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「陶芸家になるには」ースタイル編ー 6 <守>
3.独学
まず、独学は前回までに述べてきた2つの選択肢(教育機関・就労)とは独立しています。
前提として、ここでは独学一本という選択肢についてみていきます。
(教育機関+就労はあり得ますが、教育機関+独学や、就労+独学は普通のことなので…)
独学で成り上がり、陶芸家として活躍している方々はいます。
技術的なノウハウなら、いくらでもインターネットで見つけられる時代です。独学でも設備にアクセスできれば、問題なく制作できます。
ただ、この知識や技術の面でいうと…
"知らない" 技術にアクセスしづらい
同じ目標を持つ仲間との会話がない
など、偶発的に得られる情報が少なくなります。
また、自分のスタイルが固まっていない場合は、外の環境とのつながりによる、相対的な内省性を深めることが難しくなります。
つまり、マーケット内での自分のポジションと、方向性がわからなくなってしまうのです。
- コンバージェンス
では、「独学で活躍している方々」は何が違うかというと、他の経験を持っています。
ビジネスで成功していたり、現代美術ですでに活躍していたり等、自身の強みやスタイルを持ったうえで、土という素材を用いて表現しているのです。
そして、この方々が活躍しやすい土壌が陶芸業界や日本の工芸、アート市場にはあります。
少し説明します…
資本主義というルールのなかで、市場が何を求めているかというと、新しく、レアなものです。
ご存じの通り、日本や世界の陶芸は、恐ろしく長い歴史を持っています。これは、作品をつくり始めるとわかるのですが、思いついたアイデアのほとんどは、先人たちがすべてやりつくしています。
この擦り尽くされた素材で、どう新しくレアなものを作るか。
それが、陶芸家として独立するための必要条件です。
とても大変な道のりに聞こえますね…。私も、何度も途方に暮れました。
ですが、これが難しいのは、100%陶芸漬けで学んできた人においてです。
だんだん見えてきたと思うのですが、独学で活躍している方々は、
特技 + 陶芸
ができるのです。
これをコンバージェンスといいます。様々な業界で革新がおこるとき、多くの場合このコンバージェンスが起きています。
これが独学で陶芸家になるために一番重要なポイントです。
では、それぞれの比較要素を見ていきましょう
技術・知識
何かわからないことがあれば、すぐにネットで調べますよね。私も陶芸の技術についてでも、分からなければネットで調べます。
初めて土の「菊練り」を学んだのは、先生からではなく、youtubeでした。
ろくろも本を買って学びました。
このように、知識や技術については、いくらでも参照できます。
しかし、独学をするうえで注意しなければいけないのが、教育機関や就労とは違い、100% 能動的にインプットする必要があることです。
カリキュラムに沿ったり、職場でのルーティンの中から発見したりするプロセスは、身につく成果がある程度保障されています。
しかし独学では、自分で習得の道のりを設計することまで、必要となります。
知らないことを、知ることができない
当たり前ですが、独学は一人で学ぶことです。
自身の内省性や、技術を深めることはできますが、外環境からの影響は受けづらくなります。
アウトプットはすべてインプットしたもので出来ているので、必然的に偶発的なインプットを得にくくなり、意外性のないアウトプットになってしまいます。
つまり、「知らないこと」を「知る」ことができなくなってしまうのです。
例えば、教育機関ならば、他の生徒が作っているものを0から見ることができますし、考えもしなかった方法を目撃できる機会もあります。
これが一人だと、求めたものしか探しに行かなくなるのです。
続けるモチベーション
上の問題点を受けて、では、オンラインのチュートリアルをレッスン形式で1からやる方法はどうなのか。
カリキュラム形式になっていても、やはり外環境からの刺激は少なくなります。
またこのプログラムを続けていくモチベーションも大切になってきます。
スタイルや作りたいものが確定しているなら、何が知りたいか分かります。しかし、確定していないと、チュートリアルを一からこなしていくという、つらい作業になりかねません。
(このモチベーションの問題は、陶芸家として制作を継続するうえでも必要になってきます。第三章ランニング編で紹介します)
陶芸教室やカルチャースクール
その他、選択肢としては陶芸教室やカルチャースクールなどがあります。
(これは教育機関のようですが、趣味としての側面が大きいのと、単発的でカリキュラム化していない場合が多いのでこちらのカテゴリに入れました。)
結論から言うと、使い方次第で有効ですが、頼りすぎると上達が遅くなります。
メリット:技術や業界に対しての知識を持っている先生がいること
デメリット:先生や生徒のモチベーション
これを少し見ていきましょう。
技術や業界に対しての知識を持っている先生がいること
何度か述べましたが、メンターの存在は大きいです。実際に自身の技術や作品を見てもらい、結果を分析、修正してくれるよう頼めば、スムーズに上達できると思います。
先生や生徒のモチベーション
アメリカの起業家、ジムローンの言葉にこのようなものがあります。
“You are the average of the five people you spend the most time with.”
