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Zoomで集合!編集後記vol.1『母にはなれないかもしれない』若林理央(著)

「Zoomで集合!編集後記」は、本を出した感想や今もっと語りたいことをおしゃべりする場です。
2024年2月に刊行した『母にはなれないかもしれない』(↑上記リンクは本の詳細にとびます)の著者 若林理央さん、装丁・組版のデザインを担当したデザイナーの吉崎広明さん(ベルソグラフィック)、本書のインタビューに参加した鈴木麻理奈さん(フリーランスライター)、編集担当者の4人が本についての思いを持ち寄り、おしゃべりしました。
 
記事に入る前に、『母にはなれないかもしれない』(若林理央・著)の鈴木麻理奈さんの項目を簡単に抜粋して、鈴木さんの人物紹介とさせていただきます。

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 現在、鈴木麻理奈さんは34歳。今まで仕事で関わってきた様々な女性たちとの出会いによって、子どもを産まない人生と向き合うようになった。
 彼女は私と同じようにフルタイム勤務を経験したあと、専業でフリーライターをする人生を選んだ。
 地方在住のため、東京より案件が少ないので大変だと話すが、自治体から請け負った仕事もこなす彼女は、自分にとっていちばん重要なのはキャリアだと語る。
「結婚して出産して、子育てをする。20代の頃から、それよりも仕事をたくさんして稼ぎたいという気持ちが強かったですね。今は前よりももっとそう思っています。フリーランスだし、子どもができてキャリアが断絶したら、復帰できなくなるかもしれないですよね。それから、もうひとつ」
 彼女は言葉を選んで、ゆっくりと言った。
「私は、35歳をひとつのラインにしているんです。今は34歳。おそらく35歳までに出産することはないので、産まない人生を歩もうと考えています」
 

 
25歳の時、付き合っていた彼氏となにげなく会話をしていると、「結婚したら専業主婦になってほしいんだよね」と言われた。
 「プロポーズではなかったんですけど、彼との結婚生活を思い描くきっかけになりました。〝私のキャリアはどうなるんだろう。結婚することで途絶えたらいやだな〞と思ったのはその時です。そして、同時に気づきました。私は家庭生活を営んで家事や育児に専念するより、仕事をしている自分のほうが好きなんだって。最終的にその彼氏とは別れました」
 

 
「フェミニストかと言われると自信がないし、必要以上に女性が優遇されるべきだと訴えたいわけじゃないんです。ただ結婚や出産で一度キャリアが途絶えるのはほとんど女性ですよね。そこから復帰してまたキャリアを形成するのはむずかしい。私個人としては年齢で区切りたくないけど、35歳を超えると復職がむずかしくなるのは事実なのだと知りました」

 Zoomで集合!編集後記 vol.1

~以下、2024年夏ごろのZoomから起こしたおしゃべりです~

編集担当:今日は、取材対象の女性8人のうちフリーライターをされておられる鈴木麻理奈さんをお迎えして、お話をお伺いしていきたいと思います。

若林さん:まずインタビューを受けたときのお話をお聞きしたいです。お話を受けたときってどのような印象を持たれました?

麻理奈さん:普段、私はフリーのライターとして活動しているので、私自身が人の話を聞く立場としてお仕事をしているんですけれども、自分のことを話す機会はそもそもあまりないものなので、今まで自分が考えていたことを話して深掘りする機会をいただけて「私ってこういうふうに考えて今まで生きてきたんだな」っていうことを改めて振り返るいい機会になりました。

若林さん:実際にインタビューを受けてみて、気持ちが変わったり、言語化できたりした部分ってどのようなところでしょうか。

麻理奈さん:そうですね。やっぱり自分が生きていく中で、毎日選択の連続なのですが、その選択の根底にある部分―ちょっと埃かぶってたもの―を理央さんに埃を払ってもらったというか。少しむき出しにしてももらったということで、多分私はこういうことを軸にして生きてきたんだなというふうに思いました。

若林さん:麻理奈さんが35歳っていうのをキャリアや出産の軸にされてるっていうのが印象的でした。そういう女性って多いと思うんですね。産まない選択をしているいろいろなタイプの女性にインタビューする中で、麻理奈さんは等身大の女性に近いと思いました。こう思っている方多いだろうなと。麻理奈さん自身のお考えとしては、あれから変わらずですか。

麻理奈さん:そうですね。今のところは何も変わりません。

若林さん:麻理奈さんは35歳になったのですよね。

麻理奈さん:明後日35歳になります。

若林さん:おめでとうございます!じゃあその35歳っていうのを、出産を考えるラインにして生きているんですっていうふうにインタビューの中で言ってましたけど、じゃあその35歳迎えることで、ご自身のなかで思うことってあるんですかね。

編集担当:あまり変わらずって感じですか?

