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「陶芸家になるには」ーマーケット編ー 2 < スタイルのピラミッド >
スタイルのピラミッド
スタイルの柔軟性
外の世界=マーケットは、広く、複雑に絡み合った世界です。例えると、とても大きな海原で、ところどころ他の海(ジャンル)と繋がっているようなイメージです。
この広く、様々な要素が絡み合った世界を、一個人がコントロールすることは、ほぼ不可能に近いと考えています。
では、海原を上手に航海するにはどうすればいいのか…
そこでポイントになるのが、「スタイルの柔軟性」です。
ここでいう柔軟性とは…「マーケットの流れに、自身のスタイルが、うまく乗ることができるかどうか」です。
レジェンド級のミュージシャンは、未だにヒットを生み出し続けています。
この方々は自身のスタイルを保ちつつも、時代の潮流をうまくとりいれています。
例えば、私の大好きな山下達郎さんは、当時のアメリカン・ウエストコース・トサウンドを軸として、最近ではファンクや、ソウルフルなビートなど、時代に合わせた要素を入れ込み、定期的にヒットを生み出しています。
これは、彼のスタイルに、柔軟性があるから可能なのだと、私は分析しています。
彼の強みは、歌声と編集力。
これは、音楽というマーケットの中で、柔軟に対応できる武器です。曲のジャンルが変わったとしても、うまく適応し、かつ、彼だとすぐに分かる「スタイル」を持ち合わせています。
そして、スタイルを持ちつつも、常に時代を見てアップデートしていく貪欲さ。
これも必要不可欠です。
対して、これが技術や素材(音楽の場合、楽器など)に寄っているスタイルだとすると、柔軟性は低くなります。
ジャズ界のレジェンド、マイルス・デイビスは、キャリアの後半、エレクトロやヒップホップを取り入れた作風に傾倒し、下火になったジャズ界からの移行を図りました。
しかし、その作品がマスターピースとなったかというと、疑問が残ります。(完全に個人的見解です)
ヒップホップというジャンルは、楽器に縛られない新たな発明で、マーケットの流れをガラッと変えるゲームチェンジャーでした。
そこに、彼の神がかったトランペット技術を導入しても、違和感が先行してしまいます。
彼のスタイルは、楽器演奏の技術力と熱量でした。
これは、ジャズというジャンルでは、他に類を見ないほどの相性です。しかし、時代の流れに柔軟に対応できる「スタイル」ではありません。
このように、作り手のキャリアを長い目で見ると、マーケットでの最適な生存戦略が、スタイルにより異なってきます。
そこで重要になるのが、「自身のスタイルはどのポジションにあり、どのくらい柔軟性があるのか」を知ることです。
柔軟性のピラミッド
まずは、陶芸家のスタイルを構成する要素として考えられるものを、3つにグループ分けします。
「素材」:土、釉薬など(ex. 自家採取した土、オリジナルの釉薬など)
「技法」:造形方法・テクニック、焼成方法(ex. 極めた轆轤技術、独特の技法など)
「主体性」:作家の世界観(ex. 概念的に形容可能な作家性)
そして、このグループを依存関係を元に配置していくと、ピラミッド構造となります。
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例えば、
主体性(作家の考え)から、技法を選ぶ。
素材が変わっても技法があれば応用できる。
など、上の要素は下の要素が無いと、成り立ちません。
そして、このピラミッドにより、マーケット内での「柔軟性」が分かります。
上に行くほど柔軟性が低くなり、下に行くほど高くなります。
自身のスタイルが、これらの構成要素の、どの部分に重きを置いているかで、マーケットでのポジションがわかります。
ピラミッドの注意点
① スタイルには三つの構成要素が不可欠
3つの要素はすべて、作品制作にとって必要不可欠です。どれか一つが欠けていたとしても作品は仕上がりません。
例:素材が無ければ、作品にはなりません。
② 主体性を重視すればよいのか?
「柔軟性のピラミッド」を見て、「主体性」重視のスタイルにすればいいのでは?と考えると思います。
これは、マーケット調査をして、どこに需要があるかを見定めてから、スタイルを決める方法と同義です。
単発のビジネスとしては効率の良い戦略ですが、陶芸家として長いキャリアを歩んでいく上では、おすすめしません。
理由は、
純粋に楽しめない可能性があるから
マーケットの需要は移ろうから
です。
第一章でも、楽しむことの大切さを述べてきました。
結局は、「マーケットありきのスタイルに、情熱を注げるか?」ということになります。
性質は人それぞれです。
主体性重視の作風に向いている人もいれば、無心で技術を極めていくことに向いている人もいます。
情熱を持ち、楽しめないと、期待・予想・実力を超えたものを創れません。
なにより、モチベーションが続きません。
2つ目に、マーケットの需要をピンポイントに狙っても、5年後には変わっています。
変わる需要を追いかけ続ける戦略も可能ですが、こうなると「数の経済」、すなわち大きな企業との競争になってきます。
航海図=「柔軟性のピラミッド」
注意点で指摘してきたように、どこにスタイルの軸を振っていけば生存しやすいか、というよりも、「自身のスタイルが、どこのポジションにあるか見極めて、マーケット内での戦略を立てる為の指標」がこのピラミッドです。
つまり、「スタイル」を見つけてから、「ポジション」を確認する。
軌道修正として使うべき指針です。
この考えを踏まえて、スタイル編を先に持ってきています。
そして逆説的になりますが、自身のスタイルを持ちつつ、マーケットの需要を探ることは、とても重要です。
まずは、
自分のポジションを知る。
考えられるキャリアルートを知る。
そして、スタイルを活かしながら、マーケットを柔軟に航海する
この航海工程を先に頭に入れておきましょう。
そうすれば、どんな嵐が来ても、自分の位置を知りながら、荒波を航海し続けることができます。