初めてのDATSUMOU
治療室に案内され、見るとベッドの上に紙切れのようなものがくるっと丸まってぺっと置いてある。
これをどうやら履く、らしい。
全ての衣服を脱ぎ、その、パンツと呼ぶにはあまりに薄く、頼りない、何かを履いた僕はベッドに横たわり、生きた心地をほんの少し失った。
上から申し訳程度にバスタオルを被せる女性。治療に関する説明をすらすらと述べた後、手際良く準備を進めていく。見事な仕事ぷりだが、ベッドに横たわる紙パンツ一丁の男を目の前にして工程を淡々とこなしていくことが、果たして人として自然な振る舞いでしょうか。
普通ビビるよ。おどおどするよ。
僕は思った。この人はもう僕を人間として扱っていない。違う他の動物、もしくは意思を持つ物体になったんだ僕は。
レーザーが目に悪いから、という理由でシリコン性の石みたいなのを両目に一つずつ載せられ、視界が遮断された。もう何も怖くないさ。どうせ今僕は人間らしさのかけらもないので。施術箇所であるわきと脚に剃り残しがないか確認し、ついにレーザー脱毛の治療に取り掛かる。まずは脇。ジェルを塗り、バチ、バチ、とレーザーを照射していく。
痛い!
思わず声を上げた。
恥ずかしさ、怖さ、その他の感情もどこかへ行った無機質な状態。何も感じず無のまま治療を終えるだろうと思っていたが、痛みは感じずにはいられなかった。自分が人間だったことを思い出した。
しかし脱毛。ここまでの痛みとは、、
レーザーは毛穴の一つ一つに容赦無く雷を落としていった。全身が硬直し、様々なバリエーションの「痛い」を連呼したが、女性は声のトーンを保って「痛いですよね」「あと一回です」などをローテーションでつぶやくだけで、レーザー照射の手を緩めることはなかった。あっという間に脇終了。
脚に移ると、女性はまるで木材をカンナで削るような滑らかな手つきで付け根から足首を行き来、照射を続けた。
脇程ではないが、場所によってはやはりバチボコに痛い。職人技としてテレビでカンナ削りを目にすることは多いが、木材の気持ちは考えたことなかった。こんな気分だったのか、、元々自然に根を張って生き生きと葉を生い茂らせていたんだろうに、それを人間のエゴで切られ、削られ、加工される。痛かったろう?辛かったろう?自然なものを自然のまま愛でることが、何故できない。人間よ。
ストップ森林伐採、ストップ環境破壊。
そんなことを考えているうちに、僕の脚の毛穴は一つ残らず破壊された。
自分の毛までも自然なまま放っておくことができなくなった人間が編み出した脱毛。加工して、自分の思い通りにしようという人間のこころがこんなところにまで目を向けてしまったなんて、もう呆れる。しかし自然に逆らうことの無謀さを痛みを伴って身をもって感じれる点においては良い手段かもしれない。あとすべすべの脚はやっぱり見ていて気持ちが良い。僕はなんだかんだ言いつつ、やっぱり人間でした。
脱毛は奥が深いなあ。
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