-花束みたいな恋をした-の感想をダラダラと、僕達はいつも叶わないものから愛してしまう。
皆さん"サカモト"って名前を聞いて誰を思い浮かべますか?龍一?慎太郎?勇人?それとも怒るとでっかい三角定規投げてくる算数の先生?
僕は断然"坂元裕二"さんです。テレビドラマの脚本家として日本で唯一無二の存在で、彼の作り出す言葉と会話に心を震わされ続けています。
映画とは意図的に距離を置いていた彼が完全オリジナル脚本を手掛けた-花束みたいな恋をした-が先日公開されました。
公開当日にこの映画を観てから、ずっと深い余韻に浸っています。1人で観に行ったので、観終わった後に友達とファミレスで感想戦して消化するはずの感情が行き場を失って迷子になっているのでここに書き留めておきます。
映画の中でアリカス(有村架純)演じる絹ちゃんが幸せな時間を過ごした後「今喋りかけないで、もっと余韻に浸っていたいの」的な台詞があるんだけど、この映画を観た後同じこと思ったので一人で観て良かったかもしれない。
簡単に内容を説明すると、終電を逃し、偶然に出会った21歳の麦(菅田将暉)と絹(アリカス)の2015年〜2020年の5年間を丁寧にリアルに綴ったラブストーリー。
SNSで拝見するレビューの多くが2人の恋愛に無邪気に熱中し共感して自身の経験と重ねた内容が多い。僕自身も麦と絹とほぼ同い年で、同時代性が強すぎるので、共感や羞恥を感じてエモくならざるおえないので、同時代性や共感にはなるべく触れずに話して行きたい。
この映画を語る上で大切なのは固有名詞マウントを取ることでも、共感からの自分のエピソードトークでもないと思う。
ついそうしたくなってしまうこの作りは、やはり坂元裕二の脚本力にある。
坂元さんはテレビドラマで登場人物の人物像を作り込むために脚本を実際使われる量の2倍書くと言われていて、登場自分の聴く音楽、好きな作家、映画など事細かに決めて、使う言葉などを構築して本来使われない会話を大量に作る。この丁寧な人物像の作り込みによって坂元裕二脚本の登場人物は本当に現実に生きているように嘘のない愛されるキャラクターになる。
今回の映画はさらに凄くて、絹ちゃんの人物像は1人の女性のインスタのストーリーを追いかけて作ったと本人が言っている。ネットスーキングによりできあがった人物像であり、嘘も矛盾もないリアルなキャラクターになってる。
だからこそ20代が共感してしまうのはあたりまえなんだが、ここで重要なのは坂元さんは自分が好きだから"無数のサブカル固有名詞"を作中で使っているのではなくて、キャラクターの人物像造形のために使っている。
「僕が好きなものを登場人物に背負わせたらその役に申し訳ないでしょ。」
とインタビューで語っていた。
これって作家としてめちゃくちゃ重要で大人な考え方で、作家がエゴで自分の好きなものを作品に忍ばせると作品の世界観が台無しになってしまうことがあると思う。
タランティーノみたいに内容がない映画の中だと、それはとても愛があって素晴らしいんだけど、この映画は2人の恋愛のお話だからそこに余計なものがあるとノイズになりかねないからね。
坂元さんの固有名詞の使い方はあくまでリアルな登場人物の会話の再現であり、そこに自分の好みが投影されていないことから、時代的な普遍性を纏い特別な作品への大きい味付けになってる。
この丁寧な人物造形によって僕ら観客は2人の恋の物語に無邪気に熱中し共感し泣いてしまう。
この映画の公開を機に坂元裕二脚本のドラマを沢山見返したんだけど、坂元さんの描く好きな人や大切な人の表現でおきまりのパターンがあって、
・最初に思い浮かぶ人
・一緒に歩いて楽しい人
・一緒にご飯を泣きながら食べた人
この3つの描き方が本当に素敵なんです!
