バトルから降りた直後、後ろから虎美のエクリプスが追い付いてきて、私のSVXと並んでくる。
加速が落ちたから、近づかれた。
ちょっと、スタリオンと並ぶ私の敵なのよ!
飯田ちゃんのSVXと並ぶと、うちはエクリプスの右サイドウインドウを開けて話しかける。
「飯田ちゃん、仇はうちが取ったる!」
「仇って何よ!? 私はバトルであんたを味方だと思ってはいないわ! 部長の座は私のものよ!」
「飯田ちゃんの代わりにうちが挑むってことたい!」
「待って! その前に私と勝負よ……って、離すなあああああああああああああ!」
飯田ちゃんのSVXを置いていき、スタリオンを追いかけるためにアクセルを強く踏む!
右ヘアピンを抜けて直線に入ると、うちを待つかのようにスタリオンが停まっていた。
「お待ちしておりました、エクリプス。次はあなたの番です」
うちを発見するとスタリオンは走り出し、うちとのバトルが始まる。
飯田ちゃんとのバトルで見た通り、スタリオンは直線が速く、うちの眼から小さくなるほど引き離す。
直線が終わると、2つの右ヘアピンに突入する。
「まずはあのコーナーを待つか……右じゃあ、あん技は使えん」
待っていたコーナー、左ヘアピンがやってくる。
「飯田ちゃんの仇! <片鎌槍>!」
刃で切り刻むようにドリフトしながら、スタリオンに差を詰める。
「あなたもやりますね! けど、私に勝てるのでしょうか?」
左ヘアピンを抜けると、ここから左高速、左中速が次々に迫っていく。
後は直線、うちはエクリプスにある体制に取らせた。
「フェイントモーションばい!」
「ダメよ虎美!」
飯田ちゃんはうちを止めようとていたけど、聞こえない。
乱暴だけど、次は相手との属性の相性が良い技で仕留めたる!
この体制のまま、土のオーラを纏いながら次の右U字ヘアピンに突入していく。
「肥後虎ノ矛流<落ちてくる虎 (メテオ・タイガー)>!
虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎虎ー!」
車を振り上げながら、高い速度で攻める!
しかしハンドルさばきが荒かったのか、フロントバンパーの左側がガードレールに接触して速度を低下させてしまう。
エクリプスはピンボールの如く吹っ飛んでいき、今度は岩壁へ接触してしまう。
「くそお……!」
相次ぐ接触が原因で、スタリオンとの差は大きく離されてしまう。
「もう諦めましょう。<ゴリアテの槍>!」
うちを離したスタリオンは、大きな槍で突撃するかのような加速していくことで、さらに距離を作っていく。
差を縮めることは無く、敗北が確定してしまった。
飯田ちゃん、仇を取れんですまんたい。
わしはドローンから送られた映像を見とった。
それを見たわしの表情は凍りつく。
「虎ちゃんまで負けるとは……スタリオン恐ろしか……ひひいいいいい!」
わしはこれが怖くなり、ファミリアへ逃げようとした。
「うわ……!」
逃げる途中で転んでしまったけど、すぐに立ち上がってクルマの中へ逃げ込む。
ゴール地点。
うちと飯田ちゃんはクルマから降り、スタリオン乗りの女と顔を合わせた。
彼女はうちらの走りについて、こう語る。
「あなたたちの走りは素晴らしいものでした。しかし、あなたたちの腕は私には及びません。今の走りは実力の半分ぐらいしか出しておりません。あなたたちの腕では私に勝つことが出来ません」
うちはまだまだか……。
また初対面だったため、こんなことを尋ねてきた。
「あと、あなたたちのことを知りませんから名前だけでもいいから知りたいです。私は相良玉子と申します。京都から全国を回っていて、スプリントレースに参加するためにここへやって来ました」
「うちは加藤虎美で、麻生北高校の3年生です。飯田ちゃんと部長争いしておりました。同じく、スプリントレースに参加する予定です」
「こっちは飯田覚です」
「加藤さん、飯田さん。あなたたちが私と戦える腕になったら、私はまた戦うつもりでおります」
相良玉子という名の女性は、スタリオンと共に去っていく。
「スプリントレースにはこぎゃんに速かな奴が参加するんか」
「そうよ。この大会は相良玉子レベルの走り屋たちがたくさん走るわ」
「絶対負けられんな」
話を変え、今回のバトルで大事な物について話す。
相良玉子の乱入が原因でメチャクチャになったばってん
「あと、部長は誰になるんやろう……うちと飯田ちゃんのバトル、引き分けでよかかな……?」
「何言っているのよ。部長はあんたよ」
「そ、そうなん?」
「そうよ。あんたが先にゴールしたから、部長だわ。私は相良玉子が現れた後も、敵だと思って走っていたけど。ちなみに私は副部長をやるわ」
こうして、自動車部の役割が決まったのだった。
ゴール地点にひさちゃんと副部長のクルマたちがやってきて、クルマのドアからドライバーが降りる。
「ビビる森本を説得してやってきた……説得には骨を折ったが……」
「ひさちゃん、部長決まったで。
うちが部長になり、飯田ちゃんが副部長になったばい」
「なに? ほんまばい!?」
「ほんまほんま。今日からうちが部長ばい、よろしく」
「よろしく、あと、スタリオンに負けたばってん大丈夫!?」
ひさちゃんに相良玉子について話す。
「なるほど、スタリオン乗りは相良玉子って言うんか。実力の半分ぐらいしか出さんかったんか」
「スプリントレースで優勝する方法は、玉子さんに勝てるほどのテクニックを手に入れなあかんばい。今のレベルでは無理や」
今後、うちはこう誓った。
そして<落ちてくる虎>の障害になる荒い運転を直すことも。
2台の旧いクルマが停車している。
どちらもレースカー風にチューンされたクルマだ。
クルマの持ち主と思われる、麻生北の制服を着た少女2人が立つ。
セーラー服を着ているってことは、虎美たちと何かで関わるだろうか。
「北麻生の自動車部が部長争いしとったばいあと、少し前にはこの部活ってなかだったような」
「そうばい」
「この学校の部活に相応しかか、腕試ししてみたか」
「ルリ子、この案に賛成たい!」
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