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精神覚醒走女のオオサキ ACT.7「初めてのバトル」


 3月23日の午前6時30分。
 智姉さんと練習を行い、その前半を終えようとしているところだ。

 赤城山の資料館駐車場におれとワンエイティは入る。
 いつも通り、智姉さんのR35が先に駐車場に止まっていた。

「待ってたぞ、オオサキ」

「いやァ、智姉さんのほうが速すぎたからです。手加減しているのに速いですから」

「やれやれだな。
 手加減はいつものことだろ」

「ウェヒヒ。
 何度も言ってますけど……」

 やっぱ智姉さんの走りにはついて行けないや。

「これから10分間休憩しよう。した後はお前をある場所に連れて行こう」

「ある場所とは何でしょう?」

「それは……休憩の後のお楽しみだ」 

 どこだ?
 気になる。

 おれはワクワクしながら休憩した。

 10分後休憩が終わり、2台は再び道路へ飛び出す。
 第2高速セクション後のヘアピンに停車し、車から降りる。

「サクラ・ゾーンですか……!?」

「その区間について説明しよう」

 智姉さんが言ったある場所とは<サクラ・ゾーン>という場所だった。

「へぇ、葛西サクラが得意な区間ですか!」

「ここでサクラに勝てる走り屋は赤城最速の雨原しかいないほど、得意な区間らしい……」
 
 相手が得意なゾーンか――。
 ちょっと不安だな……。

「あと、対戦相手である葛西サクラのことを教えていないから次に彼女の説明しようか。赤城最速チーム・DUSTWAYのメンバー、リーダーの雨原に次ぐ走り屋だ。母親から運転のテクニックを教わっており、子供の頃にカートの経験がある。彼女の性格は冷静だが無口で、チームメンバーには彼女の表情を見たことのない人もいる」

「なるほど」

 赤城で2番目に速い走り屋か。
 おれはそんな相手と勝負するんだね。

「あと葛西サクラの母親は私のライバルだった。あいつの年齢は2倍以上離れているけどな」
 
 ちなみに智姉さんの年齢は不明だけど――こう見えて平成生まれだと聞いている。

 ライバルとの関係について話す。

「私が現役時代だった頃だ。茨城の走り屋だった頃に群馬へ行ったときには彼女とバトルを挑まれ、毎回苦しめられた。どれも勝利しているが……」

 ちなみに智姉さんが現役だった頃、サクラの母親は群馬最速の走り屋だった。
 昔の群馬はそんなバトルが毎回繰り広げられていたらしい。

「今度のバトル、智姉さんの妹分vs群馬最速の娘になるわけですか」

「そうなるな。けど、「智姉さんの妹分」って照れてしまうな……」

「ウェヒヒ……でも嬉しいですよ」

 智姉さん、おれはあなたをお姉さんと思っていますから。

 翌日の9時、3月24日の火曜日。
 家のリビングにて。

 ここのTVでおれと智姉さんはDVDを見ていた。サクラ・ゾーンでのサクラの走りだ。
 映像の彼女は敵の180SX(おれのクルマではない)と勝負している。

「速い! 相手を追い詰めています!」

 覚醒技の技の1つ、<ウィル・シー・ヘブン>を使って追い抜いていく!

 次の映像に変わり、今度はFC3Sが相手だ。
 サクラのJZA80は先行にいる。

 サクラは110km/hにスピードを落とし……。

「来た!」

「サクラの技、<サンズ・オブ・タイム>だ」

 ドリフト走行会で追い詰められたとき、おれの攻撃をブロックした<サンズ・オブ・タイム>をサクラは使った。
 後ろのFCをブロックする!

「サクラの<サンズ・オブ・タイム>が決まりましたッ!」

 次の瞬間、おれの目が鋭くなる!

(技の弱点が分かったよ)

 他のDVDも視聴し、技の弱点を見抜いていく。 

「オオサキ、このDVDを見たらサクラが速いということが分かるだろ。それだけでなく相手を知ることもできる」

「葛西サクラは改めて強いということが分かります。
 けど、技の弱点が分かりました!」
 
 果たしてサクラの技たちの弱点を突けるのだろうか?

