摂氏40度のベガスを歩いてみたら...
残った有給休暇を消化すべく、6月の下旬に1週間の休みを取った。4月に一時帰国で日本に桜を見に行ったばかりなので、今回は家でゆっくり過ごそう……と思ったが、せっかくの休みだ。
どこかに行きたい。
そうだ!ラスベガスに行こう。
フライト時間もここハワイからなら5時間ちょっとだし。
過去2回の冬のベガス旅行ではダウンタウンでカジノ三昧だったので、今回はベガスからグランドキャニオン観光やショウにも是非行ってみたい。
もしかしたら、今度こそ間違ってカジノで大当たりするかも知れない。そうなったら、どうしよう。夢は膨らむ。
しかし、待てよ。時は6月下旬。
早速、ベガスの平均気温をググってみた。
え….? 華氐102度って何度だ?
摂氏で38.8度!! 降水量もまさかのゼロ月。
さすが砂漠だ!
以前、テレビで観たメキシコからの不法移民の番組を思い出した。アメリカンドリームを夢見て国境を徒歩で超え、アリゾナ辺りの砂漠で脱水でひっくり返ってる彼らの姿をなぜか自分にダブらせてしまった。
もしも、暑かったら冷房の効いたホテルで遊んでいればいいさ。
早速、前から観たかったマイケルのトリビュートショウ "ONE" を予約した。
これは数人の友人から絶対に行くように勧められていたので、とても楽しみだ。
500ドル台まで下がったエアチケットを買い、約10年ぶりのベガスに無事、着いた。
広いターミナルには色とりどりのスロットマシンがおかれ、両サイドには土産物やレストランがずらーっと並ぶ。
どこに行ってもあるスタバで喉を潤そうと入店した。オーダーを聞かれたのかと思ったら、まさかの「もう閉店」と言われ驚いた。早すぎだろう! 眠らないベガスなのに!
視線を外に移すと娘のKが私を見つけて手を振っていた。
ターミナルで待ち合わせていた、LAから飛んできた娘のKと合流できた。正月以来の熱いハグをかわし私たちはウーバー乗り場に急いだ。
駐車場に出た途端、ベガスの熱風を全身に感じた。
すさまじく暑い!!
もう日没を過ぎているのに、うだる猛暑だ。湿度が全くないので汗も出ない。
ウーバー待ちの人たちで、辺りはごった返していたが、駐車場に入ってくる車は決められたレーンを進み番号のふられたロットに駐車していく。
私はバッグに入っていたボトルをつかむと、ゴクゴクと生ぬるい水を飲んだ。
車を待つわずか10分の間に頭がボーッとしてきて、うすら気持ち悪くなってきた。
こうやって熱中症になるのか~なんて思った時に私たちの車はやってきた。
セーフ!
快適に冷えたウーバーの車内から、ストリップに立つライトアップされた数々のホテル群を見て
(わー! ベガスにとうとう来たんだー! )と実感した。
35階にアップグレードしてもらったホテルの部屋は最高のストリップビューで今、話題の球型巨大アリーナ、スフィアが目の前に見えた。LED照明が様々な模様を写し出していた。
手巻き寿司のディナーを摂った頃には気温もだいぶ下がり、私たちはお目当てのベラージオホテルの噴水ショウに向かって歩いた。
色々な名曲に合わせて噴水の水が華麗に踊るパフォーマンスショウで、時々、噴水が打ち上げ花火のように大音響で高く上がるので迫力満点だ。
数十分毎に何度もショウが観れるので、しばし撮影大会になる。
翌日は、お目当ての2つ目!
