精神覚醒走女のオオサキ ACT.16「破綻」
バトルはDC5が先行、ワンエイティが後攻でスタートした。
「よし! オオサキが後攻だ!」
作戦通りにスタートしたおれだけど、智姉さんの脳裏には不安があった……。
(オオサキの作戦、本当にうまく行くのだろうか……)
「ワンエイティが後攻だ!」
「戸沢さん、ヘッドライトを消すためにいつもなら後攻を取るのに……今回は先行か……」
先行する戸沢のDC5は前にはヘッドライト、下には緑のネオン管を点灯させて走っている。
やはり、ヘッドライトを消すのは後攻だけだったようだ。
「俺がヘッドライトを消さないように後攻を取ったか。俺にはこの作戦に対する対策はあるぜ。前が見えないと危険だからな。後攻だと相手のテールライトを見ながら走れるから安全だ」
スタートからの長い直線を終えてすぐ緩い左コーナーに入り、それを抜けるとダウンヒル最初の難所である右ヘアピンへ突入する。
ギャラリー中の葛西サクラの2人の妹がいる。
バトル中の2台がやってくる。
「来たぜ、ヒマワリ」
「ぐゥ……」
「ヒマワリ起きろ、2台が来ているよ」
「は!
寝ていたぜ」
「今、ワンエイティがリードしているよ」
最初の難所、右ヘアピンを先攻の戸沢はグリップ走行からのタックイン(旋回中にエンジンの出力を絞るとハンドルを切っている方向に急激に切れ込む現象)、後攻のおれは得意のドリフト走行で攻めていく。
「イィーネ! 2台の突っ込み!」
それを見た双子の姉は親指と人差し指を広げて顎に当てながら、2台の走りに対して震える一言を言う。
「バトルはボクの予想通りの展開になるだろう。もうすぐポジションが入れ替わりそうだ」
双子の妹は2台を見て分析をした。
道幅の広い左ヘアピンを抜けて直線に入る。
それを通ると2台は3連続ヘアピンに入った。
交互に来る3つのコーナーを抜けていく。
戸沢はグリップ走行、おれはドリフト走行で攻めた。
「柳田さんを倒したワンエイティは戸沢さんに着いているぞッ!」
「と言っても、戸沢さん……わざと遅く走っていないか?」
「よし! ついていけているよ! そのままついていくことが出来たら、5連続ヘアピンまで着いてこう! 覚醒技を使わず走っていくよ!」
ヘッドライトを消させないように最後まで戸沢を抜かないつもりだ。
しかし、そのプランは次で破綻することになる――。
3連続ヘアピンの後、右U字ヘアピンに突入した。
「よし、行かせるか!」
U字ヘアピンに入る戸沢はわざとクルマにアンダーを発生させて外側に流れていき、一方後ろのおれは内側に入って戸沢の前に出てしまった。
後攻を取るという作戦を立てていたけど、破綻に終わってしまった。
先行を取ったことは頂上にも報告される。
「ぐそ! サギさんめ、相手の技を封じるためにうっしゃろ(福島弁で「後ろ」)を取ると言っていたのに、相手の前に出るとは! チキショーめ!」
せっかく後攻を取ると言ってたのにもかかわらず、突然先行を取ってしまったおれをクマさんは許せないようだ。
「どうして前に出たんだよ!」
「なんで前に出たんや! 料理するわ(川畑の言葉で「畜生」)!」
「落ち着け、プラズマ3人娘。実はこれ、私は予感していたんだ」
「え?」
この言葉にプラズマ3人娘は驚く。
「前だとブラインドアタックが使えない。作戦上、後ろを走るオオサキを前に行かせるだろうって。無理な作戦だったと私はバトル開始時点で気付いた」
そう予感していたと智姉さんは語っている。
一方、戸沢側のWHITE.U.F,Oは、
「戸沢は後攻対策に相手をわざと前に行かせることを考えていたじゃん」
「オオサキ側の人間は前に出てしまったことで混乱していますよ」
戸沢はおれが後攻を取ることを想定していた。
なぜなら先行を走るとブラインドアタックを封印され、戸沢の本来の走りが出せなくなる。
だからわざと後攻を取ることを考えたのだった。
戸沢が後攻を取ったことは、最初の難所にいる双子の姉妹も話す。
「DC5が後攻になったぜェ、モミジ」
「ボクの予想通りになったね。戸沢がわざと後攻を取ることは……」
次はおれの覚醒技の話になる。
「さて、今後は今まで発動しなかった覚醒技が発動するな。あと、オオサキは再び後攻抜かれた後からさらに苦しい展開に立たされるだろう。ブラインドアタックから来る戸沢の精神攻撃力の高さは恐ろしいぞ。あいつの手にかかると痛い目見るからな。前に大崎翔子の仲間であるC33乗りは敗北した」
双子の妹は今後の展開を予想した。