 それが今回のバトルのヒントになるのだった。

 午後7時の和食さいとう。ここにサクラの母親がやってきた。
 お姫様のような黒髪に、20代と思わせる顔つきが特徴的な綺麗な女性だった。
 
「斎藤智、こんばんは」

「メニューは何にしようか――」

「明太子スパゲッティでお願いするわ」

 注文を聞くと智姉さんはメニューの調理にかかり、20分後に完成した。

「できたぞ」

「いただくわ」

 ウメは食べ始める。
 食べ物を喉に通すと、智姉さんに何か聞いてきた。

「斎藤智、現役時代は怒りやすいほどすぐ短気な性格だったけど、今は落ち着いた性格になったわよね」

「昔の話だ」

「私の知っている斎藤智はワンビアに乗っていた。あれは700馬力の1JZ-GTEを搭載して、C-WEST製のエアロとGT-ウイングで武装し、黄金のTE37を装着していたのを覚えている。群馬最速と言われた私のJZA70を倒すほど、若干10代でハイパワーなクルマを乗りこなす姿は想像できなかったわ」

「今は売ってしまったが、いいクルマだった……今乗っているR35も中々だ。ワンビアの運転は別に怖くなかったな。幼少期にフィンランドで車を運転したことあったから運転に自信あったんだ」
 
 この頃から智姉さんは凄い走り屋だと分かる。どうやって700馬力のクルマを運転できる技術を身に付けたんだろう?

 食事中だが、2人は話を続けていった。
 後にサクラの母親は食べ終える。

「ごちそうさま、私は帰るわ」

「じゃあな、葛西ウメ」

 サクラの母親ことウメは店を出て、エアロを付けていない黒いJZA70型スープラに乗る。 
 JZA70は610馬力にチューンされた1JZの爆音を流しながら和食さいとうを後にした。

 25日の水曜日、バトルまであと3日。

 午前10時、智姉さんの部屋にておれはスープラの本を読んでいた。
 この本はJZA70の情報も入っているものの、対戦相手の愛車であるJZA80の項目のみ読んでいる。

