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【つぶやき絵本書評】『まんげつのよるまでまちなさい』(ペンギン社)


きのうは満月、そして部分月食でしたね。

仕事帰りにお月さまを撮ってみたけど、
うーん…これはいわゆるスマホの限界。

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満月ってなんだかふしぎ。
わくわく気持ちが高揚するような、ほっと安心、穏やかな気持ちになるような。

なぜかしら毎月、満月を待ち遠しく思ってしまいます。
この絵本のあらいぐまのぼうやみたいに…

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『まんげつのよるまでまちなさい』
マーガレット・ワイズ・ブラウン 作
ガース・ウイリアムズ 絵
松岡享子 訳 
ペンギン社 1978年



あらいぐまのぼうやは、
"夜"を見たことがありません。
外に出たいとお願いしても、
おかあさんはいつも
「まんげつのよるまでまちなさい」
と返すばかり。
夜ってどのくらい暗いのか、お月さまはどのくらい大きいのか…。
知りたいことがいっぱいのぼうやは、
待って、待って、待って…  そしてついに…。




***




ぼうやの質問がとにかく素朴で、
等身大の子どもらしさにリアリティがあります。
夜って何? どのくらい暗いの? どんな色?
ふくろうに会いたいな。 お月さまを見たいな。


絵を見ると、
おかあさんはいつもなんらかの家事に追われて
とても忙しそうなのが分かります。

でも、仕事をしながらもきちんとぼうやの方に体を向けて返事をします。
だからぼうやも駄々をこねたりせずに、
おかあさんの言葉を聞いて、ずっと素直に待ち続けられたのかな。


おかあさんの答えがいつも同じなのは、
生返事でもはぐらかしているのでもなくて、
ほんとうにその言葉の通りだったから。

満月の夜まで待って、
じぶんの目で答えを確かめること。

なぜなら、
待っている間におのずとぼうやは
心身ともに成長し

ついに来たるそのときには、
答えをじぶんで理解でき、
新たな社会に飛び出す準備が整っているのだから。

"ときが満ちる"とはまさにこのこと。
そう、月が満ちるのと一緒に。


外では新月が半月になり、満月になる。
うちの中では、ぼうやが男の子になる。
2つの"とき"が並走しているんですね

訳者の松岡享子さんによるあとがきでも、
内なるときと外のとき」というすてきな言葉で解説してくださっています。


詞の分量はやや多いけれど、
くりかえしのリズムが心地よく、会話のテンポも巧みです。

絵は、余白を多くとった
セピア調の単色のカットが中心。
あらいぐまの親子の関わり合いを、そばで見守っているかのようです。


そして、
クライマックスでは満を持して、
見開き片面全体にわたるカラーページを用い、
満月の夜の情景を表しています。

友人たちと遊ぶいきいきとしたぼうやの姿、
満月を喜ぶ動物たちの祝宴的なイメージとともに、
ぼうやの成熟をみんなで喜び合いたくなるような
印象的な場面です。
…そしてなによりも、なんておおきな満月!


ワイズ・ブラウンといえば、
『おやすみなさい おつきさま』(評論社) が有名ですが、
この絵本もまた "月" を象徴的に描いた、
もうひとつの名作ではないでしょうか。




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