精神覚醒ノ肥後虎 ACT.21「R.G.B」
あらすじ
2位となった虎美はトップを走る、ケンメリ乗りの生徒会長の菊池鯛乃とケンメリに遭遇する。
そのクルマのV8スーパーチャージャーとアテーサET-Sの加速力に苦戦を強いられた。
対策となる作戦を思いつき、<クリスタル・ブレイク>を使ってそれらを停止させることに成功する。
虎美が1位になったことで、自動車部の活動が認められ、新しい部室がプレゼントされた。
放課後の職員室……。
「この間の自動車部の活躍って凄かった!?
菊池生徒会長ば倒したと!」
「すごか~!」
教師たちの間でもこないだの出来事は話題になっていた。
しかし、話題に否定的な人がいる。
「自動車部か……ただの暴走族集団ばい……」
俺、小日向佐助だ。
「自動車部って走り屋の部活ばい。走り屋って犯罪者予備軍ばい。警察のお世話になる部活が出来たらどうするん?」
自動車部の感想はこれだ。
うちの生徒の中にいるとは皮肉だ。
しかし、ある事件を機に自動車部に対する考えが変わることばまだ知らない。
うち、加藤虎美は倒れたひさちゃんこと森本ひさ子ちゃんを追って飯田ちゃんこと飯田覚ちゃんと共にある家に訪れていた。
倒れたひさちゃんを助けたのは鎌切さんという夫婦だった
「うちの部員ば助けていただきだんだんです」
「いえいえ。こら、お礼を言っているからあんたも返事しなさいよ」
「分かっているよ、もう!」
「そういう態度がいけないんでしょ」
鎌切さん夫婦は突如喧嘩を始める。
人前でするとは、どうしたことやら……。
「すまないわね。私たち夫婦は喧嘩ばかりするのよ。喧嘩するのは、あなたが礼を言わないせいよ」
「何、人のせいするんだよ! ワシが悪いのか! そのせいでミドリが戻ってこないんだ!」
「戻ってこないのはあなたのせいよ!」
ミドリって誰!?
娘さんの名前!?
「娘さんっておるんですか!?」
「はい、震災の後からいなくなって……こんな時期に喧嘩をする両親が嫌だという理由で家出して……あなたが喧嘩を仕掛けるからでしょ!」
「いや、お前のせいだ!」
どうしよう、喧嘩が止まらない!
「夫婦喧嘩が止まらんのはゴルゴムの仕業か!?」
「ゴルゴムはここには存在しないわよ」
「これも全て、乾巧って奴の仕業なんだ」
「何だって、それは本当かい!?」
「夫婦の絆まで破壊された! おのれディケイドォォー!」
「そんなの言ったら訴えられるわよ!」
ファンに怒られそうやな……。
夫婦の機嫌を取るためにうちは考えた。
「よかこつ思い付きました。うち、娘さんば探しましょうか? 娘さんば探したら夫婦の絆はよくなるかもしれません」
「いいの、虎美!? 時間がかかりそうだわ!?」
「ありがとう。けど、私たちの喧嘩が嫌で中々帰らないわ。
あんたもお礼を言いなさい」
「ありがとうな、って……上から指示すっな!」
娘さんを探して見せます。
「捜索届って出してありますか?」
「出しているわ。けど、出しても何週間も帰ってこないの。この写真を受け取って」
娘のミドリさんが写った写真と緑のST205型セリカGT-FOURが写った写真が渡される。
この少女は緑色の長い髪、目は緑の瞳のつり目が特徴だ。
クルマはヴェイルサイド製のエアロを身に付けていた。
「娘はこのクルマに乗って爆走しているわ。免許を取れない14の頃から、私たち夫婦の喧嘩が原因だと言って、不良行為を行うようになったの。彼女を見つけたら、家に戻るように説得して」
「分かりもした。ミドリちゃんを見つけたら、必ず家に連れ戻して見せます」
「ありがとう。あなたは戻ってほしいと思っているの?」
「思っているよ!
大切な一人娘だから大事だよ!」
「本当に大事なの?」
「大事だよ!」
また喧嘩を始めた。
それを見て、ひさちゃんが耳を塞いどる。
夜20時、ひさちゃんの家である蛍食堂。
入ると、見慣れない男性客がいた。
長い緑髪を1本に纏め、袖の無い緑の和服を纏い、近づきづらいほど厳つい顔だ。
背中にはエレキギターを背負っていた。
名前の知らない相手に、うちは話しかける。
「初めまして……加藤虎美と申します」
「サラマンダー財団の財鬼斬鬼郎だ。他の被災地へ向かった代表たちの代わりにやってきた」
被災地は阿蘇(ひとつ)とは限らんもんなぁ……。
「飯田覚と申します」
「森本ひさ子と申します」
「こん子知りませんか? 探しとるんです。鎌切ミドリという女の子です」
「両親が困っています」
「心当たりあれば、教えてほしかです」
斬鬼郎さんにミドリちゃんの写真を見せる。
「その少女のことは知らないなァ」
「そうですか」
「だが、俺は人助けのサラマンダー財団の1人だ。協力してやるぞ」
「だんだんです」
こうして、協力者が1人加わった。
うちらはここで晩御飯を食べた。
午後10時……箱石峠往路のスタート地点。
闇の中で多くの走り屋に紛れながら、私はここに来た。
震災前ほどではないけど、徐々に走り屋の数は増えてきている。
どんどん復興が進んでいる証拠だ。
ここに来たのは目的は走ることではなかった。
「すみませーん! この子知りませんか! 鎌切ミドリという子でーす!」
私は走り屋やギャラリーたちに捜索を呼び掛けた。
だが、反応する人は1人もいない。
そんな中、ある男性が私に近づいてくる。
容姿から20代前半であり、髪型は肩まで伸びた髪をポニーテールに纏めている。
服は足首まで伸びる青いジャケットを羽織っていた
「あぁ!? そんなことに関わることがじゃねーぞ!」
いきなり悪態つかれる。
初対面なのに失礼じゃないの!?
「あんた誰なの!? 私はこの子を探しているんだけど!?」
「俺は青山氷河、RGBというチームの一員だ」
「私は飯田覚、麻生北高校の自動車部副部長よ。最初に言っておくわ、私はこの子を探しに来ただけよ」
ミドリを探しにき来た私に対して、青山は提案を持ちかけた。
「なら、俺とバトルだ。勝てたら、この娘の捜索に協力してやるよ」
「もちろんよ、受けるわ」
この子を探してくれるなら、断る理由はない。
「なら、スタート地点に立て」
往路のスタート地点に私のSVXと青山のクルマが並ぶ。
相手は青のGDB中期型インプレッサWRX STi、通称・涙目GDBと呼ばれるモデルだ。
イングスのエアロを装着し、リアにはGTウイングが立ち、他にも写真のST205と同じステッカーが貼ってあった。
こいつはミドリのことを知っているかもしれないし、勝てば有力な情報を貰えるかもしれない。
1人の男性ギャラリーが2台の前に立つ。
「カウントは俺がやるばい」
男性は両腕を上げ、数字を数え出す。
「カウント行くばーい!
5、4、3、2、1、GO!!」
男の指が全て折れると、2台はスタートする。
2つのボクサーサウンドが箱石峠に木霊した。