「えェ、JZA80はトルクは280馬力クラスではトップクラスだが、車重が重くてその性能を生かすことができない。さらにはFRなのにフロントヘビー、か……」

 部屋で本を読んでいるおれのところに、智姉さんが来る。

「オオサキ、本を読んでいるところをすまないのだが……」

「なんでしょう?」

「今夜、私と今度のバトルの練習をしようか。今日は仕事休みだからな。今度のバトルに協力したいと思う」

「しましょう!」
 協力してくれる智姉さんに誘われたからその選択肢以外はなかった。

「じゃあ今夜10時だな。<サクラ・ゾーン>の練習を中心にしよう」

 そして10時、予定通り練習を行っていた。
 休憩に入り、ふもとに着くとクルマから降りてバトルのことについて話をした。

「今度のバトルは先行を取られるかもしれない」

「どうしてですか?」

 予言をしてきた。

「あいつのクルマは大径シングルターボを搭載させていて、パワーだけでなくトルクは58kg・mと高い」

 確かに……。
 おれのワンエイティのスペックは350馬力、47kg・m。
 それと比べると負けている。

「問題はバトルの後半にある<サクラ・ゾーン>だな。ここではどう戦うんだ」

「火曜日、DVD見たときに技の弱点を見抜きました。それを突くんです!」

 戦略は決めている。
 話は続いた。

 3月27日の金曜日……。
 明日はいよいよバトルの日だ……。

 午前6時の赤城山でオレのJZA80と母さんのJZA70が下っていく……。

 先攻しているのはオレだ……。
 サクラ・ゾーン入った。
 S字直線、U字ヘアピンを抜けていく……。

 次……90度の曲線に入る前の直線でJZA70がJZA80の横にサイド・バイ・サイドで左に並ぶ……。
 曲線に入ると……。

「――葛西血玉流<ウィル・シー・ヘブン>……」

 を使って……並んできたJZA70をフォーメーションをそのままにブロックする。

 直線を抜けて2連続ヘアピンが来る……。
 またJZA70が追い抜きにかかった……。

「――葛西血玉流<サンズ・オブ・タイム>……ッ!」

 前のオレは速度を100km/hに落としてその技でブロックした……。
 後ろのJZA70はブロックされたことでかなりスピードを落とす……。

 ふもとに着いて走り終える……。
 車から降りて会話を始めた……。

「いよいよ……明日の夜ね……」

「――そうだな……」

 決戦は明日に近づいている。

「準備は出来てるの? 私はあんたと互角に走るために手加減したのよ」

「オレの作戦は完璧だ……サクラゾーンとオレの技であいつをやっつけてやろうか」

 これらでバトルに勝つと宣言した。
 勝てるかもしれないな……。

 3月28日、ついにバトル当日になった。
 
 そして夜9時……準備が始められている。
 DUSTWAYのクルマたちがスタート地点付近の暗い駐車場を色とりどりに染めていく。

「来たぞ! 雨原さんとサクラさんが来た!」

「元群馬最速の葛西ウメもいる!」

 サクラのほうは駐車場でJZA80のハンドルを回しながら、ホイールのようなドリフトの180度ターンを披露してギャラリーを沸かせる。

「すごいぞ! サクラさん! バトルに負けそうな雰囲気をしていません!」

 ターンを終えると、JZA80の前に母親のウメが来る。

「サクラ……コンディションはどう?」

「ドリフト走行会で食いつかれた前半より……勝負していない後半を重視している……それまでに先に行けば勝てる……」

 確かに後半以降の区間は彼女と走ったことはない。
 彼女が得意なサクラ・ゾーンがあるから、この場にいる人々はどんなバトルをするのか気になるだろう。

「サクラさ~ん! 頑張って!」

「応援に感謝する……」

 ギャラリーたちの黄色い声援に彼女は応じた。

「オオサキはまだか……?」

「来てないぜ」

 そういえば、おれは来ていない。
 サクラも雨原も、待っているようだ。

「もう1人の主役なのに来てないとはね……」

 一方、和食さいとう。
 雨原の言っていたもう1人の主役も出かけようとしていた。

「仕事が終わった。
 さぁ、バトルに行くぞ」

「行きましょう。もうすぐ時間ですから」

 仕事を終え、おれはワンエイティ、智姉さんはR35に乗り込む。
 ドライバーが乗り込んだ2台にエンジンが掛かる。

「バトルへ行こう、ワンエイティ」

 爆発のようなエンジン音を流しながら和食さいとうを出発する。

 状況をDUSTWAYのメンバーがトランシーバーで伝えてくる。

「こちら最終5連続ヘアピン! 2台のスポーツカーが来ています! 前のクルマは銀色、後ろのクルマは3色のカラーリングをしたクルマです」

