精神覚醒走女のオオサキ ACT.28「無効な能力」
ゴール近くにある駐車場にて。
観戦するギャラリーの中にDUSTWAYのリーダーで赤城最速の走り屋・雨原芽来夜と愛車・FD3Sがあり、その隣に小柄な少女が立つ。
彼女は紫のツインテールの髪に、「Speed葛西」のロゴが描かれたオレンジのツナギを着ている。
雨原に語っていた。
「ヒマワリが乗るSW20は、兄弟車で私も乗っているST205型セリカGT-FOURと比べるとパワーは10馬力落ちるけど、トルクはST205と同じ。車重は120kg軽いからST205と比べると加速がいいね。パワーが落ちているのは低速域にセッティングしているからだよね」
「そうかもしれないな、名衣」
少女のフルネームは明星名衣、ツナギのロゴの通りにSpeed葛西の従業員だ。
2人はSW20のことを語り合うと、次の話題は今のバトルの状況について話す。
「もしSW20が先行になると、高速コースとなる後半からヒマワリが有利になるかもしれないな、しかも彼女の能力は強力な物だと聞いた。それにはオオサキちゃんの能力でも勝てないかもしれない。しかしそれで逆転できなくても彼女には他に逆転できる要素がある」
「それはなんなの?」
「それはテクニックかもな」
「テクニックって?」
「モミジ戦で見せたテクニックの応用で逆転してくる可能性が高いぜ」
次に起きるバトルの展開をこう予想したのだった。
彼女の言葉はどう意味を表しているのか?
バトルは直線2つに挟まれた右U字ヘアピンに突入する。
「ここはそのまま通過しよう」
ヒマワリをかなり離していたため余裕があり、気力を温存するために先行のおれはここを技を使わずに抜けていく。
しかし有利なU字ヘアピン後はやや長い直線であり、ヒマワリはそこでおれとの差を縮めた。
「やっぱ直線では縮められない」
右ヘアピンとS字が迫ってくる。
ここから本格的な技が出現するのだ。
「イィーネ、お前の走り!
けどしばらくはあいつの後ろを着いて行っただけど、ここから本格的に攻めてやる!」
ヒマワリは技を発動させ、緑のオーラを纏う!
「行くぜ行くぜ行くぜー! <歌仙兼定>!」
鉄のようなオーラを纏い、刀で斬るようなコーナリングした。
おれのワンエイティのケツを煽る。
「毎日月火水木金土(エブリディ・サンデー・マンデー・チュースデー・ウェーズデイ・サーズデー・フライデー・サタデー)、ナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダ、ナンマイダ!」
「ううわああ! まるで刀で斬られた気分だ!」
「どうだ! その刀の切れ味は!」
この技の属性は鉄属性であり、おれの覚醒技には大きなダメージだ。
さらには技による加速向上も大きくなる。
「イィーネ! ここから逆襲と行こうかッ!」
その後の右ヘアピンを抜けてからの直線。
ヒマワリはここでも技を使い、黄色いオーラを纏う。
「狂気の虎龍流<ライク・ア・サンダー>! 毎日月火水木金土、ナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダァッ!」
オーラを纏ったSW20はさっきより加速しながら相手を煽り、そんな状態になったワンエイティの全性能とおれ腕は低下した。
それには次の右ヘアピンでのコーナリングに影響を与え、さっきより遅くなってしまった。
「く、腕が落ちた感じがする!」
この状況はとてもヤバい!
しかもこの後は相手に有利な第1高速セクションで、性能がダウンしたという状況を加えるとさらに不利だ。
SW20のロケットのようなトラクションがおれのワンエイティに襲い掛かっていく。
「相手の走りは分かった、相手の走りはコーナーでは速いけど直線ではオレより遅い! オレはコーナーではあいつに負けるけど直線では勝てるからな。あと、ここから多くなる後半はオレのほうが有利になるぜ、抜いてィやろう!」
そして第1高速セクションが終わって第2高速セクションを結ぶS字ヘアピンに入る。
前半の左ヘアピンにてヒマワリはSW20を直ドリさせながらおれを捕らえる。
さらに後半の右ヘアピン、おれのワンエイティを抜きにかかるッ!
「狂気の虎龍流<タイガー・アイ>!」
その技は相手に狙いを定めてしばらくの間は必ず成功させる。
おれをターゲットにすると、右コーナーで相手よりデッドにインを攻めながら鉄のようなオーラを纏う!
