ゴッホの青い手紙 30-1
白い手紙で挨拶はしているので前略だ。今日は気楽な話を書こうと思う。
君は ティツイアーノの「聖母被昇天」を観たことがあるかい?
ヴェニスのサンタ・マリア・グロリオーサ・デイ・フラリ教会に入ると、真っ先に、この絵が目の中に飛びこんでくるんだ。
実に素晴らしい。
この名画は、完成した時には、注文したフランチェスコ修道会が受け取りを拒否しかけたらしいよ。カール大帝のオーストリア大使が、代わりにこの絵を買収しようとしたような話も聞いた。
最終的には、注文主のフランチェスコ修道会が絵を引き取ったらしい。だから現在もサンタ・マリア・グロリオーサ・デイ・フラリ教会の主祭壇画であるわけなんだがな。
聖母被昇天という伝説は、新約聖書には記載がないのだよ。聖人列伝「黄金伝説」に書かれている。これは、中世ヨーロッパにおいて、知識人と神学者たちに愛読されたようだよ。僕も読んでみたまえ。
聖母は一五歳でイエスを生んで、三十三年間イエスに付き添った後、四十八歳の時に我子が磔になった。
聖母はその後も二十四年間生きて七十二歳で亡くなった。その聖母が、天使によってもうすぐ天に召されることを知って世界中に宣教に行っている使徒たちが自分の臨終に立ち会ってくれるように天子に願い、その願いが聞き入れられたってことだ。
臨終のとき、聖母の魂は現れたイエスに抱かれて天に運ばれた。その後 使徒達はイエスの指示にしたがって、聖母の遺体をジョザファットの谷というところに運びこんで、そこで見つけた新しい棺に遺体を収めた。このジョザファットの谷というところは、イエスが磔になる前夜に最後の祈りをしたオリーブ山のあるところだ。
イエスが天使たちと共に降りてきて、使徒と三人の処女達の前に現れ、次に聖母の魂が現れて、その魂が棺を開けて、聖母の身体を大勢の天使たちが天国に運び上げたという伝説だ。つまり、聖母は魂も身体も天国に上げられたというカトリックの重要な教義なんだ。
プロテスタントには関係のない伝説だがね。カトリックは何でもかんでも聖人にしたがるからな。私はこの伝説がどうだとか言うつもりは全くない。ティツイアーノだってその伝説の絵を依頼されたから描いたわけだし、ティツイアーノがどんな宗教観を持っていたかなど分からないからね。絵の素晴らしさを今更書くつもりはない。父さんが生きていれば私が教会へ行っただけで大目玉さ。今日書きたいのは誰が見ても素晴らしい絵画を何故フランチェスコ修道会が受け取りを拒否したかだ。
僕はこう思う。集められた使徒だ。使途は十二人だ。さて、ここで、ユダをどう扱うかだ。ユダが裏切り者と言う扱いならばここには来ないだろう。だとすれば十一人だ。この絵の下方部の使徒の人数を数えてごらん。複製でもあれば見てくれ。九人だ。確実に人間だと言えるのは九人だ。
続く・・
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