「3色のクルマ、オオサキちゃんのワンエイティか。来たようだな。斎藤智のR35も来るようだぜ」
 
 おれが来ていることに雨原は喜びのコメントを残した。

 2台は第2高速セクションを通っていく。
 よそから来た走り屋2人組がギャラリーしていた。

「来たな」

「第2の主役が来たじゃん」

「伝説の走り屋・斎藤智も来ているな」

「強いじゃん……走り屋としてのオーラはすごいじゃん」

「もし、ワンエイティの少女が勝ったら俺たちも戦いたい相手だな。ドリフト走行会でサクラを追い詰めた走り屋だ。ただし見た感じは幼い女の子だが」
 
 2人はおれに強いオーラを感じているようだ。

 2台は第2高速セクションを抜けて、残りの道路を登っていく。
 ついにスタート地点から見えるほど、R35とワンエイティの姿が現れる。

「もう来たな……オレはスタートラインに立つか……こんなに楽しみなのは久しぶりだ……」

 バトルがしたくて、無口無表情で冷静なサクラとは思えないほどの興奮っぷりだ。
 
 スタートに到着した。
 R35のほうはスタートに着くとすぐ停車し、おれのワンエイティのほうはでUターンしてJZA80と隣に並ぶ。

「来たな……大崎翔子……」

「来たよ、葛西サクラ」

「すまないな――お前たちより遅れてやってきて」

「大崎翔子……オレはもう1回追い詰められるわけにいかないからな……免許を取って日が浅い16歳に負けたら恥だ……」

 このような事に2度とならないために、サクラは強い気持ちで行くつもりだ。
 闘争心を感じた。

「斎藤智」

「なんだ、ウメ」

 駐車場からウメが来る。

「今回はあなたの妹分と私の娘と勝負、どっちが素晴らしいか楽しみにしているわ」

「私も楽しみにしているぞ」

 間接的に智姉さんとウメの対決でもある。

「葛西ウメさんと斎藤智さんが並んだぞ!」

「この2人は昔赤城で激しいバトルを繰り広げたからな!」

「すべて斎藤智が勝利したけどな」

 斎藤智と葛西ウメ、
 かつて赤城で激しいバトルを繰り広げた2人の並ぶ姿にギャラリーたちは興奮している!

 1時間が経過し、もうすぐバトルが始まろうとする……。
 スターターは智姉さんが務め。

「葛西サクラのJZA80は結構速いぜ。ドライバーの腕もすごいけどな」

「サクラさんには<サンズ・オブ・タイム>という技を使うからな。技はある2人を除いて誰にもクリアできない技なんだ」

「ワンエイティは勝てそうじゃあないじゃん」

「覚醒技の属性はワンエイティが風と光で、サクラさんは闇だ。属性相性は両者相打ちなんだけどな……」

 ギャラリーたちはサクラの腕の良さからおれのことを勝てそうじゃあないと語る。
 けど、負けないよ!

 ちなみに属性の話をするけど、闇属性と光属性は相討ちだ。
 属性の相性が良いと与えられる精神ダメージが大きくなり、技の速度も上がる。
 
 あと水曜日に智姉さんは「JZA80が先行になる」と語っていた。
 ただし、これは覚醒技超人同士のバトルだ。
 性能の勝負ではない。

「道路の状態も良く邪魔なクルマはいないらしいわ」

 トランシーバーを持ったウメが智姉さんに状況を報告した。

「聞いたが、邪魔な車がクルマはなく、路面の状況もいいらしいぜ」

 雨原もバッチリだと報告した。

「よし、準備はいいな。この2台を出発させる」

 路面コンディションを聞いた智姉さんはスタートを急がせる。

 ついに、カウントを開始が始まった!
 バトルへの狼煙が始まろうとする!

「カウントを始めるぞ! 10秒前! 9! 8! 7! 6! 5! 4! 3! 2! 1! GO!」
 
 カウントが終わると2台はターボの爆音を流しながらスタートしていく。
 先行はサクラだ。
 智姉さんの予想通りだった。

 普通、JZA80型スープラは280馬力クラスとしては高いトルクの割には、車重のせいで加速が遅い。
 しかし、サクラのクルマは軽くなった車重と大径シングルタービンならではの高いトルクの力で頭に出たようだ。

「すげェー! サクラさんのJZA80!軽いし、トルクがあるからワンエイティを離していく!」

「ざまぁ見ろよ! ワンエイティが離されていくぞ! このままサクラさんは見えなくなるほど離していって!」

 サクラのJZA80が持つトルクは58kg・m。
 この高いトルクは最初の直線を有利に進めていく。

「オオサキちゃんのワンエイティのRB26とサクラのJZA80の2JZ大径シングルターボの加速対決は後者が勝利したようだな。うちのチームのためにもサクラは勝利してほしいよ」