麻理奈さん:はい、特に何も変わりません。

編集担当:妊娠や出産に対する興味とかってどうですか?

麻理奈さん:はい、あります。もちろん家庭を持つことには興味があるし、これから先もし機会があったら、今こうやって決めていても絶対迷うだろうなっていうのも思っていて。ただ、迷ってその時どういう決断をするかっていうのは今の時点ではちょっと分からないですね。本のインタビューでも話したんですけど、自分一人で決められることじゃなかったり、他の人の人生にも影響することだと思うので、責任が伴うことだからこそ、これからもちゃんと考えて向き合いたいなって思っています。

若林さん:そうですよね。今は産まない気持ちでいるけれどもこれからはどうなるか分からないっていうような言葉は他の人のインタビューでも出ていて、私それで気づかされた部分がありました。「産まない選択」って言っちゃうと、そこに固まってしまって、その考えで一生生きていかないといけないんだみたいな印象を持たれる方もいるんだなと。だから、より言いにくさがあると感じるのでしょうね。

麻理奈さん:自分は産むのかっていうところにちょっと迷いはありつつも、多分どちらかというと産まない割合が大きいと思う「割合の問題」で、産まない選択をしているっていう風におっしゃってるのかな。一応、まだまだ産める年齢で、身体的な意味でのボーダーラインではないですけど、35歳っていう年齢はやっぱり大きいんじゃないかなって思っています。

若林さん:私が想定していなかった理由で「産まない」って決めてる人がこんなにいるんだって取材中に思いました。それは私のなかですごく大きな気づきです。理由が人それぞれ全然違うからこそ、私のコンセプトに共感してくださる方もいるのかなって。麻理奈さんも私も、「産める性」ですよね。男性は産めないじゃないですか。それって男性は産むことに身体のうえでもキャリアについても、大きなリスクを冒していないので、「得してる」とか、女性ばかりに負担があるように感じるってありますか?

麻理奈さん:私はすごく特別なことなんじゃないかなって思うんですね。
別の視点に立てば、経験する選択肢すら与えられていない男性側の方がやっぱりちょっともったいないんじゃないかなっていう風に思うことがあるんです。

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若林さん:キャリア形成での壁はどうでしょうか。

麻理奈さん:たくさん「壁」に感じることってあると思うんですけど、それってあくまでこの日本の社会の仕組みによって生まれてるものや、固定観念やジェンダーバイアスの押し付けの面が多いと思うんですよね。女性が不公平や損を感じているのは「社会のせい」だって思ってます。

若林さん:なるほど、不公平感って確かに社会的な障壁が原因であって「産む」=「損」いうわけじゃないですよね。
子どもを産むとなると、金銭とかキャリアとかパートナーとの関係に悩む年齢って今だと30代だと思うんですよね。35歳っていう年齢が迫ってきた時に、結婚とか出産を結びつけて行動を起こす女性がやっぱり多いのかなと。私が産婦人科で「妊娠できないかもしれない」と診断された7年前よりも医療は進化しています。この本で、佐々木ののかさんとも話したのですが、医療の発達はすごい良いことなんですけど、40を超えても不妊治療はできるし、早期閉経しても妊娠することはできるとなると、いつまでも出産できてしまって、それもそれで周囲から女性は期待されるようになってしまいました。

麻理奈さん:私の周りには、私に対して色々言ってくる人はあんまりもういないんですけど、やっぱり年齢を追うごとに、自分のライフステージが変わっていくごとにやっぱり付き合う人たちも変わってきたなって思ってて。
今私の周りにいるお友達っていうのは、結婚してても子どもがいないとか、結婚をしていないとか、あと男性だと年がすごい離れていたり、バリバリキャリアを積んできて結婚しなかった方とか様々ですが、全体的に20代から50代までみんな仕事を楽しんでる方が多いんですよね。なので、主婦になった高校時代の同級生と話が合わないわけではないのですが、一番大切にしてるものが違うっていうところで、多分価値観がちょっと変わってきた感じでしょうか。そうなると、だんだん付き合いがなくなっていってしまって寂しいなって思うこともあるんですけど。

つまり、周りの人たちが自分に似てる人が多くなってきて、空気感としてはそんなに私は苦しいとか否定されてるっていう風に思うことはありません。ただ、社会全体で見たときに理央さんがお話ししたような空気はあるかもしれない。私の周りは恵まれているだけで、他の人たちは周りにいろいろ言われて苦しい思いの人もいるかもしれないなって。

若林さん:私、MXテレビの「堀潤モーニングFLAG」に出る機会があって、私より若い男女のコメンテーター二人が地域性のことを話していました。地元に帰るとまだ結婚してないのとか東京よりも言われてしまうと。麻理奈さんはお住まいが東北ですが、地域性って感じますか。