「プラス、狂気の龍虎流<フライング·ソーサー>! 毎日月火水木金土、ナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダ、ナンマイダ!」
<タイガー・アイ>には、すぐ別の技を使えるという特権を持っている。
おれより速く内側へ突っ込み、どんなにガードレールギリギリに攻めてもそれを奪われる!
「速い、インを防げない! ヒマワリのSW20は3姉妹で一番コーナーが苦手と言われているけど、それが突っ込みなのォ!」
右ヘアピンを抜けて第2高速セクションに入ると、<フライング·ソーサー>で突っ込むSW20はおれとワンエイティの前に出た。
スタート地点前の駐車場。
「現在第2高速セクションの入り口にて、SW20がワンエイティを抜いた!」
「そうか……」
バトルの状況が頂上のサクラに伝えられる!
「現在ヒマワリが先行に入った……!」
抜かれたことを聞いて、熊久保が騒ぎだした。
「チキショーめ、サキさんが抜かれた! ごれからどうなるんだべ、後半からほぼ直線だあ~! おらたちみてーに離されて負けてしまうのか!」
「そう騒がんといてクマはん、まだ負けたとは決まってへんから」
「そうだよクマさん、川さんの言う通りだよ!」
「安心しろ、抜かれたが負けたわけではないぞ。オオサキは自分のテクニックで逆転する可能性はありだぞ」(嫌な感じがする――けど、オオサキは何かそれを対処できる方法があるといいな――。)
ただし言葉とは裏腹に、智はそんなことが過った。
「おい、DUSTWAYの葛西ヒマワリ! おめーが勝ったら石を投げてやるぞォッ!」
「クマさん――それはやめてよ」
バトルに戻ろう。
先攻を取ったヒマワリは第2高速セクションをMR特有の加速力でおれを引き離していく。
バトルはジグザグゾーンへ突入した。
「追い抜いたあとはすぐ離してやるぜ、狂気の龍虎流<ライク·ア·サンダー>! 毎日月火水木金土、ナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイ、ダ!」
黄色のオーラを纏いながら超加速すると、おれの目から小さくなっていった。
「じゃあな大崎翔子、オレは先に行くぜ!」
ついにはおれの前から姿を消していった。
ヒマワリに後を置いていかれたおれは技の効果を受けてしまう!
「く、さらにコーナリングが遅くなった!」
ゼロカウンタードリフトのコーナリングでも遅くなってしまい、アウトに膨れたり、ガードレールに接触したりとミスを連発しながらジグザグゾーンを抜けていく。
それらもあり、見えないヒマワリとの距離はかなり広がる。
「結構離されたなあ――ここから逆転を掛けて<フライ·ミー·ソー·ハイ>で掛けるかァ……。または一か八かの作戦だけど、わざと相手の技を受けて精神力にダメージを受けてまで能力を発動させようかな――」
おれの頭にはモヤモヤができ、追い詰められていた。
次はナイフの形をした右ヘアピンに入り、ここからサクラ·ゾーンに突入する。
ヒマワリの姉・サクラ、妹・モミジを追い抜いた場所だ。
しかし今は離され、おれはヒマワリに追いつけるのだろうか。
しかもクルマの性能と腕が通常より悪くなっている。
そんな窮地を脱出するために予告を無視してまである技を使い、右ヘアピンを抜けていく。
「<歌舞伎の舞>、イケイケイケイケイケイケイケイケえー!」
光のオーラを纏ないながら、ゼロカウンタードリフトと直ドリを合わせたコーナリングで突っ込む!
この技には回復効果があって、下がった能力をそれで元に戻す!
次はS字直線へ入った。
「ここはヒマワリの姉・サクラとヒマワリの妹・モミジを倒したゾーンだよ。彼女も追い抜くために攻めてやるよ!」
そんな決意を胸に、右足でアクセルを強く踏み込ませてRB26の爆音を大きくさせると共にワンエイティを速く走らせていく。
「ヒマワリ、追い抜いてやるよッ!」
S字直線を抜けると左U字ヘアピンが迫ってくる。
ここは<フライ・ミー・ソー・ハイ>で抜けいき、その後の90度左ヘアピンでは技を使わなかったもののさっきと同じようにゼロカウンターで攻めていく。
それらを抜けると……SW20の赤いテールを捕らえた!
「糞(シット)、せっかくサヨナラしたのに追いついてきやがったぜ……けどオレは能力を使って勝てるような走り屋じゃねーよ!」
ミラーでワンエイティがいることをヒマワリは確認し、直線からの緩い高速左ヘアピンをおれはSW20をチェイスしながら駆け抜けていく!