ベガスで一番豪華と言われるシーザーズパレスにある高級バフェ、バッカナルで早めのディナー。娘のKがネットで予約を取ってくれた。
カニやオイスターに加えロブスターも食べ放題。とろの寿司やキャビアののったサーモンムース、プライムリブ、その他デザートや多国籍メニューが勢揃い。
90分制限でたいらげいざ、マイケルのショウのあるマンダレーベイホテルへ、ウーバーで移動。
ストリップはホテルもショウもモールも集中しているので、ウーバーは頼めばすぐに来るし料金もさほどかからない。
ショウ会場に着くと、すでに沢山のお客がシルク・ドゥ・ソレイユのマイケルのダンスを楽しもうと待っていた。
ステージ前から6番目のやや右側の席が、比較的安く取れた。前方を取ったのはパフォーマーの表情が観れるのは勿論だが、スムースクリミナルの前傾姿勢をどうやってするのかを近くで観たかったから。
マイケル世代でない娘のKも興奮気味にポップコーンを頬張っている。
いよいよショウタイム!!! 始まりだ。
沢山のダンサーたちが、きらびやかな衣装でマイケルの歌にのせて踊ったり演技をしたりアクロバットを見せる。
バックスクリーンに写るマイケルを観ながら
昔行ったマイケルの東京ドームのコンサートを思い出した。
そして、(あぁ….本当にマイケルは、もういないんだなぁ……)と、しみじみ感じて目頭が熱くなった。
スムースクリミナルの曲になり、ダンサー全員が例の前傾姿勢になる時は客席から大きな歓声がわいた。
そして、その仕掛けは全く分からない程に完璧だった。
こうして、ベガスお目当て3つを達成できた。
グランドキャニオンツアーは連日の猛暑で諦めた。
なんと、6月に華氐107度の記録が出たとテレビのニュースキャスターが話していた。摂氏で41.6度だ。こんな時に岩山なんぞに出かけたら、熱中症は間違いなしだ。
次回のお目当てにとっておこう。
翌日、娘のKは一足先にベガスを発ち、私は1人になった。
どこに行っても禁煙のご時世に、喫煙OKのカジノで副流煙を吸いながら、私は無心でスロットマシンに興じた。
前回ベガスに来た時は、コインで遊んだが今は全てがデジタルだ。私が遊んだマシンは、100ドル分の数字が無くなる少し前にスロットの絵柄が揃い10~60ドル、多い時で160ドル当たった。スロットがヒットするとルーレットがまわり金額を示す仕組み。
勝った時点でやめればいいのだが、それが出来ない。
そして、あっという間の最終日、部屋の窓から見える隣のホテルに遊びに行ってみようと思った。
ストリップにあるホテルは、どれも大きくて美しい。正面玄関まで歩いたら10分以上はありそうだ。
この日も気温は40度あった。
誰一人、外を歩いている人はいない、とその時、数人が隣のホテルの裏を歩いているのが見えた。
裏から行けば、10分も歩かないですみそうだった。
(よし行こう!)
意を決して私は隣のホテルの裏口に向かって歩いて行った。
(あ、暑い。暑すぎる)
私は早歩きで大きな車道まで出た。息を吸うと熱い空気が鼻と口に入ってくる。
町は高温サウナだ。
何とか道路の向こう側にたどり着いて隣の敷地に入った。
そこで、わかったのだがそこは工事中の敷地になっていて隣のホテルとの境には、なんと工事用の仕切りの壁が出来ていた。
(そんなぁ….)
中ほどまで行けば、ホテルに通じる道があるかも知れないと思ったが……ない。
隣のホテルとの境は途切れること無く、全て壁で覆われていた。
頭がクラクラしてきた。砂漠の太陽は容赦なく私を照りつける。体じゅうが焦げ付く感じだ。
(水、みず〜)とバッグに手を入れた。
(ない!) バッグに入れたはずのボトルがなかった。部屋に忘れてきてしまったのだ、命の水を!!
少しパニクって落ち着けと深呼吸をしたら、今度は熱風が大量に肺に入り込んできた。
(ヤバイ、ヤバイ!干からびる~)
バッグに入っていた薄いカーディガンを出して私の頭と顔を覆った。
(こんな所で倒れるわけには行かない)
とにかく、この敷地をでなきゃと足早に進むがこれがなかなか広いのなんの。
ずんずん進むと向こうの木陰で、工事現場のおじさんたちが呑気に休憩しているのが見えた。
(こんな所に入ってきて何をしてるんだ)
と私を見てきっとそう思ってるんだろう。
(こんな暑い所で働けるあなたたちこそ何者だ?
身体の構造がベガス仕様になってるんだな、
ヘルメットまでかぶって )
てなことを考えて早歩きしてたら、やっと出口が見えた。
(もう少しだ、ガンバレ)
そして、さっき渡ったばかりの大きな車道をまた横切って、私のホテルにやっとでたどり着いた。
冷房の冷気が私の焦げ付いた身体の熱を吸い取っていく。
(生き返った!)
もう少しでメキシコの不法移民の二の舞になるところだった。
私は一体、何をしに行ったんだ。命の危険を感じる工事現場見学か。それは、ほんの十数分だけど、とっても長く感じたツアーだった。
そんなわけで隣のホテルにさえ辿りつけず、そそくさと水分補給をしに部屋に戻った。
こんな灼熱砂漠に夢のようなカジノの人工都市を作った人間も凄い。
カジノでは勝てなかったけど、最後は想像もしない展開になった分、強烈な忘れられないベガス旅になった。