 先行を取ったサクラを見て、雨原はメンバーの勝利を祈る。

「私の予想通りだったな……」

「さすが大径シングルターボ……それから得た高いトルクでワンエイティを引き離すほど直線を進ませているわね」

 おれの目からJZA80の姿が見えなくなる。 
 しかし――その離した距離は後で縮められていくことになる……。
 
 最初のヘアピン。
 サクラの妹、次女のヒマワリと三女のモミジがギャラリーしていた。

「来たぜ、オレのサクラ姉ちゃん! 速イィーネ!」

 ヒマワリがJZA80を眺めてこう呟いた。

 姉が乗る黒いJZA80が最初のヘアピンでドリフトを披露する。
 重いクルマとは思えないコーナリングの速さだ。
「ノーマルの10倍速い」と言われているだけ流石だ。

「さすがオレのサクラ姉ちゃんだぜ! 重いJZA80と思えないコーナリング性能、イィーネ!」

 ちなみに「イィーネッ!」はヒマワリの口癖だ。
 芸能人にもファンの多い某バンドのボーカルから影響を受けている。
 言うときは片手の指をVにして、それを顎に当てる。

「来たよ! 相手のワンエイティが!」

 モミジが言う。
 遅れておれのワンエイティが第1ヘアピン入ってくる。
 サクラより速いスピードで突っ込んできた。
 その時速、100km/h!

「速すぎるよ! 相手のワンエイティ! 糞(シット)!」

「ヒマワリ、ボクはあいつを油断できない相手だと思っているよ。ワンエイティ乗りはボクたちより年下なのにすごいぜ……」

 サクラより速い突っ込みを見せたおれのクルマを見て、2人の妹は絶句する。
 姉よりすごいドリフトを見せられたようだ。

 幅の広いヘアピンが来る。
 突っ込みでサクラとの距離をまた縮める。

 頂上。

「ただいま、ワンエイティがサクラさんとの距離を縮めていきます!」

「やっぱ、ついて来るか。
 バトルでも速いな……」

 バトルの状況がトランシーバーで雨原にも届けられる。

「やってくれるな、さすが私のオオサキだ。
 葛西サクラのJZA80の後ろをついて行くな」

「恐ろしい奴わね、大崎翔子。
 うちの娘に近くへ接近している……」

 智とウメは雨原のトランシーバーから聞こえてくるバトルの状況を聞いていた。p

 現在バトル中の2台は直線に入る。

 直線ではパワーのあるサクラのJZA80がおれのワンエイティを再び離していく。

「直線ではオレのほうが速い……。
 ただしここで勝負する主義ではないからな……」

 次は3連続ヘアピン。
 
 ここから覚醒技合戦が始まった。

 1つ目の右ヘアピン。

 おれはここをドリフトで走行し、再びサクラとの距離を縮める。

 2つ目も3つ目も抜、次は左側のU字ヘアピンに入る。
 2台はサイド・バイ・サイドに入っていた。

「今度は<フライ・ミー・ソー・ハイ>!
 イケイケイケイケイケイケェー!」

「――サイド・バイ・サイドはオレの得意技だ……葛西血玉流……<ウィル・シー・ヘブン>……」

 黄緑のオーラを纏いながら時速200km/hのドリフトを使っておれは攻める。
 対する先攻のサクラは黒いオーラを纏いながら、110km/hを超えるスピードでサイド・バイ・サイドで並びながら走行する。
 同時にサクラの<ウィル・シー・ヘブン>は<コンパクト・メテオ>を防ぐ。

「う!」

 サクラは前に行かさなかった。
 <ウィル・シー・ヘブン>にブロックされたことで精神ダメージを受けてしまう。
 しかもおれの覚醒技は闇属性の技が弱点だから、ダメージは大きい。

 U字ヘアピンの後の直線から2回のタコ踊りからのドリフト、フェイントモーションというアクションをしながらS字セクションをJZA80は攻めていく。

「――S字セクションではフェイントモーションからのドリフトで攻め込んでやる……」

 S字を抜けて、もう1コーナーに入った。
 先頭のJZA80は覚醒技を使わずコーナーを抜け、おれは<コンパクト・メテオ>を使って攻めていく。

「イケイケイケイケイケイケイケイケイケイケェー!」

 接触ギリギリまで接近した。
 
 ここまではドリフト走行会で走った所だ。

 今から上手く走れるのかな?