これは、近しい人5人の平均があなた、という意味なのですが、とても的を得ていると思います。
ゴリゴリの上昇志向に囲まれるか、ゆったりまったりの制作環境かで、自身の上達具合やスタイルがかなり変わってきます。
ヨーロッパや日本でも、時代の変革を担ったアーティストは、様々な分野の人々とつながりがありました。美術は弁証法的に発展してきたとも言えます。
脳は一つより二つの方がいいですからね。
このように、教室や講座の生徒の質も、上達にはとても重要になってきます。
また、先生のモチベーションも同じです。
受講料が発生してしまうため、どうしてもお客様への対応となりがちです。
しっかりと踏み込んだ質問や、制作に真剣な姿勢を伝えましょう。
マーケット感
これも、能動的に学ぶ以外にありません。
トライ&エラーを繰り返し、制作の効率化や、業界に慣れていくことが王道のルートかと思います。
可能なら、陶芸家の友人をイベント等でつくり、情報を共有することも重要です。
内省性
一人きりで籠った制作。
内省性を深める上では、これ以上の環境はありません。
しかし、スタイルを育てるとなると、遠回りになる可能性があります。
分かりやすく言うと
業界・マーケットに出ていくためには、スタイルを深める必要がある。
↓
深めるためには、ベースとなるスタイルが必要。
↓
ベースとなるスタイルを育てるには、客観的視点が必要。
このように、ゼロから一人で始める場合、軌道修正をしてくれるメンターの不在は、ウイークポイントです。
陶芸家としてマネタイズするためには、市場へのアプローチは不可欠です。
結局のところ、市場と自身の間の壁は、客観性です。
自分の作品のポジションや方向性を、マーケット内で見つけ、それを自分自身で軌道修正していくことが必要になります。
▽ 独学が向いている人
他の特技を持っている
刺激のある環境に属している
トータルでみると、なかなかデメリットが目立ってしまいました…。それもそのはずで、独立=独学のようなものです。
何か前提となる強みを持っていない状態で、ゼロから陶芸のキャリアをスタートするのは、ハードモードです。
ただ、それでも独学を初めてから数か月で、すごい作品を作ってしまう方もいます。
(私は才能というものは信じていないのですが、こういう方は100%楽しんで日々制作しています。これは、陶芸と自身の親和性が高い例かと思います)
しかし、一生陶芸家として生きていくとすると、どうしてもマーケットの動向に連動しなければいけないタイミングが出てくると思います。
要するに、スタイルや技法を変えなければいけなくなる(変えたくなる)ことがあるのです。
この時に活きてくるのが、初期段階での偶発的なインプットです。知らないことを知ることができた。これが後に役立ってきます。
シンプルに、知識・技法の選択肢が多くなり、可能性が広がるということです。
これを補填できるかどうかが、独学では重要になります。