緩い高速ヘアピンを抜けると2連続ヘアピンが来る。
その1つ目に当たる右U字ヘアピンに入った。
「また行くよ、ゼロカウンターだ! イケイケイケイケイケええええええええええええええええええええええ!!」
技を使わず、SW20に接近しようと襲い掛かっていく!
追い抜くつもりで攻める勢いだ
しかし、ヒマワリは草のようなオーラを纏いながら防御の体制に入った!
「行かさねー、狂気の虎龍流<カルフォルニア・ロール>!」
「毎日月火水木金土(エブリディ・サンデー・マンデー・チュースデー・ウェーズデイ・サーズデー・フライデー・サタデー)ッ! ナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイ、ダァ!」
速度はとてもゆっくりだが道路のセンターラインを走ることで、おれの追い抜きをブロックする!
技を使わなかったため、外側へ 弾き飛ばされた。
「うわ防がれた、けどまだ行くよ!」
まだ諦めていない。
短い直線を挟んでからの2つ目の左ヘアピン、ここでもまた攻める!
今度は別の技を使った。
「また攻めるよ、小山田疾風流<スケルトンアタック>!」
オレンジのオーラを纏ってから、ドリフトで発生させた白煙の中へ車を隠しながらヒマワリを狙う。
「絶対に行ける、この技なら消えて攻めることができるから絶対に追い抜くことができる! イケイケイケイケイケイケェー!」
絶対に追い抜けると確信した。
しかしコーナーを立ち上がるとヒマワリと並べたものの、白煙は消えていた。
その隙をヒマワリは突いて赤いオーラを纏い、おれに技をぶつける!
「行かせねーからな、<人間無骨>! 毎日月火水木金土、ナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダナンマイダ、ナンマイダああああああああああ!」
槍の如く、凄まじい加速でおれを引き離していった!
白煙を纏った追い抜きは失敗に終わり、これが初めてだ。
「うわああああああああああああああああああ! 失敗するとはどいうことなの?」
おれの覚醒技は炎属性にとても強いものの、かなりのダメージを受けると同時に眼から逃げていった。
す、すごい威力だった、まるで大火傷した気分だよ……。
「オレの、オレの、オレのSW20のグレードはGTだ! その名に掛けて負けられねーぜ、GT~♪ GT~♪ トヨタ・MR2 GT~♪ イィーネ!」
2連続ヘアピンが終わり、ここからは長い直線だ。
「GTの底力、見せていやるぜ!」
トラクションで優勢なSW20が立ち上がり加速でおれとワンエイティをさらに引き離していく。
「速い、サクラ・ゾーンでは追い抜けない!」
おれの眼からSW20小さくなる。
一方でおれはかなり精神力にダメージが来ているけど、“ある変化”は起きていない。
頂上。
「智さん――サギさんが「能力」を発動したという報告は来てねーですよ!」
「まさか――サキちゃん……」
「本当に――クマはん、くにみたいに相手の能力で性能の向上を封じられたんやな?」
戸沢戦、モミジ戦では報告が来ていたはずだったものの――。
「――実は――ヒマワリの能力が原因でオオサキは能力が使えないんだ」
「や、やっぱり!?」
「くにちゃんの能力が使えなかったのはそれのせいだね!」
「おらの能力も!」
「――そうだ……」
サクラとモミジが来る。
この2人は解説を始めた。
「ヒマワリの能力は相手の向上と自分の低下を無効にする……」
「この能力は下げることを無効にするから、熱ダレによる性能ダウンも無効にし、長期戦ではさらに強くなる。体力のあるヒマワリと相性が良い能力な」
「その通りだな。ヒマワリの能力はこんな効果を持っている」
「なるほど、そんなに恐ろしい能力だったとは――もう勝ち目はありませんよ」
「じゃあ、どうしたらいいの?」
プラズマ3人娘はオオサキの敗北を感じると、焦りだした。
しかし智にはこんな抜け口があると感じていた!
「勝つ方法はほんの少しぐらいだが、ある」
「なんなん? 相手の能力があれやと勝つ方法はあらへんで」
「ギャラリーから聞いたけどオオサキはヒマワリとの距離を縮めるためにゼロカウンタードリフトを使いまくっているらしい。それを発展させる技を使ってくるだろう――」
その技がオオサキに奇跡を起こすことになるのだろう。
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