 第1高速セクションに突入し、直線なのでサクラに離されていく。
 だが、後の1つ目のコーナーでスピードを落とさないドリフトでサクラとの距離を追い上げていき、2つ目にて走行会で見せた技を使った。

「<フライミーソーハイ>! イケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケイケー!」

 萌葱色のオーラを纏い、時速300km/hを超える猛スピードでドリフトを行いながら、JZA80の後ろに襲い掛かった。

 対抗して、技を使ってきた。

「使うか……<サンズ・オブ・タイム>……」

 おれの攻撃を防いだ!

「命を捨てるかのように技を防ぐ技を使ってきたね!」

 直線に入り、JZA80はワンエイティとの距離を離していく。

 頂上。
 智姉さんとウメが話をしていた。

「メンバーのトランシーバーから聞いたけど、今第2高速セクションを走っているらしいよ」

「もうすぐだな……サクラ・ゾーン」


「サクラ・ゾーンではサクラが<サンズ・オブ・タイム>を使えば終わりね」

「けど、弱点は見抜いてある」

「弱点!?」

「そう、サクラの技の弱点だ。こないだDVDをオオサキに見せたら弱点を見抜いたと言った。技を見抜くことで勝つんじゃあないか?」

 いよいよバトルは後半に入る。

 第2高速セクションとその終わりに当たるジグザグゾーンを抜けてナイフ型のヘアピンに入る。
 サクラが先に入り、後を走るおれのほうは時速130km/hのドリフトで抜けていった。
 
 白い2人組が見ていた。

「JZA80が先行じゃん。このままじゃあサクラの勝ちに終わるじゃん」

 No.2の女はサクラが先行だと見て、このまま彼女の勝利に終わると考えた。

「いや待て、柳田。俺はまだワンエイティに勝機があると思うな」

「なんでじゃん?」

「ワンエイティは相手より速いスピードでコーナーに突っ込んでいく。サクラについて行くんじゃあないかな」

 コーナリングスピードの速さを武器に攻めていくだろう。

 今からサクラゾーンで注目の戦いが始まる!

「こちらS字直線後のヘアピン! すごいですよ! サクラさんが離すどころか相手に着いて行かれます! 相手はすごい強敵ですよ! しかも相手のほうがスピードは速いです!」

 トランシーバーを持ったDUSTWAYのメンバーがハッと息をのみながら伝える。

「サクラ・ゾーンでサクラさんがこんなに着いて行かれるなんて見たことないよ!」

「サクラ・ゾーンでサクラさんを攻略できたのは赤城最速と元群馬最速だけなのに!」

 90度のコーナー。
 サクラゾーンでもサクラが食いつかれる姿を見て、ギャラリーたちはめまいのような症状が襲ってくる!

「食いつかれてるな……けど……オレにはまだ勝利できるチャンスはかなりある……オレはここで雨原さんを除く走り屋を狩ってきた……このまま行けば……勝てる……」
 
 90度のコーナーを終えて直線を抜けると2連続ヘアピンに入る。

「この技で行かせない……<サンズオブタイム>……行かせない……行かせない……行かせない……行かせない……行かせない……行かせない……行かせない……行かせない……行かせない……」

 2連ヘアピンの1つ目、U字の右ヘアピン
 勝機が残っていたサクラは時速300km/hで幅を広げたドリフトで攻めていく。
 だが、これはおれの眼にお見通しだった。

「この技は見抜いているよ!」

 これは水曜日の夜の出来事だ。

 おれが智姉さんと会話していた時のこと。
 その弱点をおれは話していた。

「葛西サクラのサンズ・オブ・タイムの弱点は2つあります。
 1つ目はずっと減速しながらコーナーを攻めるため、回転数を上げながら攻めることができないんです」

「コーナーを出るときは回転数を下げながら攻めるより、回転数を上げながら攻めたほうが速いからな」

「そうなんです。その回転数を上げられずに攻めることができないんです」

 つまり、加速しながらコーナーを抜けることができないのだ。

「2つ目は内側から入ると外側には行けず、外側から入ると内側には行けないんです。簡単に言えばルート変更ができないので片方に隙が空いています。そこに入って攻めることをおれは決ました」

 DVDを見ていると、技を使った後のサクラの走りに精神のムラを感じたのはそのためだ。
 
 彼女に対抗しておれは<フライ・ミー・ソー・ハイ>使った。
 
 輝くオーラに纏ったおれは攻めに入る!