麻理奈さん:自分の両親だったり、私の仕事で近くにいて私の生き方を理解してくれている身近な人たちは気にしてないのですが、親戚の集まりだったりとか普段なかなか会うことはないけど年に一回くらいの頻度で会う人たちってやっぱり無責任ですよね。いつ結婚するのとか言ってくるし、やっぱり気にしているんだなっていうのは感じます。
それはいわゆる地域性ではないんじゃないかなって私はちょっと思うんです。多分、おせっかいのような感じで、心配してくれているんでしょう。ただ、その心配が当人からしたら余計なお世話だったりとかするわけじゃないですか。そこまでは考慮して話してないんですよね。
60、70代の方は結婚して子どもをつくるのが当たり前だという価値観だから、そんなふうに言うのかもしれません。

吉崎さん:東京と名古屋で長く仕事をしてきましたが、こういう業界にいると周りは独身の方も多いのでそれほど気にすることはありませんでした。ただし地元で学生時代の友人や知り合いの方と話す時は、結婚のことや「子どもはいたほうがいいよ」など、私生活に関する話題になりますよね。でも女性が傷つくダメージの大きさに比べると男性は少ないのかもしれません。それは産める身体を持っているか、持っていないかという違いがとても大きいんだと思います。

編集担当:不育症がわかり不妊治療を経験したそうですが、そういう周りからの声についてパートナーと話したりしていたのですか。

吉崎さん:二人でいろいろ話すことはあっても、当時子どもがいないことや治療に関しては、地元から離れて暮らしていた部分もあって周りからはあまり言われてなかったかもしれないです。それでも妻は無言の圧は感じていたと思います。親も本当は心配や期待もいろいろあって相当気を揉んでたはずです。もしずっと地元に住んでいたらプレッシャーは常に感じていたでしょうね。

若林さん:約1年半前まで東京にいたので大阪の地方都市に帰ってくると、やっぱり同じくフリーランスで子どもがいなくてっていう友達と一番仲がいいですね。あとはすごく若いうちに子どもを産んで子育てが終わっている人とか。20代半ばで大阪にいた時は、かなり「結婚しないの」とか世間話でも聞かれることが多かったんですよね。
中高大と女子校で、会社員になっても雇用形態では同期が全員女子で。花嫁候補として入社するみたいに思われているような位置づけだったんです。やっぱりその時は結婚して子どもを産むのが女性として当たり前っていうようなそんな感覚があったので、東京ではそういうことを言う人が地元よりいないと気づいたとき、ちょっと驚いたんですよね。都内の方がいろんな生き方が当たり前なんだっていうところで地域性があるように思いました。でも、単に地域の問題ということではなくて雇用形態や経済的な安定があるかというところ、人と作り出す環境によって違いがあるのですね。
東京でも非正規雇用で今後のキャリアを望めないから早く結婚しようと決めたことなどもインタビュー対象者でいらっしゃいました。婚活が就活だと思ってやっていたと。そうじゃないと生きていけないから結婚するんだと。

編集担当:今までは都会とか地方の温度差っていうのを感じてきた世代がいたのだと思うのですが、ネット社会がすすむと今そこの差がだんだん無くなってきているように思います。

若林さん:麻理奈さん、今後フリーライターとしてのキャリアでこのような自分の経験を語ったり、書いたりすることを考えていますか?

麻理奈さん:あんまり考えてなかったんですけど、世の中に生きづらそうにしている人ってすごいたくさんいるじゃないですか。
そういう人たちにその生きづらさはあなただけのものじゃないよっていうことを伝えていけたらいいなって思っています。なので、そういう部分で私の思いや私が考える社会的な問題について文章で表現して届けられるんだったら、ちょっとやっていってもいいのかな。
以前、男女共同参画センターで働いた経験がありますが、女性だけではなくていろんな人の生き方と働き方に寄り添う場所だったので、皆さんが少しでも伸びやかに過ごせるような生きやすくなる社会になるような発信を自分のライフワークとしてできればいいと思います。

若林さん:ありがとうございます。私も書籍に登場した皆さま、そして発売後は読者の皆さまのご感想にも学びを得たり刺激をいただいたりしました。私もこれをスタートとして捉えて、女性の生き方を考えていきたいと思います。

▼「母にはなれないかもしれない 産まない女のシスターフッド」
若林理央
216頁/1,650円(税込)
「子どもを産まない」その一言が言いづらい
「なんで産まないの?」「次は子どもだね」「産んだらかわいいって思えるよ」「産んで一人前」
友だち、親、同僚、パートナー、SNSの言葉に戸惑い、傷つく女性たち。
女性たちの「産まない・産めない・産みたくない」を丁寧に聞きとったインタビューと著者自身の「産まない」を紐解くエッセイから見えてくる、日本の女性たちのリアル。