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「珈琲いかがでしょう」愛と幸せとタコ。

 4月当初、私は怯えていた。
 何に怯えていたか。4月から始まる連続ドラマ強化期間である。

 2月1日、運命のいたずら(もうなんぼでもよく言っていく)で綾野剛という奇跡に邂逅を果たし、元々好きだった映画好きに加速がかかって、貰い事故を起こすかの如く(例えが最悪)中村倫也にも菅田将暉にも磯村勇斗にも首を突っ込む羽目になった。その結果、元から好きだった高良健吾、井浦新、長谷川博己、松坂桃李そして星野源という日本を代表する俳優たちの仕事を同時並行的に追っかける流れになり、想像の何割り増しかで忙しいドラマ充の日々を送る運びとなった。
 
 その中でも最も放映が早く、また最も最終回を早く迎えたのが「珈琲いかがでしょう」、中村倫也主演、磯村勇斗と夏帆がレギュラー・準レギュラー。欠かすわけにいかない布陣だった。

 寡聞にして知らなかったのだが、この原作漫画から実写化するなら絶対中村倫也と巷では噂されていたらしい。気になって原作買っちゃったけど、確かに! 特徴があって好みの分かれるタッチではあるが、めちゃくちゃ中村倫也ですね。もう倫也さんでしかないね。原作からしてもうそういう空気出てるし、ご本人が「僕じゃなかったら文句言ってたと思うんで僕でよかった」的なことを言っててすげ〜幸せなマリアージュじゃん??? と謎の納得をかましてしまった。
 まずは原作未読のまま6話まで毎週順当に鑑賞した。毎回ほっこりさせるエピソードがありつつ、2回目の段階で既に後ろ暗い過去の片鱗をのぞかせてるあたりが最高に良かった。何を隠そう中村倫也氏の個人的ファーストインプレッションは「孤狼の血」で下っ端の耳を食いちぎって広島弁(呉仕様)で恫喝していた倫也さんなので、ハイでぶっ飛んでて後ろ暗くてクレイジーな片鱗を感じるとめちゃくちゃ興奮するやんみんなもそうやろ。丁寧で物腰柔らかい珈琲屋のお兄さんが過去はヤンチャしててキレ散らかしてるとかオタクが大好きなやつだな??? なんかあまりにも狙われている気がしてイッタ…心臓いた…と思いながら見ちゃった。楽しかった。時々目がイってるんだよなあ倫也さん。わざとなんだろうな。わざとだろうな〜。何人殺したか覚えてない目、最高でした。

 ドラマ自体の作りがめちゃくちゃシッカリ原作を踏襲していて、唯一? 戸次珈琲(違う)と奥さんいない人の回は撮影の関係からか改変が加えられていたけど、他は概ね「その通り」だったので、6話で不穏な雲行きを感知した私が慌てて原作を購入して、その後の展開を頭に入れた状態でドラマを見ても、ぜんっぜん原作に見劣りしなくてすごくすごく良かった。
 んで、特に終盤2話なんですけど、ペイちゃんもがきねさんもめちゃくちゃ良かったですね磯村くんと夏帆さん。磯村くんはきの食べのジルベールで知ってヤ家の翼でそのギャップに???!ってなってたので今回は翼よりで可愛かったです可愛かった!!!(同世代) 夏帆さんの楚々としつつどっかネジの外れた雰囲気も可愛くて良かった。曇りなきまなこで淡々と「青山さんの珈琲」を崇拝するあたりの澄んだ狂い方が好きだ。何かをひたむきに好きな人が悪気なく併せ持つ狂い方がとっても良かった。
 
 こう、毎回ぐわーって泣かせる話ではないんだけど、ちょっとほろっとしちゃう、ほっこりする、んでコーヒー飲みたくなるネタが多くて、私はいつも月曜のリアタイが地域的に不可能だから火曜の朝にParaviで見てたんですけど、火曜の朝に珈琲飲みながら見るのに絶妙にちょうど良かった。
 最終回はめちゃくちゃ泣かされました。原作で予習してる時も泣いちゃったんだけど、粋でポップな生き様、誰かの幸せを願って選択できる姿、とてもいいなあと。眩しいなと。光石さんの演技も良かったんですよ。すごく大事に珈琲を淹れる所作、生き別れた最愛の妻との思い出を宝物にして、それを死ぬ前に若い奴に教えてやろうとする信念のようなもの、筋が通っていて魅力的でしたね。移動販売で回るっていう夢も、代わりに叶えて。誰もが選択の末に能動的に選び取って、誰もが納得する結果を手にできる大団円的なハッピーエンドがすごく良かったと思う次第です。

 反面、多分原作の発表媒体の関係でもあるんだろうけど、同性間のクソデカ感情が目立つ話でもありましたね。なんというか、「BLの心得のある人に伝わる記号をふんだんに散りばめた非BLの空気」というか。私はBLを特段愛好してはいないんですが(この辺話し出すとめちゃくちゃ長くなる上に上手いこと伝わる自信がないので割愛する)、青山さんと垣根さんは絶対くっつかないってわかるけど、アニキとぺいはワンチャン寝ててもおかしくないし、なんなら大本命はおそらく坊ちゃんだろうけど坊ちゃんとはまだ寝てないなみたいな、そういう絶妙な空気感を原作からは感じまして、それをなんだかすごく上手に映像化されたことに軽く感動しました。プロポーズのくだりもちゃんと言わせてたしな。でも二代目が内田朝陽兄さんだったので、やたらセクシーでこの青山は二代目とできててもおかしくないやつだ…と勘繰るなどしました(あくまで憶測。妄想ではない)。坊ちゃんの中傷が変な現実味を帯びてて笑う。
 こういう原作の空気感って演出するの難しいと思うんだけど、なんかテレ東のドラマってそういうの上手いよね。それこそ「きのう何食べた?」でもめちゃうまかった。こっちのドラマに関しては原作は商業媒体では男性間の恋愛描写に関しては完全に引き算してるんだけど、非商業媒体では結構小出しにしていて(ありがたい)、その雰囲気を最終回だけ纏わせたのがすっごいいい塩梅で良かったよな…と思ったりして。珈琲の方では原作を忠実に、あの微妙で不思議な関係を過不足なく再現したのすごいなって思いました。青山さんの感情はともかく青山さんへの感情は老若男女問わず結構クソデカで、それらをシュッと受け止めて「珈琲いかがですか」って微笑む倫也さんに集約させるの、半端なくうまかったと思います。倫也さんも上手いし、制作のバランス感もうまい。あからさまに女性向け内容にして釣ろうとするでもなく、変にマージナルな同性感情を排除するでもなく、綺麗に「原作通り」で雑味のない、美味しい、洗練された味わいでした。
 この実写化の例は成功例として長く後世に語り継がれることでしょう。うんうん。私が語り継いでいきたい。

 この感想書いてたらめちゃくちゃコーヒー飲みたくなってきました。
 そういえば珈琲の後枠は西島さんがシェフやってるドラマだ。明日の朝、また視聴したいと思います。

またよろしくどうぞ。では。

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