「まず、君の精神力を削ってやるよ! 行くよ、ワンエイティ! <フライミーソーハイ>! イケイケイケイケイケイケイケェー!!」
 
 ワンエイティが攻めに掛かる!
 2つが激突した後はサクラの精神力に負担がかかり、ふらつきながらコーナーを立ち上がる。
 精神力に大きくダメージを与えることが成功したのだった!

 高速区間を通って右U字ヘアピンへ突入する。
 サイド・バイ・サイドのまま入り、おれが内側で、外側にはJZA80が走る!
 実はおれの作戦であり、サクラを追い込むのが作戦だった。

 彼女は時速100km/hに速度を落としてから<サンズ・オブ・タイム>を使用した。

 それを狙っていた。

「アウトに追いつめてから、ここで追い抜く! 小山田疾風流<フライ・ミー・ソー・ハイ >! イケイケイケイケイケイケイケイケー!」

 素早いスピードはサクラの<サンズ・オブ・タイム>を突き破って、おれが前に出た!

「抜かれた……」

 情景は頂上にも伝えられる!

「抜かれました! サクラさんがサクラ・ゾーンの終盤にて」

「なに! 嘘だ! サクラをあそこで勝てたのはあたしとウメさんしかいねーのに! それをどうやって説明してくれ」

 トランシーバーで2連続ヘアピンにいるギャラリーと雨原が会話する。

「それはよく分かりませんが……サクラをアウトに追い込んで行きました……」

 サクラが所属するDUSTWAYのリーダー、それは雨原にはソワソワな気分にするほどだった。
 赤城最速と元群馬最速の2人にしかサクラを倒したことがないサクラ・ゾーンをおれはクリアしてきたのだ!

「やったのか! しかもサクラゾーンで抜くとはすごいじゃあないか、オオサキ!」

「やっぱ速いよ……大崎翔子。うちの娘をサクラゾーンで追い抜くなんて……」

 智姉さんのほうはサクラゾーンでおれがサクラを追い抜いたことを喜んだ。
 ウメのほうは息が苦しくなってしまった。

「うちの娘より速い走り屋っているって走りの世界って広いわ。まるで初めて斎藤智に負けた気分よ」

 と言い残し、ウメはJZA70に乗り込んで帰っていく。

 一方、第2高速セクション後にいる白い2人組

「噂ではサクラが抜かれたようじゃん」

 噂で聞いていた。

「俺はその理由を知っている」

「なんじゃん?」

「サクラの技には致命的な弱点があったことだ。彼女の<サンズ・オブ・タイム>はあいつの母親と雨原しか弱点を知らない技なんだ。しかし、ワンエイティに乗る奴はその弱点知っていたんだ。世の中には恐ろしい奴がいるんだな、面白くなったぜ」

「サクラの次にワンエイティと戦ってみたいじゃんよ! もしあたしが戦うときはヒルクライムで戦ってみたいじゃん!」

「けど、ヒルクライムならお前が有利すぎるけどな……」

「あいつと戦えばすごい面白そうじゃんよ! あたしのサイドブレーキドリフトで仕留めてやるじゃんッ!」

 後にこの2人とはおれが関わることになるのだ……。

 残りの距離を進み、おれとワンエイティはゴールに到着する。
 バトルを制したのだった!