今回の-花束みたいな恋をした-でもやっぱ歩きながらの会話がとっても良いし、2人が歩く映画なんですよね。
もともと坂元さんの作品のファンだった人達はこの映画を観ていつもと違う感覚があったと思います。坂元さんのドラマでは基本的に社会を生きていくことが不自由になる枷をつけたアウトサイダーを主軸に、困難や障害をフックとして物語が進んで行きます。しかし今回の映画では生い立ちなどのいわゆる面で普通の若者が主人公で、枷や障害をとっぱらっています。
ドラマと違って来週まで視聴者を持続させるためのフックが必要なく、ドラマチックな演出もなく、その分恋愛それ自体の面白さにフォーカスされていて良かったです。
坂元さんのシグネイチャーとしての敬語は実はドラマ-それでも、生きてゆく-を作る前にある人のライブ配信を見ていてその人の喋り方が面白かったから盗んだと発言されてます。
なので、-それでも、生きてゆく-以前以後で結構変わってるんです。しかもそれを演じたのが満島ひかりさんと瑛太さんなのでバチっとハマって坂元さんのシグネイチャーになったんでしょう。
僕もやっぱあの敬語のなんとも言えない掛け合いがたまらない!おすすめ有名作品を何個か紹介しときますね。
-花束みたいな恋をした-をまだ観てない人は是非観てから行って欲しい!
・それでも、生きてゆく(満島ひかりと大竹しのぶの名演に注目!)
・最高の離婚(ウディ・アレン映画のウディ・アレン的な瑛太が最高!僕は1番好き!)
・問題のあるレストラン(フェミニズとわちゃわちゃな女子の会話が最高)
・いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう(アリカスの方言がたまらん!)
・カルテット(豪華すぎる役者の布陣!坂元裕二ファンへのご褒美)
坂元さんのファンとして映画観に入ったんですが、出る時は有村架純さんの大ファンになって出てきました。アリカス(多分誰も使ってない略称)の魅力が凄すぎたなぁ〜。会話主体の映画だからこそ、たまにある間がアリカスの目の語りを生かしていてとても素晴らしかった!
カラオケからの散歩のシーンと信号待ちの時の「こう言うコミュニケーションは頻繁にとりたいほうです。」はモテ期の長澤まさみを超えたサブカル男子殺しだったな、、、
坂元さんの戦友として、満島ひかりさんや真木よう子さんがいるけどこの2人とはなんか全然違ってクセが無くてプレーンなんだけどめちゃくちゃ奥行きがある。不思議な目を持つ人だなぁ〜と思いました。クセがないからこそ今までこんなに凄い人だと気づけなかった。自分が悔し、、
なので公開1週間前は坂元さんのドラマ見返してたんですけど、観終わってからはひたすらアリカスが出てる作品を摂取してます。
アリカスってなんか言いたくなる響きなんだよなぁ〜。マツキヨみたいな感じ?
最後に自分の花束みたいな恋をしたの個人的な良かったところを少し上げると、舞台設定が多摩川沿のマンションってのが良かったなぁ。本物のサブカルって高円寺とか下北沢みたいなありがちなところには生息してないんだよなぁ。
後2人の間の共通言語のメインが作家なところ!ここが聞いてるラジオとかだとなんか一気に安っぽくなってしまう気がして怖かった。
自分が中央線住みでラジオを共通言語としてるからなのかはさておきね!
好きなシーンは2人で希望のかなたを映画館に観に行くところ。いかにも麦君が好きそうな映画だが社会人生活に疲れ、実写版ガスタンクを観ていた時の絹ちゃんのように眠たそうに観ている。終わった後も心のこもっていない「面白かったね」の一言。2つの映画を観るシーンの対象的な2人の視点とすれ違いの描き方がとっても良かった。(多分絹ちゃんは麦ちゃんが好きそうだからって理由でこの映画を選んでると思うし、麦ちゃんと生活してたかこそ、こういう実写版ガスタンク的映画を好きになったんじゃないかな〜)
今週は花束みたいな恋をしたからインスパイアしてプレイリスト作りました!ぜひ!
https://music.apple.com/jp/playlist/%E8%8A%B1%E6%9D%9F%E3%81%BF%E3%81%9F%E3%81%84%E3%81%AA%E6%81%8B%E3%82%92%E3%81%97%E3%81%9F/pl.u-NpXmmrWs42b0g7