小説|scent
透明な手紙の香り。
少しひび割れている。何か美しい絵が画かれているのであろうが、それがどんな絵なのかもわからないくらい焦げたような茶色と、カビが重なりボコボコした灰色のかさぶたのようなものがこびり着いている大きな鉢に、濁った水と変色した草の中に小さな黒い魚が泳いでいる。
通り過ぎると、どんなに爽やかに晴れた日も、音や色や匂いを全て流れ落としそうな大雨の日も、何とも表現することができない異臭がして、頭が痛くなり鼻にねっとりと張り付く。
何年この臭いを嗅ぎたくもないのに鼻に張り付かせながら歩いてきたのだろう。
いつまでここを歩き続けなくてはいけないのだろう。
肩から背中にかけて錆びた鉄が混ざったコンクリートがべったりと重苦しく乗っかり腰が曲がる。
靴の底を擦り減らしながら歩くので、足の裏がヒリヒリと熱を帯びて皮が捲れる。
歩き続けなくてはいけない。
夜明けにチリンと音がした。
目を向けると一匹の真っ白い猫がこちらを見ている。
チリン チリン チリン
ここはどこだろう?霧が濃くて景色がぼやけている。目を凝らすと、霧の中に猫の尻尾だけが辛うじて見える。どのくらいの時間、猫の後ろについて歩いていたのか。
猫が立ち止まる。目の前の霧に横長で透き通ったものが浮き上がる。
そこには字が見えた。
「あなたはもう歩かなくていいのよ。わたしを探さなくていい。いつもあなたの側にいる。ずっと愛してる。」
その透き通った手紙からあの人の甘い優しい香りがした。
了
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photo junmiha
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この小説は、小牧幸助さんの企画
#シロクマ文芸部
参加作品です。
早朝3時に仕事から帰宅し、久しぶりに開いたnoteでパッと目に入ったあるnoterさんの企画参加作品を拝読して感動しました。
諸事情あり、noteお休み中ですが、夕方急に頭にお話がモクモク浮かんできて参加したくなりました。
20時から下書きし始め、ギリギリ間に合いました。
小説になっているのかな?と、小説初心者の私はまた思いながらも、楽しかったです!
小牧幸助さん、素敵な企画に参加させていただきありがとうございます!
お読みくださったみなさま、ありがとうございます。
そして、前々回の #シロクマ文芸部 参加作品
「小説 | 命を思う日」
を読んでくださったみなさま、ありがとうございます。
とても嬉しいです。