「か、勝った!
 赤城とDUSTWAYで赤城最速に次ぐ2番目に速い女に……」

「負けた……しかも得意のサクラゾーンで……本当に先週見たのが正夢になった……」

 遅れてサクラもゴールする。

「速い奴だ……だが……オレはいつかリベンジしてやる……あいつが後でたくさん活躍してきたらここでもう1回勝負してやる……その時は強くなったオレの走りを見せてやる……オレとあいつが強くなったら……仕掛けてやるか……」

 負けたサクラはそんな誓いを掲げた。

 スタート地点。

「サクラさんのJZA80のほうが遅れてゴールしました! ワンエイティのほうが先にゴールしましたッ!」

 ゴール地点にいるメンバーからトランシーバーでサクラが負けたことを雨原に伝えられる。
 それを聞いた雨原は悔しげな顔になる。

「残念だ……サクラが負けてしまって……でも面白かったぜ! 改めて、オオサキちゃんという奴はあたしを本気にしそうな相手だな」

 悔しい表情しているものの、負けを認めている。

「どうするんだよ! 雨原さん! しばらくここで負けなかったうちのチームが負けちゃって! 空が明るくなればその噂は広まるよ!今までサクラさんに勝てるあなたとウメさんだけだったんだよ!」

「しばらくの間、あいつを標的にするぜ。勝つまでは」
 
 そう言い残した後、雨原は自分の車に乗って帰っていく。

 今日の出来事のせいで、DUSTWAYから冷ややかな目で見られるかもしれないね……。


「見事だ、オオサキ」

 同じくスタート地点にいる智姉さんはおれの勝利を祝福している。

 今回のバトルは、元群馬最速の娘で赤城で2番目に速い葛西サクラが、彗星のごとく現れた斎藤智の弟子であるおれこと大崎翔子に敗れたという恐ろしいニュースが流れた。
 今日を機に名は知られていく。

 バトルが終わって、おれと智姉さんは家に戻る。

「すごかったぞオオサキ。
 葛西サクラに勝つとはな……しかもサクラ・ゾーンで彼女を追い抜いたな」

「いやあ、おれはあそこは大変そうだと思いました。けど、技の弱点を分かったことで楽勝に戦えましたよ」

 今日のバトルを振り返った。
 不安だった。
 けど、勝ててよかったよ。

「良かった。DVDが役に立ったらしいな。ただし木曜日に返してしまったが」

 役に立ったからいいや。

「智姉さんとあそこで練習したことも役に立ちましたからね」

 伝説の始まった夜はこうして終わったのだった。
 
 話はここまで、今宵はここでフィニッシュにしよう。

 翌日の夜、3人の女がレストランにて何か話している。
 1人目はオレンジ色のセミロングの髪に、もみあげを結んでいる。
 2人目はえんじ色のポニーテールの髪型に、小柄な身体をしている。
 3人目は青色のツーサイドアップの髪型に、えんじ色の少女より大きくオレンジ色の少女より小さな身体だ。

「昨日の勝負見たべ? すごい勝負だっただ~! 赤城で雨原に次いで速い葛西サクラが負けたんだべ!」

 オレンジ色の女が東北と思われる訛った喋り方で話す。
 昨日のオオサキ対サクラのことを話していた。

「あれはくにちゃんもびっくりしたよ、熊久保さん! しかもサクラに勝ったワンエイティ乗りの走り屋は16歳の女の子らしいね。くにちゃんより年下だよ」

 えんじ色の少女、自分のことをくにちゃんと名乗る少女が話す。
 彼女のセリフから、オレンジ色の女は熊久保さんという名前だと明らかになる。

「葛西サクラを倒した16歳の少女か……あんな歳してすごいんやろうね」

 青色の少女が関西弁で話す。

「本当に速えのか!」

「本当に速いよ! ワンエイティ乗りの師匠は伝説と言われた斎藤智らしいからね」
 
 くにちゃんがそのことを話すと……。

「んだなに速いかどうか、確認したくなっただ!」

 熊久保を興奮させる。

「噂では朝の赤城山をたまに走っているらしいで。
 うちのイリュージョンで倒してやるで!」

「そうだね。
 くにちゃんも戦ってみたい!」

 くにちゃんと青色の少女も興奮してきたようだ。

「こい、ワンエイティ乗り! 去年の学生ドリフト選手権のチャンピオンのおらが腕を見せてやるだ! おらの覚醒技・超速舞流とでやっつけてやるべ! 明日赤城に乗り込むべ! 国産FRセダン、なめんなよ!」

 こうして、3人はオオサキを狙うことを決意したのだった。

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