ゴッホの青い手紙 34
テオよ。フェルメールの真珠の耳飾りの少女知っているよね。最近は若いお上品なお嬢様やご婦人方に人気らしい。フェルメールの悪口でも言おうものなら反撃を食らう。なんだか面白い世の中さ。みんなフェルメールなんて忘れていたのにね。この絵を説明し始めるといろいろな言葉を連ねなければならないが、君がもし僕の天使からもらった三角柱のガラスを手に入れていて片目はそのガラス片目は裸眼で見てごらん。答えはすぐわかる。
あの真珠はよだれだ。
気味の悪い絵だ。人間は何となくそれを感じているにもかかわらず、ああでもない、こうでもないと理屈をつけて説明したがる。写真もそうだがね。写真を始めて観た人は現実の姿と違和感があったはずだ。だが慣れると受け入れる。と言うか写真の見方を覚えると言った方が良いかもしれない。始めて観た時の違和感の方が大切なのに、すっかり忘れてしまう。写真は真の姿など映していないのさ。フェルメールはある意味写真的な世界に嵌り込んだのかもしれない。底なし沼さ。多分面白くて抜け出せなかったかもしれない。だがルーベンスもこの反転、脳内合成を知っていた。フランス王太后マリー・ド・メディシスをその見方で見ると今度は涎ではなく、鼻水になるよ。ひどい鼻炎だったのかもしれないね。
フェルメールも知っていた可能性がある。例の三角柱のガラスを使っていたのかもしれない。僕と同じように天使からもらったのか、受け継いだものなのかは僕には分からない。多分ご婦人方にこの脳内画像見せたら、平手打ちを食いそうだ。黙っていた方が懸命のようだ。焼却頼む。